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堅物騎士様のかわいい秘密を知ったら、延々と二人で会う約束を取り付けてくるのですが?  作者: まな板のいわし


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エピローグ

 早朝、皆がそれぞれ仕事を始める頃、夜勤を終えたラシェルは帰路につく。帰る先はもちろん、ベルナールと一緒に住んでいる家だ。


「ただいまー」


 家に誰もいないとしても、ラシェルは必ず声をかけるようにしている。というのも、玄関の隅に置かれた棚の上には、ベルナールがラシェルにくれた羊のぬいぐるみ、クランとレモニーがいるからだ。


 少し前に毛刈りの季節を迎え、毛代わりのもこもこの白い手編みのセーターは脱がされている。羊の淡い肌色だけでは少し寒々しく見えるかもしれないが、今はベルナールが編んだレースのリボンが首にあしらわれている。かわいい。


 毛刈りといえば、ベルナールと手芸店で会ったのもこの時期だったっけ。


 羊の毛刈り……羊毛を手芸用品店へ納品したときに、偶然買い物中のベルナールと出会ったのが最初だった。まさかあれから一年も経たずにこんな関係になるなんて、あの頃の自分は想像すらしていなかった。


「おかえり、ラシェル」


 ラシェルがクランとレモニーの鼻を人差し指で掻いていると、不意に声をかけられる。きっと声が聞こえて、わざわざここまで出迎えに来てくれたのだろう。


「ベルナールは今日休みだったの?」

「あぁ」


 普段のかっちりと整えられた格好とは違い、家にいるときの“いつもの”ベルナールだ。前髪は下ろされ、白いシャツにズボンというシンプルさから、今日は外に出る予定もないのだとわかる。


「昨夜帰ってくる途中でスコーンを買った。あとで一緒に食べないか?」

「わぁ~、楽しみ! すぐに支度してくるね!」


 ラシェルは夜勤が終わったあとの朝、いわゆる夕食にあたるものをしっかりとは食べない。いつもは簡単にスープを作って済ませるが、ベルナールは時折気を利かせて軽く食べられるものを買ってきておいてくれることがある。


 気遣いが細やかで優しい。一緒に過ごしていれば大切にされてるって、お相手にもすごく伝わる。だからベルナールの妻になる人はきっと幸せだと評した過去の自分の見立ては、何一つ間違っていなかったのだと、日々しみじみ感じている。


 仕事で汚れた服を脱ぎ、浴室で体を綺麗にする。いつでも寝られるような緩めの部屋着に着替えてから、裏庭の見える部屋へと向かった。


 窓際のソファで、ベルナールは趣味の手芸に没頭している。テーブルにはスコーンが入っていると思しき紙袋と、ティーセット、スコーン用の取り皿がすでに準備されていた。


「紅茶はもう少し待ってくれ」

「何か他に準備はある?」

「君はゆっくりしてていい。仕事終わりで疲れてるだろう」

「ありがとう」


 ベルナールに促され、ラシェルはソファに腰を下ろす。立ち上がったベルナールが紅茶をカップに注いでいくと、白い湯気がふわふわと立ち上った。取り皿に乗せられたスコーンはやや小ぶりの食べやすい大きさで、近くにはクリームやジャムが置かれていた。


 ラシェルはスコーンと紅茶を楽しみ、ラシェルの横に座ったベルナールは手芸の続きを始めた。今日は編み物をしているようだ。


「これは、何を作ってるの?」

「クランとレモニーの、夏頃の毛を再現するための薄手のセーターだな」


 どうやら毛の生え具合に合わせたセーターを編んでいるらしい。毛刈りできる仕様にしたこともそうだが、ベルナールの羊再現への情熱をナメてはいけないと改めて感じていた。


「衣替えみたいにいろんなものを着せてもらえて、クランとレモニーも幸せだね」

「……そうだといいな」


 セーターを編む手を少しだけ止めて、ベルナールはぽつりと呟いた。それからまた動き始め、するすると淀みなく編み目が増えていく。


 窓から入る初夏の朝の風が心地良く、ラシェルの髪を梳いていく。外へ目を向けると、空には大きな羊のような雲が一つ浮かんでいて、のんびりと気ままに流されているのが見えた。


 ソファの背もたれに頭を預け、ぼんやりとそれを眺めながらうとうとしていても、ベルナールが咎めてくることはない。ただ隣に座って、黙々と編み物をしている。言葉はなくて、けれど心が安らいで、ぽかぽかと温かい。


 なんか、いいな……こういうの。


「ねぇ、少し寝てもいいかな……」


 いよいよふわふわと微睡んできて、優しい眠りのお誘いに意識が落ちそうになる。ベルナールの肩に寄りかかりながら彼を見上げると、ひだまりのような菫色がラシェルへと注がれた。


「あぁ」


 短い、柔らかな声が、そっとそよ風のように耳を撫でる。ベルナールは編み物をしている手を止め、ラシェルの髪を梳くように撫でた。


「今日もお疲れさま、ラシェル」

「おやすみなさい、ベルナール」


 柔らかく指先を結びあって、そこにそっと唇が触れる。温もりが子守歌のようにラシェルを包み、緩やかに眠りへと落ちる。ただ、大切な人の隣にいられる……たったそれだけの、けれどこれ以上ない愛おしさを抱きしめて。


【あとがき】

最後までお読みくださり、ありがとうございました!


連載中、ブクマ、評価、リアクションをいただけて、とても励みになりました!

ありがとうございました!


本作は書いていて自分が癒されるような、ほのぼのした恋愛を書こうと思い、穏やかにじわじわと関係が進展していく話を目指しました。

大きな事件も、派手な展開もありませんが、恋愛らしいかわいらしさとほんの少しの切なさを入れて書いてみたつもりです。

お気に入りのお菓子をお供に(作中にもたくさんスイーツが出てきますので)まったりと読める恋愛に仕上がっていましたら幸いです。


もし良かったなと思うところがありましたら、ブクマや評価等で応援していただけると嬉しいです。


現在、9月中の投稿を目指して新作(異世界恋愛)を準備中です。

これからも執筆を続けて参りますので、また別の作品でご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
ベルナールさんの気配りさんなあったかい性格で こちらも心ぽかぽかで読み進めました。 素直で飾らないラシェルもとってもいい子で素敵な二人です!
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