プロローグ ある少女と少年の出会い
長編を書き始めました!
お付き合いいただけると嬉しいです!
雪が降っていた。
日が暮れかかる街に街灯が灯り、輝きながら落ちていく雪を、ノエルは幻想的に感じた。
「きれいだなぁ……」
街の片隅で膝を抱え、寒さと飢えを感じながらも、そうつぶやいた。
ノエルは、ここから少し離れた村で暮らしていた。
八歳になる今まで、村から出たことはない。
母と二人、貧しかったが、穏やかな生活だった。
つい先月、母が亡くなるまでは。
はじめはただの風邪だった。
しかし、ぎりぎりの食べ物しかない生活の中で、徐々に母は体が弱っていった。
薬を。栄養のある食べ物を。
同じ村の人たちに頭を下げて頼み込んだが、譲ってもらうことはできなかった。
村の人間たちが、特別意地悪だったわけではない。
去年の冬は餓死者が出た。
今年も豊作だったわけではなく、冬の足音はもうそこまで来ている。
余裕がないのだ。
「問題」を抱えた私、その私を育てる母。
いい顔はされなかったが、迫害されていたわけではない。
村の男との結婚の話も何度か持ち上がった。
母がとても綺麗な人だったからだろう。
しかし、母は断り続けていた。
私には父がいない。
どうやら、村に魔獣が現れたとき、退治してくれたハンターに母が見初められ、母も助けてくれたそのハンターに惚れたようだ。
そうして生まれたのが私らしい。
その「父」は、母の妊娠を知る前に、いつか迎えに来る、と言い残して村を去ったそうだ。
それから私が八歳になる今まで、迎えには来ていない。
その「父」を待ち続けるために、母は村の男との結婚を拒んだ。
「必ず来るからね、大丈夫だからね」
夜毎私を強く抱き締め、母はそう言っていた。
まるで、自分に言い聞かせるように。
村の人々は、母には聞こえないように、しかし口々に「戻ってくるわけがない。いいように騙されたんだ」と言った。
私は反論したかった。
「父さんは必ず、母さんを迎えに来るんだよ」って。
でも、実際にそうすることはなく。
そしてとうとう、待ち続けた男の顔を再び見ることなく、母はこの世を去ってしまい。
自分も、父が母を迎えに来ることを信じていなかったことに気づいた。
「おかあさん……」
母が亡くなったことで、ノエルを育ててくれる人はいなくなった。
もとより、貧しい村だ。
自分たちの家族を守るだけで精一杯。
今年の冬を越すための食べ物だって、足りていない。
ノエルは、家と畑を買い取ると言われ、数十枚の銅貨とともに村から追い出された。
これについても、ノエルには不満はなかった。
「あんな状態」になった家を買い取ってくれる上に、母もちゃんと埋葬してくれると言うのだ。
むしろ、お金を渡してもらえただけありがたい。
だって、ノエルと一緒に口減らしとして追い出された数人の老人たちは、銅貨一枚、パン一つすら持たせてもらえなかったのだから。
再び、雪の降る街を見る。
通りには、傘を差して歩く人、行き交う馬車が見える。
みんな、しあわせそうに見える。
必死の思いでこの街にたどり着いてから、もう十日。
銅貨一枚で買えるのはパン一つ程度。
節約しながら使っていた銅貨もすでになく、素性の知れないみすぼらしい子供を雇ってくれるような人もいなかった。
もう二日、何も食べていない。
「おなか……すいたな……」
空腹すぎて、もうお腹も鳴る元気がない。
「最後におなかいっぱい、食べてみたかったなぁ……」
昨年の冬も餓死者が出て、今年も口減らしをするような村では叶わない。
ささやかだけど、叶わない。
そんな夢をつぶやき、目を閉じようとしたとき。
「おなかいっぱい食べたい、か。まだ生きているようだね」
知らない声が聞こえた。
「ロビン。この子を馬車に連れてって」
「セイラス様、それはちょっと……」
「早く」
「ですから、それは」
「何度も言わせないで。連れてってと言ったよ」
「……はぁ。どうなっても知りませんからね」
……人さらいだろうか?
会話からそんな想像をしていたところ、目の前に誰かがしゃがむ気配がした。
「誰……?」
残り少ない力を振り絞って目を開けると、そこには自分と同じくらいの少年がいた。
感じたイメージは、闇のような少年。
仕立てのよい黒い服に黒い外套、黒い髪。
しかし「黒い少年」ではなく、「闇のような」
と感じたのは、その黒い瞳のせいだった。
目が合った瞬間、吸い込まれ、落ちていくような錯覚。
それに加えて、すべてを見透かされるような。
そんな、瞳だった。
「僕が誰かは、どうでもいい。このままだと死んじゃうよ」
年相応の高い声で、少年は語りかける。
「このまま凍死か飢え死にしたくなければ、馬車に乗って」
「……はい」
即答した自分に少し驚きながら、少女は答えた。
その瞬間、少年は自分が着ていた外套を少女に羽織らせる。
「ロビン、聞いたね? すぐに運んで」
「はいはい、了解しましたよっと。どうなっても俺は知りませんからね?」
ロビンと呼ばれた、騎士の鎧を着た男が、見た目の巨体に似合わない優しい手つきで少女を持ち上げる。
そのまま馬車まで運び、座席に横たえた。
少年は少女の反対側の席に座る。
雪も風も入らない馬車の中はとても暖かかった。
ロビンと呼ばれた男が御者台に乗ると、馬車はゆっくりと動き始めた。
これは、夢だろうか?
限界を迎えていた体力。
少年の外套に包まれながら、程なく少女は眠りについた。
「……母さんの、言うとおりだった」
つぶやいた少年の言葉は、横たわる青い髪の少女の耳には届かなかった。
「キミが、僕の希望なんだね」
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