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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第2章 【研究所編】
20/51

望まぬ再会【3】








――研究所内、第2区域。


「でぃやぁぁぁ!!!!」


アサトは前に立ちはだかる獣型のDAM達を斬り付け、跳躍した。そして空中から風に似た衝撃刃を放つ。DAM達は怪我を負うも、倒れようとはしない。


「うーん、何だか、この光景を前にも見たような気がする……」


軽く息を吐いて、アサトは剣を構え直す。


「ホヴィス! コイツらどうしたら倒れるの!?」


「知るか」


ホヴィスはアサトの近くにいるDAMを銃で撃ち飛ばしアサトを見た。


「恐らく、前回と同じく操られてるんだろう。殺せない以上、気絶した所を見計らって先に進むしかない」


「……マジで?」


「マジだ」


こうしてる間にもDAM達は何処からともなく発生してくる。最初は数匹だったのが、今は数百匹になっていた。アサトは思わず後ろを振り返り、眉を寄せた。


「リテア達、大丈夫かなぁ?」


「あの馬鹿力があれば、大丈夫だろう。何よりヴァーチェがいるしな。今は道を切り開く事、前に進むことだけ考えろ」


「……うん」


研究所の入口に足を踏み入れた途端、ホヴィスとアサト、リテアとヴァーチェは有無を言わせず分断された。通信機器も上手く機能せず、連絡すら取れない状況である。


何かしら仕掛けてあるとは思っていたが、こうも露骨な手を使ってくるとは思わなかった。後悔しても遅い。が、負けるつもりもない。ホヴィスは煙草の煙を吐きながら、手元の銃を剣に変え切っ先を前へと伸ばす。


「行くぞ、アサト」


「うん!」


アサト達が地を蹴る。それを合図にするかのように、止まっていたDAM達が襲いかかってきた。








◇◇◇







一方、アサト達とは反対側にあたる通路。リテアとヴァーチェも、なかなか倒れないDAM達に苦戦していた。


「ああーー!! もうッ!!」


リテアは悪態を吐くながらDAM達を蹴り飛ばす。


「いい加減に、くたばりなさいよ! しつこい奴は嫌い!!」


『リテア、気持ちは凄く分かりますが、落ち着いて下さいね。叫べば叫ぶ程、無駄に体力減らすだけですよ』


風が空を斬る。数匹のDAMを切り裂いてヴァーチェは息を吐いた。


『しかし、困りましたね。切り裂いても、炎に焼かれても、再生して起き上がる……。厄介な番犬です』


「多少の怪我では、痛くも痒くもないらしいしねぇ。殴って、気絶させて行くしかない?」


『ううん……』


ヴァーチェは顎に人差し指を当て、考えるような素振りを見せる。そして何かを思いついたように指を弾いた。


『1つ、いい案があります』


「いい案?」


『はい』


ニコリと微笑みヴァーチェはリテアを見た。


『すみませんが、詠唱に時間がかかるのでその間』


「時間稼ぎ? オーケー! 任せといて!!」


リテアは助走を付け、勢い良くDAM達に向かっていく。それを見てヴァーチェは静かに瞳を閉じた。


『――古の氷塊を、包む精霊よ』


ヴァーチェの周りが冷たい空気に包まれる。掲げるように、右手を頭上に伸ばした。


『我が声に応え、其の力を此処に!』


空気がピリピリと揺れ、巨大な能力の渦が周囲を包んでいく。


『リテア、下がって下さい!!』


ヴァーチェの声にリテアはDAM達から手を引く。ヴァーチェは目を開くと同時に掲げていた手を振り下ろした。次の瞬間、周辺のDAM達に凄まじい冷気が襲いかかる。その威力に思わずリテアは目を瞑った。


