第五章 ダンジョン 4-3.還らずの迷宮(その3)
少し短いです。
マリアたち三人は完全に道に迷っていた。主戦力と壁役を欠いた三人では、モンスターを相手どってどこまで戦えるか心許ない。幸いに、時折ケイブバットが襲って来る以外にモンスターの襲撃はなかったが、ほとんど唯一の戦力として絶えず緊張を強いられるマリアの精神的疲労は大きかった。
「ちっ! またケイブバットだ!」
「狭い通路じゃ大きな魔法は使えないわ! 引きつけて!」
『おぉ、こちらの魔術師は真っ当な判断をするな。ウォーターニードルで一匹ずつか、堅実だな』
『そこまで残念な集団ではないようですね。あ、回避しているうちに、回復役が転びました。足をくじいたようですが……回復しないんでしょうか?』
「フリン! 足を痛めたの?」
「大丈夫、大した怪我じゃありません。この程度なら無駄にヒールをかける必要はないです」
「魔力を温存してもらえるのはありがたいが、無理はするな。回復役が動けないんじゃ話にならん」
「この先何があるか判りませんし、魔力の無駄遣いはしたくありません。大丈夫です、やばくなったらすぐにヒールをかけますから」
「暗い、狭い、足場が悪い、おまけにケイブバットが襲ってくる。最悪ね」
「愚痴ってないで先に進むぞ。フリンは無理のないペースでついて来い」
「少し広い場所に出たけど……さっきの広場じゃないわよね?」
「窪地じゃないし、別の場所みたいですね。周りに幾つも通路が開いているのは同じだけど……このダンジョンの仕様なんでしょうか?」
「マリアとフリンは来た道の傍にいろ。間違っても広場に入り込むな。俺は少しばかり偵察してくる」
「待って! 一人じゃ危険だわ!」
「斥候職相手に何言ってんだ。大丈夫、やばそうな通路は選ばねぇ。あっちの、見通しのいい真っ直ぐな通路を探ってくる」
疲労していなければ、もう少しまともな判断力が残っていれば、もう少し想像力を働かせるゆとりがあれば、これまでと違って真っ直ぐ伸びている通路に、でこぼこのない平坦な床に、違和感を感じたかもしれなかった。しかし、今のギルにはそれを感じ取れるほどのゆとりは無かった。
十五分ほど経った頃、通路の天井が落下した。三十メートルにわたる通路の天井全体が。それも通常では考えられないほどの速さで。いくら斥候職が罠感知に長けているとは言え、これほど巨大な罠は予想できなかったろう。
轟音を耳にしたマリアとフリンは、ギルの身に何が起こったのかを間違えようもなく思い知った。そして自分たちを待ち受けているであろう運命も。
『残りは……三人か』
もう一話続きます。




