第七十七章 オドラント 1.不毛の地
少し短いです。
ビール造りの時にふと思いついた、オドラントのダンジョンを工場あるいは実験場に使うという案は、そう悪くないように思われた。今後は酒以外にも色々と造るものが多くなる筈だしな。そう考えて、ダンジョンコアや眷属たちに相談してみたところ……。
『いいのでは……ないで……しょうか』
『クロウ様の仰るとおり、実験開発の拠点は必要ですしね』
『オドラントのダンジョンとやらは、まだ手つかずなのでございましょう? ならば問題はないかと』
『マスター、食べ物なんかも、そこで作るんですか?』
……まあ、大体のところ賛意を得る事ができた。なので、改めてオドラントの地に来てみたんだが……見渡す限り荒涼という感じだな。本当に草木の一本も生えていないように見えるが……何か理由があるのか?
『ふむ。トレントの呪いじゃと言われておるのう』
『爺さま、何か知っているのか?』
『ま、昔の話なんじゃが……』
そう言って爺さまが話してくれたのは……
『元はモンスターが跋扈する森林だったんじゃが、テオドラムの民がここを農地化しようと目論んでのう。苦労してモンスターを討伐し、森を焼き払ったわけじゃが、森と見えたのは実はトレントの大群落でな』
わぁお……。
『討伐されたトレントの呪いなのか、農地化はおろか一切の草木が生えんようになってしもうた。それからは風雨に曝されて土が流れ、今のような荒れ地となったわけじゃ』
ふうむ……。爺さまの話の通りだとすると……単一種のトレントの大群落という点で思い当たる節があるな。アレロパシー……忌地現象のせいじゃないのか? トレントが長年にわたって分泌してきたアレロパシー物質により土壌が汚染されて、他の植物が生育できなくなっていた。加えて討伐したトレントから更に大量のアレロパシー物質が撒き散らされ、農地化はおろか植物の生育は絶望的となる。更に、トレントとはいえ地表を覆っていた植生が消失したため、地表侵蝕が進んで荒れ地となった。こういう流れじゃないのか?
だとすると……問題のトレントと同じ種類なら、緑化は可能かもしれんな。ま、探す手間までかけて緑化する必要はないか。目立つような真似はしないに限る。
ただ……地下に実験場だの工場だのを建てると、騒音や臭いが漏れる可能性があるか……。防音防臭対策は無論施すとしても……。
『旅人たちは実際にここを通ってるんだよな?』
俺の質問にはダバルが答えてくれた。
『このとおりモンスターも出ません――少なくとも先日までは出ませんでした――から、行商人などは大抵この辺りを通ります。呪われた地という事で、野営する者はいないようですが』
『ふむ……なら、地下のダンジョンは少し離れた位置に動かした方がいいか?』
『……そんな事が可能なので?』
『試してみたいスキルがある』




