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第百六十四章 贋金貨の混迷 5.王都イラストリア(その2)

 驚愕する軍人二人。国王は事前に報告を受けていたのか驚く様子は見られないが、その代わりに途方に暮れたような表情を浮かべている。


 実は、これはクロウの仕込みであった。贋金絡みでエメンの足取りを追うと、ヤルタ教に辿(たど)り着くように噂を流していたのである。

 何しろ、エメンがヤルタ教に拉致された挙げ句に殺されたのは事実。被害者(エメン)の証言を基に事実に即した噂を流すのだから、内容は極めて真に迫っている。クロウは配下のアンデッドたちに命じて、エメンがヤルタ教と一緒にいたという噂を、長い時間をかけてそれとなくばら()いたのであった。

 (もっと)も、殊更(ことさら)耳に入り易く小細工をしておいた訳ではないので、ルボワ卿が早々にこの噂話を掘り当てたのは、極めて幸運であったと言える。



「ローバーが驚くのも無理はないが……ルボワ卿がこの手の事に才覚があるのは知っておろう?」



 どこかむっつりとした様子で口を挟む国王と……



「……あの(あん)ちゃん――当時――にゃ、(つま)()いを(ことごと)く見破られましたっけね……」

「アリサの目を盗むのに成功しても、ルボワには必ず見つけられたな……」



 そして、子供時代の連敗の記憶を思い出して、国王共々憮然とする将軍。そんな二人をちらりと眺めて咳払いをする宰相。



「……そろそろよいかな? ルボワ卿の才覚は、部下を使って探らせるようになっても相変わらずらしく、()くの如き大ネタを発掘してきた訳じゃ。まだ充分な裏が取れておらんそうじゃが、重要性に(かんが)みて敢えて報告したと言うておった」

「……確かに、無視できない報告ではあります」

「Ⅹが黒幕かと思いきや、ヤルタ教がちらついてくるたぁ……」

「それも含めて、全部がⅩの仕掛けという可能性もありますけどね」

「……それ以外の可能性もあるって言いてぇのか?」

「今の段階では、その可能性も排除はできません。黒幕はⅩなのかテオドラムなのか、それとも沿岸国なのか。マーカスやモルヴァニアとて無視はできません。敢えて申し上げれば、鍵となるのはエメンの行方(ゆくえ)でしょう」



 そう釘を刺すウォーレン卿に応じたのは宰相である。



「エメンの行方(ゆくえ)についてはいまだ(よう)として知れぬようじゃが、他の国々については外務のマルシング卿から報告が入っておる。一通り探ってみた限りでは、今回の件にはどの国も戸惑っておるらしい」

「小芝居じゃねぇんですかぃ?」

「それ以前にじゃ、マーカスにせよモルヴァニアにせよ、新金貨の入手という点で難がある。エメンとの繋がりも見つかっておらんようじゃしな」

「てぇと……やっぱり臭ぇのはⅩ、次点でヤルタ教ってとこか」

「そう決めつける前に、Ⅹの正体もしくは共犯として、沿岸国について検討してみませんか?」

「あぁ……そう言やぁ古酒の件で、沿岸国に疑いが出ていたっけな……」



 贋金騒ぎの黒幕もしくは一味として沿岸国を考えた場合……



「前にも言ったように、見本となる新金貨をどこから手に入れたかという点が問題になります。しかし、黒幕ではなく共犯者と考えた場合はどうなのか」

「……商人どもに何の利益があるってんだ?」

「ローバーの言うとおりだな。敢えてテオドラムを陥れるまでして、得られるものがあるとは思えぬ。Ⅹから報酬を貰ったという事はあるかもしれぬが……」

「つぅか、Ⅹが共犯者を持つ必要があるのか?」

「前回は、古酒を沈没船から引き揚げたという話から、沿岸国の協力という筋が出てきた訳ですが……今回の贋金の件も考慮に入れると、沿岸国と結託というのは無理筋のような気もしますね」

「ふむ……前回生じた容疑が、今回の件で消えたという事かの」

「とりあえず、容疑が薄くなったというところでしょうか」

「――てぇ事で、Ⅹの容疑が濃くなった訳だが……動機は何だってんだ?」



 ローバー将軍の呈した疑義に、難しい顔をして考え込む一同。



「問題はそれです。何を意図したものなのかが解りません」



 砂糖の時には、経済的な効果はともかく、砂糖という外交カードの無力化という効果があった。また、ノンヒュームたちの産業振興の布石と見る事もできる。

 しかし、今回の贋金騒ぎは……



「贋金騒ぎの結果、物資の購入が少し面倒になったという事はあるかもしれません。テオドラムが保有する金の一部が紛いものにすり替えられたというのもあるでしょう。ただ……Ⅹにしては()(ぬる)いという気がするんですよね」

「ふむ……確かに」

「岩窟なんかでやらかした事に較べりゃあ、確かに()(ぬる)いですな」



 実は行き当たりばったりにクロウが嫌がらせをしているだけなのだが、(クロウ)の評価が過大なために、真相には思い至らない一同であった。

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