――冷たく吹き荒んでいた風がピタリと止む。


リテアが恐る恐る目を開けると、そこには氷漬けになったDAM達がいた。


「す、すっごい……!!」


本当に凍っているのかどうか、確かめるようにリテアは氷をコンコンと叩く。


「うわあ、本当に凍ってるぅ」


周囲を包む冷気に当てられ、リテアの息は心無しか白い。


『ちょっと気温が下がってしまいましたが、これで暫くは楽に進めるはずです』


リテア達に襲いかかろうと集まっていた全てのDAM達が、氷漬けにされた為、今、周囲に敵はいない。進むなら、今だ。


「そうだね。早く兄貴達と合流しなきゃいけないし。急ごう、ヴァーチェ」


『はい』


リテアとヴァーチェは互いに視線を交わすと再び走り出した。


「くしゅッ……!!」


急激な寒暖差に、リテアは盛大なくしゃみをする。皮膚に浮かび上がった鳥肌を消すように、何度か腕を擦った。


「うーん……、やっぱり、少し寒い、かな」


『ですね』


顔を見合わせたままリテアとヴァーチェは声を出してクスクスと笑う。

微笑ましいやり取りをしながら、アサト達と無事合流する為に、リテア達は着実に前へと進んで行った。








◇◇◇








アサト達は敵を気絶させながら、入り組んだ通路を走り抜けていった。通路の突き当たりを左に曲がったその時。


「ッ! アサト! 止まれ!!」


「へっ!? ……って、わぶッ!?」


ガン!と派手な音を立てて、アサトは壁にぶつかった。壁にぶつけた顔面を押さえながら、アサトはホヴィスを見る。


「……いっ、ててっ、何? 行き止まり?」


「そうみたいだな。……ったく、きちんと前見て走れ。馬鹿が」


「あははは……、ごめん」


ホヴィスの手を借りてアサトは立ち上がると、周囲をキョロキョロと興味深そうに見渡す。


「あれ? あの右側にある道は?」


アサトが指差す方を見てみると、アサト達がいる位置より右手方向に、長く伸びる道があった。ホヴィスは口に咥えた煙草を手で掴み、煙をフゥと吐き出す。


「あれは、別方向からの道だろう。多分、あいつらが来る道だ」


「え……、じゃあ、行き止まりじゃん!!」


声を上げるアサトにホヴィスは眉を寄せた。


「少しは頭を使って考えろ。この研究所は、普通の研究所じゃない。奴等が仕組んだ設備が所々にあるはずだ。なら、この場所はただの行き止まりではなく……」


アサトはうーん、と首を捻り腕を組む。

暫くして、閃いたようにポンッと手を叩いた。


「隠し部屋か通路が、何処かにある!」


「正解」


ホヴィスは煙草を口に咥え直し、壁に手を添えた。


「この部屋自体、何か嫌な雰囲気が出ているからな。何かあるのは、間違いないだろうよ」


「そういえば、息苦しいというか、何か空気がピリピリしてる気がする……」


研究所の奥に進むにつれ、敵の数も少なくなっていた。もしかしてそれは、これが影響していたのだろうか。現にアサト達がいる周辺には動物系のDAMの姿は何処にもない。


「まぁ、関係ないとは言えないだろうな。一先ず壁を調べて……」


そう言いかけてホヴィスは背後に気配を感じ、腰のホルスターから銃を抜いた。そして、素早く後方に向ける。


ガキン!!!!


銃とグローブを装備した拳がぶつかり合う。


「チッ、あと少しで殴れたのに……」


「……いい度胸してんじゃねぇか。お返しに

今すぐ脳天撃ち抜いてやろうか?」


そこには逸れてしまっていたリテアの姿があった。銃に当たった掌をヒラヒラと振ってホヴィスを見た。


「遠慮しとくわ。アンタに殺されるなんて、まっぴら。敵に殺された方が数倍マシね」


「ほぅ、奇遇だな。それにはオレも同意見だ」


2人は笑顔を作っているが、その瞳は笑っていない。次の瞬間、リテアとホヴィスとの間に見えない筈の稲妻が落ちる。


「ええと……?」


どうしたものかと、アサトは頬をかいた。


リテアに何故ここにいるの?とか、聞きたいことが山程あるのだが、今のあの様子では聞くに聞けない。隠し部屋探索もしたいのだが、切り出す事すら難しい。本当にどうしたら良いのか。


