第五十二章 対空戦力 2.現物の入手
やっちゃいました、の第一弾です。まだ前座ですね。
……ちょっと待て。俺は地球世界でもダンジョンマジックが使えた筈だよな?
『……のう、クロウよ。またもお主から何やら不穏な気配が立ち上っておるような気がするのは、儂の思い過ごしかのぅ?』
いや? 俺が考えているのは、かつて戦場だった場所で戦車とか機関砲とかの残骸が手に入らないかという事だけだぞ? 祖父ちゃんの軍靴が錬金術で新品同様になったし、ひょっとしたら、とかな。
『俺の世界で機関砲の現物が手に入るかどうか考えていただけだぞ?』
現用品は無論の事、旧型でも実際に稼働するようなものは無理だろう。しかし、第二次大戦の兵器の残骸なら、そう無理な算段でもないような気がする。
『……確か、錬金術には「複製」っていうスキルがあったよな……』
ちなみに、この世界の錬金術でいう「複製」とは、自分で作成した事のある薬品などを多数作製する場合に使われるスキルであって、戦車や機関砲を複製するような目的では使われない。
『いや、錬金術の「複製」スキルは、そういう目的で使うものとは違う筈じゃぞ?』
そうなのか?
『まぁ、現物の入手については、向こうの世界に戻った時に少し調べてみよう』
・・・・・・・・
兵器の残骸を入手するとしても、陸上では人目があって無理だろう。狙い目は海中に沈んだやつか。となると、軍艦か飛行機だが、相手は最悪ドラゴンだからな、飛行機の豆鉄砲じゃ役に立たんだろう。なら、狙い目は軍艦だ。
……となると、探すべきは第二次世界大戦か、あるいはフォークランド紛争での沈没艦だな……。ダンジョンマスターとしての力を使えば、海中でも問題なく活動できるようだし。
あれこれネットなどで調べた結果、第二次大戦で沈没した一隻の巡洋艦が候補に挙がった。防空能力の高い巡洋艦であり多数の機銃を搭載していた事、沈没時に新造艦であった事、沈没原因が雷撃によるもので、砲塔や機銃座などの上部構造物が破壊されていないと考えられる事、沈没地点の水深がかなり深いため、物好きなダイバーなどもやって来ないと考えられる事、米軍も沈没地点の確実な座標を把握していないらしい事、などが決め手になった。
で、当該海域にやって来た俺は、ダンジョンマジックを使って海中を捜索した。俺の成算は死霊術にあった。死霊術にある死者捜索のスキルを使えば何とか見つかるんじゃないかと考えていたんだが……甘かった。長い歳月は死霊としての思念すら風化させてしまったらしく、中々見つからない。最後には錬金術の素材探索を使って、大量の鉄のある場所を探して、ようやく見つける事ができたんだが……。
(……この後、どうすればいいんだ?)
クロウは途方に暮れていた。
(巡洋艦一隻どころか、砲塔一基、いや機銃座一基すら持って行くのは無理そうだし……機銃一丁ぐらいなら何とかなるか?)
錆び付いた上に貝殻やら海草やらがこびりついたそれを取り外すと考えただけで気が遠くなりそうだったが、可愛い従魔を守るためだと気合いを入れ直すクロウ。とは言え、少しでも楽な……もとい、省エネの方法は無いかと頭を捻った挙げ句、困った時にはダンジョンマジックだとばかりに、巡洋艦一隻丸ごとのダンジョン化を試みる。正直なところ、クロウも上手くいくとは思っていなかったが、なぜかダンジョン化は成功し、同時に、ダンジョンの詳細な構造が、クロウの頭の中に入ってきた。
……砲塔や機関砲の構造なども含めて。
ダンジョンマジックの便利さに内心呆れたクロウであったが、終わりよければすべてよしとばかりに、ダンジョン化したばかりの巡洋艦から、レブのいるクレヴァスダンジョンに転移を試みて……あっさり成功する。
『……クロウ様、また突然のお越しですが、何か急用でもできましたか?』
『あぁ、多少古いが、軍艦砲と機関砲の現物が手に入った。それ自体は錆び付いていて使えんが、詳細な構造は俺の頭の中に入っている』
『!?』
程無くして、クロウ一味のダンジョンに対空兵装としての四十ミリ連装機関砲が加わった。
やっちゃいました、の真打ちは明日。
それと一つ告知。活動報告にも書きましたが、さすがにストックが心細くなってきましたので、次の二百話からは申し訳ありませんが一日一話更新にさせて戴きたいと思います。ストックが順調に貯まれば、一日二話更新に戻すかもしれません。




