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挿  話 薩摩芋

日本の風物詩ネタです。

 ()()べて罠というものは、予想しない時に予想しない場所で作動する事で最大の効果を発揮する。そうして、この手の「罠」は日常にも何気ない振りをして紛れ込んでいるから始末が悪い。


 俺の場合、その罠は焼き芋屋の売り声という形で現れた。



「石焼ぁ~き芋ぉ~♪ 焼ぁ~き立て♪」


 焼き芋屋の売り声が街に響く頃になると冬を感じる。甘藷(かんしょ)……薩摩芋の収穫は秋だけど、掘ってすぐよりも二ヵ月ほど貯蔵した方が、澱粉(でんぷん)が糖に変化して甘みが増すからな。美味しくなるのは十二月から二月というものが多い。


「マスター、アレって、何ですか?」


 表向きは「樫の木亭」での夕食後に部屋に引き取った事になっているが、その実は久々に従魔たちをマンションに連れて来ている。自室で(くつろ)いでいた俺の耳に聞こえてきたのが(くだん)の売り声だった。


 自室にいる安心感で気が(ゆる)んでいたのか、キーンの問いに対して深く考えずにさっき述べたようなアレコレを開陳してやる。美味しく食べるために二ヵ月ほど貯蔵するという事は、キーンにとってはちょっとしたカルチャーショックだったみたいだ。そしてカルチャーショックは容易に興味へと変質するわけで……。


「マスターっ! 僕っ、焼き芋って、食べてみたいです!」


 あぁ……そう言えばコイツは食の探求者(くいしんぼ)だったな……。コイツに食い物の話は鬼門だった……。


 俺が自分の失言に気づいた時には既に遅く、瞳をキラキラと輝かせたキーンがこっちを見つめていた。当然俺には(あらが)える理由(わけ)もなく……。



「らっしゃ~い」

「小父さん、この焼き芋って、品種は?」

「今日は紅あずまと金時(きんとき)安納(あんのう)芋だね」

 へぇ……三種類もあるのか……。


「今日はって……日によって違うって事?」

「あぁ。昨日は紫芋があったんだけどね。売り切れたから」

「紫芋って……焼き芋に向いてるの?」

「紫芋と一口に言っても、色々と種類があるからね」

 へぇ……。


「三種とも二本ずつ下さい。それと……小父さん、この付近にはよく来るの?」

「今月一杯は来るよ。またのお越しを」


 紫芋の焼き芋というのは俺も食べてみたい。また今度買いに来よう。



「ほらよ。お待ちかねの焼き芋だ。三種類あるから食べ比べてみるといい」


 こう言うと皆が戸惑ったようにこちらを向く。


「三種類?」

「あぁ、一口に薩摩芋と言っても種類は様々だしな。味わいもかなり違うんだ。ここにあるのは、薩摩芋の中でも焼き芋に向いた品種のうち三種類を焼いたものだ」


「種類に……よって……どの料理に……向いているか……違うのですか?」

「そうだ。焼き芋に向いたもの、菓子に向いたもの……酒の材料に向いたものなんかもあるな」

「ご主人様の世界には、様々な作物があるのでございますな……」

「まぁ、それはいいから、冷める前に食べろ。あぁ、ただし食べ過ぎない方がいいかもな」


 少し脅かしておくか……。


「……なぜですかぁ?」

「薩摩芋ってのは繊維質が多くてな、やたらと腹にガスが溜まる……つまり、屁が出やすくなるんだよ。すぐに出ないと、少し腹が張った感じになるかもな」


 そう聞くと皆は少し躊躇(ためら)うようだったが、例外が一人いた。


「そんなの、実際に食べてみないと判りませんっ!」


 うん、キーン、お前はいつもブレないな……。

この手の話になると、キーンが大活躍します……。

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