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37.手がかり

 ルチアーノ先生もアルベルトも、目の前で自分がしたことをまだ信じ切れていない様子だ。


「せっかくだから別の術もやってみようよー。安全そうな術はこれ、『水』だよ。飲みたいなーって思うといいよ」


 絶好調なカルロ所長が二人に声をかけた。

 私の部屋の筆記具を使ってカルロ所長が書いた『水』の文字を渡すと、ちょうど喉を潤したかったのか、二人は同時にとなえた。


「『水』」


 『清める』でカップに集中していたからか、それぞれ清められたカップの中に水が湧き出た。


「うん。バッチリー」


 二人はカップに口をつける。


「本当に水なんだね」


「術使いって便利ですね」


 ようやく二人もじわじわ実感してきたっぽい。

 わかるわー。術を使うと最初は「マジで?」って思うよね。

 てか、これほぼ魔法だよね? マジックポイントを歌で充電できる魔法じゃないの?  

 自家発電できるって超便利じゃーんって思っても、この世界に魔法の概念がないから、誰にも訴えられなくてムズムズする。


「清めるにしても水にしても、騎士団で使えたら助かるのですが」


「騎士なら使える人多そうですよね」


 アルベルトの呟きに私が同意すると怪訝な顔をされたので、さっき考えていたことを話す。


「騎士は一般人よりもエネルギーが通りやすいと思います。ディーノ殿下が言っていたように、騎士団での教えとヨガに通じる部分があるから、ルチアーノ先生とアルベルトにはすぐに効果が出たと思うのです」


「ユリア様、それは騎士も術が使えるようになると言うことですか?」


「可能性が高いと考えています」


「なるほどねー。僕は騎士をアルベルト以外じっくり見たことなかったから思いつかなかったよ。今から見に行ってもいい?」


 術使いは騎士から嫌われているので、無用な諍いにならないよう、騎士を見かけてもカルロ所長から避けていたらしい。


「いいね。私も一緒に行くよ」


 ルチアーノ先生も賛同したので、4人で騎士団の訓練所へと移動した。

 訓練所といっても、あまりそばまで行ってもめても困るので、訓練所をチラ見できて侍女たちに大人気とかいう、少し離れた場所にある回廊からこっそり見ることになった。


 今訓練しているのは、貴族街を守る貴族多めの騎士団と、市井を守る市民兵士出身の騎士団らしい。

 今更ながらアルベルトは王族を守る近衛騎士団に所属しているのだと知った。

 他にも、元は国境警備隊だった辺境を担当する騎士団があるらしい。  


「あ、すでに通ってる子がいる!」


「どれだ?」


「手前の一番小さい子」


「あれは市井の方だな。他にもいるか?」


「通りそうな子はいるけど、通ってるのはこの中ではあの子だけだね」


 私にも見えたらいいんだけど、見えないのがもどかしい。

 さっきまでわちゃわちゃ全員で動いてたのが、今は2つのチームに分かれて模擬戦が始まった。


「もう少しで通る子は何人くらいいるんだい?」


「んー、けっこういますよー。あっちでかたまってる全員がもう少しって感じ」


「あっちは貴族街の方だな」


 私には見分けがつかないけれど、騎士団それぞれ服装に特徴があるらしく、アルベルトとルチアーノ先生にはわかるっぽい。


「市井の方で通りそうな子はいないのかい?」


「んー、他の子はもうしばらくかかりそうかなー」


 市井で通ってる子がいるなら、もう少しの子も市井かと思えばそうじゃないって、なんでよ?

 むしろ、なんで貴族街担当にはもう少しがいっぱいいるのに通ってる子が一人もいないの? 


「僕、あの通ってる子と話がしたいなー」


「もしかして研究所に引き抜くんですか?」


「会わせられない!」


「違うよー。条件を絞るために話を聞くだけだよー」


 納得していないアルベルトをルチアーノ先生が促し、その子を呼んできてもらえることになった。




 小さな応接室を借りて、席についたところで、アルベルトが小柄な騎士を連れて入ってきた。

 カルロ所長は小声で『防音』をとなえる。


「私にいったいなんのご用でしょう?」


 騎士の礼をしてマルコと名乗った私と同い年くらいの少年は、びくびくした様子でこちらをうかがう。

 そうだよね。いきなり近衛騎士から呼ばれて、部屋に入るときらきらルチアーノ様がいるとビビるよね。

 いきなりカルロ所長が立ち上がった。

 

「君、術使い候補はイヤって言った子だー」


「ああ! カルロさんじゃないですか!」


「前より背、伸びたんじゃない?」


「イヤミですか!」


「カルロ、知り合いかい?」


「んー、知り合いというか、以前、術使い候補を探しているときに能力があると判明したけど、断られたんだよねー」


「さも一回で諦めたみたいな言い方しないでくださいよっ。何回もなんっかいも来られて、実家の店だって迷惑したんですからねっ」


「それはすまないことをした。こちらからもよく言っておくし、あらためて謝罪にうかがおう」


 生真面目なアルベルトの対応にマルコは慌てて言った。


「い、いえ、その。もう来なくなったからいいんです。お昼のかき入れ時に長々と居座られるのが困ってただけなんで」


「だって定食が美味しかったからさー、ついつい通っちゃうよねー」


「通うのはともかく、営業妨害はするな!」


「実家は定食屋なのかい?」


「はい。小さな店ですが、それなりに繁盛してるんです。うちは兄弟が多いから、調理が好きなやつが店を継いで、他になりたいものがあればさっさと外に働きに出ろって小さい頃から言われていたんです。私は調理より剣が好きだったので、ずっと騎士になろうと決めていました」


 あー、そりゃ術使いにはなれないね。


「えらいな。君は夢を叶えたんだね」


「はい! これからも、自分達の街を守ります!」


 マルコはルチアーノ先生とは別の意味でキラキラして見えた。

 同い年くらいなのに、もう将来の夢を実現してるってすごいなぁ。

 将来どころか今があやうい自分には、マルコはまぶしすぎるよ。


「他の兄弟はなにをしている? みんな定食屋を手伝っているのか?」


「いいえ。定食屋を手伝っているのは姉と弟妹の三人です。大兄ちゃんと中兄ちゃんは屋台、大姉ちゃんと中姉ちゃんは城の菓子職人として働いています」


 えええ? 全部で何人? 3足す2足す2足すマルコで8人? 多っ!


「みんな調理が好きなんだね。君だけが騎士になりたかったのはどうしてだい?」


「小さい頃、店が忙しくて遊んでもらえないとき、かまってくれた巡回騎士がいたんです。剣がカッコイイって言ったら教えてくれるようになって。それから私も絶対に騎士になるんだって思うようになりました」


 聞かれ慣れているのか、マルコはすらすらと答えた。


「カルロ、他の兄弟も調べたんだろう?」


「もちろん。でも、定食屋にいた三人には能力がなかったんだよねー。独立して働いてる子は検査対象外だったから兄姉たちは検査してない」


「たとえ能力があったって、術使いにはならないと思いますが……」


「安心してほしい。私たちは引き抜きに来たんじゃない」


「それならいいのですが」


 今はおやつの時間の前で忙しいらしく、後から呼び出そうかと話していると、


「失礼します! ルチアーノ様! 急いで殿下の寝室に来てください!」

   

「あの子たちになにかあったのかい?」


 ここでは話せない、と呼びに来た侍従が言いよどむ。

 この人、ディーノ様付の人だ。


「ルチアーノ様、参りましょう!」

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