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第百五十二章 怨毒の廃坑 8.軍曹(サージ)ネス(その2)

「貴様らはぁ、何だっ!?」

「「「ウジ虫であります! 教官殿(サー)!」」」



 目の前で展開されている光景に、クロウは内心で頭を抱えていた。いや、言い出しっぺは確かに自分だが……それを否定するつもりは無いが……しかし、こんな展開を予想していた訳ではない。断じて違う。


 モニターの中では、竹刀を担いだジャージ姿のネスが、部活の鬼コーチよろしく皆を(しご)いていた。……そう、()を。



「そうだ! 貴様らは()(ざま)なウジ虫だ! 這いずり回る事しかできん、虫けら以下の存在だ! そんな貴様らを、敵は見逃してはくれんぞ!」

「「「イエス! サー!」」」


 あぁ……映画か何かで見たな、こんな光景……


「そんな貴様らに、ダンジョン様はお情け深くも訓練の場を与えて下さった! そのご恩に報いるためにも、せめて敵から逃げ回る事ぐらいの事は身に付けろ!」

「「「イエス! サー!」」」


 せめて(ダンジョンさま)を巻き込まないでほしい……。

 やっぱり、特訓と言えばアレしか無いと、海兵隊のブートキャンプの事を教えたのが(まず)かったか? ネスのやつ、予想外に食い付いてきたからなぁ……。



「今日も貴様らを半殺しにしてやるから、ありがたく思え! 特訓で死ぬ事は無いのだからな! ここで半殺しになった回数が多いほど、実戦で生き延びる事ができると思え!」

「「「イエス! サー!」」」

「では、駆け足! とろとろ走っているやつは、後ろからファイアーボールの的にしてくれるぞ!」

「「「イエス! サー!」」」



 ネスの号令一下駆け出したのは、最初に特訓(シゴキ)を始めた気弱なネクロマンサー――名前はスキットルというそうだ――と、後から自主的に参加するようになった村人たちである。地球風の準備運動から始まり、荷物を背負っての駆け足、ダッシュ、()(ふく)前進、懸垂、木登り、ロッククライミングなどの基礎訓練、更にはネスの撃つファイアーボールを避ける訓練――スキットルは涙目になっていた――や護身術程度の剣や短剣、格闘技術のメニューをこなしていく。

 最初の頃は好奇の目で見ていた村人たちも、やがてこの訓練の意味と価値が解ってきたらしく、参加を希望する者が増えてきた。ネスから相談を受けたクロウは、指導担当のネスに異存が無いのならという条件で、それを許可したのであるが……まさかこんな大所帯になるとは思わなかった。既に三十人近い研修生(・・・)たちが訓練に参加している。

 どう考えても人数が多過ぎると不審に思っていたが、聞けばこの村だけでなく、近隣の村からも参加があるそうだ。ダンジョン村に対するテオドラム兵の仕打ちを目にして、もはや王国は当てにできないと、自分たちで身を守る事を考え始めたらしい。ダンジョン村が事実上テオドラム王国の敵対勢力となっている事を考えると、準軍事訓練と言えそうな行動である。



(しかし……まさかこんな事になるとは思ってもみなかったな……)



 最初ネスがスキットルを叩き直すと聞いた時には、てっきり魔法の訓練をするものだと思っていた。他の連中もそう考えていたみたいだが……



「身体の弱さは心の弱さ!」



 ――と主張するネスの熱心な提言に従って、まず身体能力の底上げから始める事になった。



「要するに、あの若者が抱える問題は、自分に自信が無い事が大元にあります。ここで苛酷な訓練を経験すれば、自分はあの特訓を耐えてきたのだという自負が生まれる。無論、それだけでは大して役に立ちませんから、魔術や死霊術の訓練も合わせてやる必要がありますが、とにかく苛酷な訓練をこなしたという自負を与えるのが大事です」

「……一種の洗脳だな?」

「ある意味では。教育という言い方もできますが」



 多少的外れでも特訓を乗り切れば、少しは自信もつくだろうというネスの指導方針はクロウも理解できたので、参考になればと思って米海兵隊や特殊部隊の訓練方法を教えたのだが……本質的な部分で体育会系であったらしいネスがこれに食い付いた。お蔭でDVDやら解説書やらを延々と見続け読み続け、念話を介してイメージを共有する事で、どうにかトレーニングの内容などを教える事ができたのである。



『はぁ……ダンジョンマスターって、凄く色々な事ができるんですねぇ……』


 いや、ウィン。多分だが、普通のダンジョンマスターの仕事ではないように思うんだが……



・・・・・・・・



「遅い! 遅過ぎるっ! 貴様らぁ、死にたいのかっ! そんな鈍臭(のろくさ)い動きで、敵の攻撃を(かわ)せるかっ!」

「「「申し訳ありません! 教官殿(サー)!」」」

「最初っからやり直し! グズグズするな!」

「「「イエス! サー!」」」



「あんたも参加してみる? カイト」

「退屈だって言ってたよな?」

「……遠慮しとくわ」



・・・・・・・・



「この一ヵ月、()く訓練に耐えた。最初入ってきた時の貴様らはウジ虫だったが、どうにか羽虫ぐらいには成長したな。敵に遭っても、最低限、逃げ回る事ぐらいはできるだろう」

「「「教官殿(サー)……」」」

「ここではこれ以上教える事は無い。あとは自分たちで、あるいは他の師に付いて、技倆の研鑽に努めるがよい」

「「「教官殿(サー)……」」」

訓練所(キャンプ)を卒業した貴様らは、(かり)()めとは言え我が弟子のようなもの。(わし)の顔に泥を塗るような行ないをするでないぞ?」

「「「教官殿(サー)……」」」

「己が信じる道を進むがよい。各自、解散!」

「「「イエス! 教官殿(サー)!」」」



 春まだ肌寒い、三月下旬の事であった。

次話が短いので、ついでに公開します。

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― 新着の感想 ―
仰~げば~ 尊し~♬ 我が~ 師の~ 恩~♪
[一言] 春まだ肌寒い、三月下旬の事であった。 なぜだろう。ひと昔前の8月下旬、夕陽をバックにして汗臭い(漢クサイ)イメージが・・・
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