38.早くない?
侍従にアルベルトは止められ、ルチアーノ先生と私が双子の寝室に向かうことになった。
アルベルトとカルロ所長とマルコには、城で菓子職人をしているマルコの姉二人と、おやつの準備が終わった後に会えるように手配してもらうことにした。
双子の寝室への途中、侍従がかいつまんで話す。
「申し訳ありません。私も詳しくはわからないのです。お昼寝から目覚めた王子殿下が、ルチアーノ様とユリア様を急いで呼んでほしいとだけ言われて。私が寝室に入ろうとすると止められ、中から王女殿下の声で、侍女も入らないでほしいと言われました」
「ルチアーノ先生、もしかして」
「もしかするね」
双子の姿が変わったのかもしれない。それにしても早くない?
「君はディーノ殿下には会ったのかい?」
「はい。王子殿下は寝室の入り口の前で、両腕を広げて立ち塞がっている状態です」
ということは、ティナ王女だけが変わったのかも?
侍従は「こんなことは初めてで、どうすればいいのかわからない」と混乱しつつ、私たちがなにかしたのでは、と疑っている様子だ。そりゃそうだよね。さっきの今だし、なにかしたかと言えば、してる。でも、主である王子殿下の頼みだから仕方なく私たちを呼びに来たっぽい。
「こちらです」
寝室につながる手前の応接室に入ると、奥の扉の前で侍女を通せんぼしている丸いディーノ王子が見えた。
「るちあーの~、ゆりあ~」
私たちを見つけたディーノ王子はうるうると見上げてくる。
「どうしたんだい? 話を聞くよ?」
「大丈夫ですよ、ディーノ殿下」
ルチアーノ先生と私がかがんで声をかけると、ディーノ王子の目に力がこもった。
「るちあーのとゆりあだけはいって。みんなはだめ」
言う通りにして、とルチアーノ先生が目配せすると、侍女も侍従も頷いた。
お付き達が離れるのを待って、ディーノ王子は控えめにドアを開けた。
カオスな寝室のベッドに座り込んでいたのは、なみなみの金髪、緑の瞳をもつ華奢な女の子。
ぶかぶかなネグリジェを両腕で抱きしめて怯えている様子が、うっかり羽をなくして迷い込んだ妖精みたいだ。
「ティナだ」
「ティナ殿下ですね」
「っ。わかるの?」
「もちろん」
「わかりますよ」
「よかった。もし、もし、ちがうっていわれたら、どうしようかとおもって。はなればなれにされちゃうっておもって……」
泣き出したディーノ王子をルチアーノ先生が抱きしめる。
「そんなことしないよ。ディーノはよく頑張った。ティナを守っていたんだね。怖かったね。もう大丈夫だよ」
「~~~~」
ディーノ王子は声もなくぼろぼろ涙を落とした。
私はベッドの端にしゃがみ、ティナ王女に声をかける。
「ティナ殿下、体はしんどくないですか? 痛かったり、いつもと違ったりしませんか?」
「いたくはないです」
「良かったです。私が衣装部屋に入ってもいいですか? お召し物を替えましょう」
「え、でも……」
ティナ王女は先生である私に頼むのは悪いと思っているようだ。
「ティナ、今は侍女を呼べないんだ。ユリア様に任せて」
「……おねがいいたします」
うおぅ。儚げでかわゆい。お姉さんにどーんとお任せよ!
「鏡をご覧になっていてくださいね」
ビアンカ様のこともあるし、身長が変わっているか確かめたい。
姿見の前にイスを用意して、そこまで手を繋いでエスコートしようとしていたら、ティナ王女は途中で手を振り切り、鏡の方に走り寄って、ペタッと鏡に手をついてまじまじと見入ってしまった。
うん。元気そうで良かった。
走れるほどバランスとれてるから、身長はほとんど変わらないっぽい。むしろ若干縮んでいる感じ。
双子の衣装部屋にはかなりの数があったけど、どれも丸い用で、今のティナ王女にはぶかぶかだ。
首回りのリボンをきつめに結べばなんとか着られそうなワンピースがあったので、簡素で申し訳ないけどそれにした。
着替えさせて、横の髪を編み込んで留めると、ティナ様のほっとしたような顔が見えた。
「るちあーの、どうしてティナはかわってしまったの?」
「そうだね。でもそれを話す前に、ディーノやティナが今のディーノみたいになり始めたのって、いつからか教えて欲しいな」
「ええ? よくわかんないよー」
ですよねー。
園児くらいの子に、そんな細かいことわかるかっての。
ルチアーノ先生、かしこいゆえに、たまにトンチンカンなことするよね。
「ディーノ王子の侍従やティナ王女の侍女からお話を聞いた方が良いのでは?」
「仕方ないね。ティナの姿が変わったことはまだ伏せたいんだけど、話してくれるかなぁ」
ディーノ王子とティナ王女に部屋を出ないように言い聞かせてから、ルチアーノ先生と私は寝室を出て応接室に入った。
寝室の扉から離れた場所で待機していた侍従と侍女がぱっと顔を上げる。
「どうでしたか?」
「なにかご病気では?」
「大丈夫だよ。ただ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、答えてくれるかい?」
ひぃい。睨まれてる、にらまれてるよ。侍従も侍女も警戒心バリバリだ。
「あの、私たち、殿下になにかしたこともないですし、するつもりもないんです」
悪意のあることはしていないから、嘘は言ってない。
「ただ、今のようにふくよかな姿になられたのはいつからか知りたいなって」
「なにをしらじらしいことを」
「それはお前たちのせいではないのか?」
は? どういうことですか?