アサトが深々と息を吐いた時、部屋に笑い声が響いた。


『まったく、あの2人は懲りずに……。またやってるんですね』


アサトから向かって右側の通路から、苦笑を浮かべ呆れたようにヴァーチェが此方に歩いてくる。


天の助けだ!とヴァーチェの姿を見て、アサトはホッと胸を撫でおろした。もっとも、頼りになる存在。今のアサトにしてみたら状況を何でも打破出来る救いの天使に見えた。


「ヴァーチェェェェ、助かったぁぁ。俺1人だと、ほんとどうしたらいいか分かんなくて!!」


『ふふ。そうでしょうね。道中、何か変わったことはありました?』


ヴァーチェの問いにアサトは首を横に振る。


「いや、何も。道は一方通行だったし……。ただ、動物型のDAMが大量にいて大変だったけど」


『アサト達もでしたか……』


「もしかして、ヴァーチェ達の方も?」


ヴァーチェは両手を握り締めながら頷く。


『はい。DAMの群ればかりで、何も掴めませんでした。ということは、道の終着点である此処に何かあるということですね』


「あ、それホヴィスも言ってた。隠し部屋が何処かにあるんじゃないかって」


軽く眉を寄せ、ヴァーチェはアサトを見る。


『もしかして、調べようとした矢先、リテアが此方に来たんですか?』


「うん、そう」


頭が痛いと言わんばかりにヴァーチェは頭を抑えながら溜息を吐いた。


『時間もないというのに……。もう、仕方ないです。私が探しますね』


ヴァーチェの言葉にアサトは目を瞬かせた。


「えっと、探すって……どうやって? 直ぐに分かるの?」


『……説明は難しいんですが、まぁ、見てて下さい』


ヴァーチェは微笑みをアサトに向けた後、部屋をゆっくり歩き見て回り始める。部屋は畳6畳程の広さだろうか。そう広くない部屋を、ヴァーチェはくまなく調べて行く。


ある場所でヴァーチェの足がピタリと止まった。瞳を閉じ神経を研ぎ澄ます。


『……此処ですね』


ヴァーチェは履いていたブーツで床をコツコツと蹴った。


「地下?」


『はい』


そこは未だに睨み合いながら何かを言い争っているリテア達がいる場所から、1畳ほど離れた所。丁度、部屋の中央にあたる場所だ。


『この下から、異様な気を感じます。ほんの少しですけど』


「じゃあ、この下に部屋が、」


『えぇ、間違いないでしょう。……ホヴィス!』


名を呼ばれホヴィスは言い争いを止めて、不機嫌そうに振り返る。


「どうした?」


『この床の一部を、一瞬で砕いて下さい。できますよね?』


ホヴィスは眉をしかめ、口元の煙草をゆるりと動かす。


「……なんでオレが」


『できますよね?』


「いや、だからなんでオレが」


『で・き・ま・す・よ・ね?』


「………」


ヴァーチェの笑みが黒い。有無を言わせないヴァーチェの言葉にホヴィスは仕方ないとばかりに、頭をガリガリとかいた。


「やればいいんだろ、やれば」


持っていた銃をくるりと回転させ、長剣に変化させる。そして、ヴァーチェが指した床を中心に剣で弧を描いていく。描き終わると、ホヴィスはヴァーチェに目線を送る。それに頷き、ヴァーチェはアサトとリテアの手を取った。



「ヴァーチェ? 何?」


『説明は後です。ホヴィスの周りに寄って下さい』


「……何すんの?」


訳わからないとばかりに首を傾げるアサトと、嫌な顔を見せるリテアにヴァーチェはさらりとこう言った。


『大丈夫です。ただ、下に落ちるだけですから』


「そうか、下に…」


今、なんて?2人は瞬時に理解できず固まるが、言葉を理解したと同時に口を開こうとする。が、既に時遅く。


「行くぞ」


ホヴィスは気を溜めた剣を床に突き刺した。

次の瞬間、弧を描いていた床だけが、ホヴィスの剣の力によって下に落とされる。


その上にはアサト達が乗っており、床は物凄い速度で落下していく。


「ちょッ……!! 嘘でしょぉぉぉぉ!?」


リテアの声にならない悲鳴が、その場に響いた。 



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