第四十六話
ザッザッザ……
荒涼たる砂漠には月の青い光が降り注ぐ。
静寂をかき乱すのは、二つの足音だけだ。
ザッザッザ……
先を行く足音は月夜にも似た落ち着きがあった。
一方、後を行く足音には、はっきりと苛立ちがにじんでいる。
「失礼、ドクター・カーディガン?」
後を行く足音の主が、砂を蹴立てて前を歩く男に追いついた。
流れるような金髪のコーカソイド女性である。
サバンナルックに押し込められた彼女のバストが月光に映える。
「本当にこのようなところに、遺跡が残っているなどとお思いなのですか?」
「……砂漠にはアダージョが似合う」
ドクター・カーディガンと呼ばれた銀髪の男は、質問に答えず、はぐらかした。
「メアリー、君は少しばかりクレッシェンドだね。決して急ぐながれ。それが僕の数十年に渡る発掘経験からもたらされた唯一の真理さ」
「しかし……いつまで歩き続ければいいのですか! すでに入稿期限は三回も私の前を通り過ぎているのよ! F1カーみたいな速度でね!」
ドクター・カーディガンは、一定の速度で歩き続けながらメアリーに目をやった。
サバンナルックに押し込められた彼女のバストが月光に映える。
「ここにはかつて、四十六話……『ご領主様の料理番』と題されるセクションが存在した。大きすぎる改稿と、削除禁止の規約……その二つの狭間で、消えることも許されず、再び栄えることも許されず……このような荒涼たる地になってしまった……」
「OMG!」
メアリーは跳び上がらんばかりに驚愕し、足元の砂粒を両手ですくいあげた。
「そうだったのね……この砂の一粒一粒が、かつて『ご領主様の料理番』だった……」
指の間からさらさらと零れ落ちていく砂粒に、メアリーは目を細める。
「あなたの故郷で『もののあわれ』と言われる感情のことが、少しだけ理解できた気がするわ」
「私の過去のことには触れないでもらおうか、メアリー」
「ああ、ごめんなさい。私ったらいつもこう」
「構わないよ。そういうクレッシェンドな君だからこそ、私は傍にいたいと思っているのさ」
「ドクター・カーディガン……」
二人は寄り添い、かつて『ご領主様の料理番』だった砂漠を歩む。
そして、サバンナルックに押し込められたメアリーのバストは、月光に映えていた。
~メメント・四十六話~おわり




