第三百十五章 「クレヴァス」を巡る幾つかの事情 2.クラブとペスコの事情(その2)
ここに至ってペスコにも、クラブの懸念が理解できた。
アヤワト村の先の石窟遺跡から、こっそりお宝を頂戴してきた身としては、注目を集めるような真似は慎むべき、それは解る。
しかし、だからと言って、貴族家当主直々の依頼をすっぽかすような真似をするのは……
「慌てんなよペスコ。要は俺たちが〝目立たねぇようにお坊ちゃまに会う〟事ができりゃあいいんだからよ」
「そ、そりゃそうかもしんねぇけどよ……」
そんな都合の好い……いや、都合の好過ぎるシチュエーションが、どこに転がっているというのだ。
「だから慌てんなって。昔から〝木の葉を隠すにゃ森の中〟って云うだろうが。その伝でいくと、俺たちが目立たねぇ状況ってなぁ、大勢が王都に集まる時になる理屈じゃねぇか」
「お? おぉ……そうなんのか……」
「で――だ。イラストリアに大勢が集まる時ってなぁ、こりゃもう新年祭と五月祭しきゃ無ぇだろうが」
「お、おぉ……な、成る程な」
混雑の骨頂は、ノンヒュームが出店を出すここバンクスやサウランド、リーロット。次点でシアカスターとエルギンであろうが、王都もそれなりに人は集まる筈。人混みに紛れて学園関係者に接触するのも容易だろう。
「俺たちみてぇなド平民が、お貴族様のお坊ちゃまに面会なんてできる訳ゃ無ぇ。けどな、それならそれで伝言で済ませりゃいい訳だ」
「お、おぉ……成る程な」
「他の学生か職員か、何なら門番に頼む手もあらぁな。とにかく王都に行きゃ誰かしらいるだろうよ」
自信満々に言い切るクラブを賛嘆の目で眺めるペスコであったが……彼らが誤解している事があった。
抑クラブとペスコの二人は、子供の時分に村の大人から読み書き計算ぐらいは習ったが、学校なんてものにはとんと縁の無い生活を送ってきた。
従って、長期休暇とか帰省とか個人情報の保護とか……そういった事は端から頭に無かったりする。
冒険者が伝言を頼まれる事は割とあるので、それと同じノリで伝言くらいはできると思っていた訳だ。
まぁ確かに、運が好ければ街中で適当な相手に出会して、伝言を頼む事もできなくはないだろうから、その点では現実的と言えなくもない。
「ただな、マナステラでも新年は開いてない店も多かったからよ。ひょっとしたら学園ってとこも同じかもしれねぇ」
「ど、どうするんだ?」
「そりゃお前、新年祭より少し早めに王都に行くしきゃ無ぇだろう。後は適当な相手を見つけて言伝を頼む。そうすりゃ目立たずに依頼達成って寸法よ」
「おぉ……」
成る程さすがはクラブである。これで伝言ミッションは成ったも同然(笑)。
そうすると、残る問題は……
「それまでの間、どこかで時間を潰す必要が出て来た訳だ」
今は九月の半ば。年の瀬まではまだ三カ月以上ある。
「ま、まずは冒険者ギルドに行って到着報告。そのついでに適当な護衛依頼か何か無いかどうか、一つ見繕ってみようじゃねぇか」
……とまぁ、斯くいった次第で冒険者ギルドを訪れた二人は、そこで恰好の依頼を見付ける事になったのである。




