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第百六十四章 贋金貨の混迷 7.テオドラム王城

「……ヤルタ教だと?」



 テオドラム王城の会議室、自国を揺るがした贋金造りの足取りを追わせていた兵士からの報告に、国務卿たちは揃って顔を(しか)めた。



「……何でまた、こんなところでヤルタ教などが出てくるのだ?」

「いや……これがまた怪しげな話でな、捉えどころが無いというか……」



 そう言ってレンバッハ軍務卿が報告した話は、確かに眉唾ものの話であった。



「……あからさまにヤルタ教を名指ししているくせに、所在や消息の知れた目撃者とやらが一人もおらぬ……()(さん)臭い事この上無い話だな」

「だが、注目すべき点が無い訳ではない」



 そう言ったのはメルカ内務卿である。



「ほぉ……? 聞かせてもらえるかな?」

「第一に注目すべきは、この噂がポツポツと聞こえ始めたのは贋金騒ぎよりもずっと前だという事だ」

「ふむ……何者かは知らぬが、この与太(よた)(ばなし)を流した者は、その時既に贋金の件を知っていたという事か」

「見方を変えれば、その頃には既に贋金の仕込みが終わっていたとも考えられる」

「ふむ……」



 成る程、これは意外に重要な点だ。(かい)(ちゅう)の話自体はそれより前に決まっていたが、実際に新金貨を鋳造したのはそれより後の事だ。



「つまり……当初想像したように、外に出回った新金貨を手本にして贋金を造ったとは考えにくい訳だ」

「うむ。何者かが地金だけをすり替えて、ゲルトハイム鋳造所は贋の地金で金貨を造らされた……そういう事になるだろう」

「従来言われてきたような贋金とは一線を画す訳だな」

「単に地金だけが目的なら、ここまでの手間をかける必要は無い筈。これはやはり……」

「金銭ではなく、我々に対する敵対行動の一環と捉えるべきか……」



 難しくも厳しい表情を隠せない国務卿たち。テオドラムに対する明確な敵意。そして、はっきりとそれを抱く敵対者。この件の裏にそういったものが存在する事が確かとなったのである。



「一体何者が……」

「それを論じる前に、もう一つの点を指摘しておきたい」



 内務卿の言葉に顔を上げる一同。そう言えば、先程彼は〝第一に〟と言っていた。



「……続けてくれ」

「うむ。ヤルタ教に対する指弾が根も葉も無いものだとして、ヤルタ教の態度がどうも煮え切らぬような気がするのだよ。もう少しきっぱりと否定してもよい筈ではないか?」

「……確かに……言われてみれば、妙に腰が引けていると言うか……」

「傲岸不遜なところのある、あの教団にしては妙な話だな」

「まさか……本当に……?」

「いや、それはあるまい。ヤルタ教にとって何の益も無い筈だ」

「ふむ……ヤルタ教の場合は、証言はあるが動機が無い。亜人どもの場合は、動機はあるが手段に欠ける。イラストリアの場合は……」

「手間暇をかけている割には、効果が低い気がせんか?」



 ウォーレン卿たちが抱いたと同じ不審を、テオドラムの国務卿たちも抱いていた。



「……動機や目的に関しては後回しにしよう。今は実行犯と目されるこのエメンという男の足取りを追う事だ」



 どこかウンザリしたような口調でラクスマン農務卿が提案し、全員がそれに同調する。こんなややこしい話、これ以上続けたくはない。



「……そう言えば……その件でイラストリアに問い合わせをしていたと思うが?」

「エメン追跡隊とやらの事だな? 向こうでもエメンの所在は掴めておらぬらしい。担当者が困惑した様子で答えたという報告が上がっている」

「待て……もしもイラストリアが全ての黒幕だとしたら、エメンの件を騒ぎ立てたのはおかしくないか?」

「被害者面をして、こちらの追及を(かわ)す腹なのかもしれんぞ?」

「いや……(そもそも)イラストリアが言い出さなかったら、我々はエメンの名も知る事はできなかった筈だ」

「それは結果論だろう。それこそイラストリアには予測できなかった筈ではないか?」

「いや……しかし……」



 テオドラムの混迷は深まる一方であった。

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