1.プロローグ
2015年3/7(土)に初投稿しました。
2015年3/15(日)文章を大幅に加筆して再投稿しました。
2015年4/19(日)少し変更点を加えて再投稿しました。
「そっちに行ったよ!」
青年の声が空に響いた。
声に反応した黒い影が標的迫り、そして影が重なった。
「グゥ」
低い唸り声が聞こえ、ぶつかり合うように重なった影が別れた。
もう一つの影に向かって青年は、早足で駆けて行き、手に持っている武器で影に攻撃を行った。
(よし…入った!……ッツ?)
攻撃が上手くいったと思った矢先、放った攻撃の手応えに違和感がした。
感じた違和感の通り、攻撃は余り通じてはいなかった。
影はすぐさま動き周り、僕の背後に回り込んでくる…
影が迫った。しかしもう一つの黒い影が、迫りくる影に体当たりをして阻止した。二つの影は、そのまま転がり…やがて片方の影がポリゴンとなって砕け散って消えた。
「なさけねぇな~」
青年の方から気の抜けた声が聞こえる。青年の声ではない。
「ははっ…確かに情けないね。せっかくのチャンスだったのに」
言い返せない青年は情けない気持ちになったが、乾いた声で答え、苦笑してごまかした。黒い影が近づき、同意するかのような唸り声をあげた。
情けないと自分でも思う。同時にもっと強くなりたいと思いながら…
このゲーム≪Ordeal Tame Online≫の始めたころを思い出していた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
西暦2098年。とうとう21世紀が終わりを見せ始めた節目の年だ。
西暦2100年。22世紀を迎える前に、いま新たな試みが始まろうとしていた。
「人々にペットを飼う権利を与えよう」
今の人々は、愛玩動物所有禁止法により、ペットとして生物を飼うことが禁止された。
何故そのような法律が出来たかと言うと、一言で表すなら技術の進歩だ。
その背景に存在していたのは、遺伝子工学の発展によるDNAの解読で様々な種類の生き物が生み出せるようになった事から始まってしまった、前代未聞のペットブームが起きたためだ。
そのペットブームは従来から愛され続けていた従来のペット達から居場所を奪っていった。戦慄の嵐の様なペットブームは20年続いた。
代わり替わりに、居場所を取り換えられる数多の動物達。
次々と居場所が奪われて続けて、ブームが過ぎ去った後に残ったのは、膨大な種類と数の生き物と入れ替わる様に居場所を奪われたペット達の骸だった。
これにより2070年代後半、愛玩動物所有権禁止法が設立され、人間社会の生活からペットという生物を飼う人々の姿が消えた。
そして現在に至る数年前から、人々は求めた。ペットの存在を…
しかしまた、時代の悲劇を繰り返すわけにはいかない。
そういった意識の声もまた強かった。
幾度もの会議が繰り返される話し合いは、結論を出すのに手間取った。
「仮想現実《VR》大規模多人数《MMO》で生物の事を教えればいい…」
出席者の中から誰か一人が進歩のない会議に一石を投じる発言をした。
VRMMO。2020年頃から流行り始めた、現在のゲームの主流形態だ。
現在の技術水準の向上により、もう一つ世界と称される程まで、その現実的が追求されていた。
確かにこの時代では、VRMMOの世界で様々な資格が教習所や専門学校、教育機関の場所として活用されるほど普及していた。
「しかしVRMMOで何をさせるのだい?」
出席者の一人が重い腰を上げて言った。
「冒険ですよ…我々の遥か遠い昔の先祖達は、動物達をペットとしてではなく共に生きる相棒として共に歩んだ時代があります」
「それを理解すれば、きっと同じ様な過ちを繰り返すことはないと私は信じます」
と確信に満ちた声音で言った。
しかし他の出席者達は一様に、顔に仏頂面を浮かべ賛成の意が出ない。
「これが成功すれば一石二鳥。失敗しても少なくとも10年ほどの時間は稼げますよ」
続けて言った言葉の後半の部分に、難色を示していた出席者達の関心を得る。
そして会議の終了間際に多数決が行われた。その結果、過半数の賛成が得られ、ゲーム≪Ordeal Tame Online≫の制作が政策として決定した瞬間だった。
≪Ordeal≫それは直訳すると“試練”だ。
≪Tame≫それは意味を解釈して“飼い方を知る”だ。
≪Online≫それは造語として“世界”だ。
飼う権利を得るためのゲーム。
そんなキャッチフレーズと共に政策として発表され。
新たに一つの言葉が人々に向けて発信された。
Partner:相棒と
Experience:経験する
Tame:飼い方を
略してPET。今までのペットを捨て、新たなペットが生まれた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
発表から数年、待ちに待った。今日≪Ordeal Tame Online≫のサービス開始日だ。
ソフトは全部で15万本。サービス開始日の一週間前までに発送はされる。
そして、同封されたシリアルコードと個人IDによりゲームのインストールが可能となる。
今か今かと忙しなく、インストールが完了するのをPCの前で待つ青年がいた。
男性にしては、長い髪が特徴的な青年だ。
腰に届きそうになる髪を根本でまとめ、ポニーテールにしている。
顔は中性的でやや女性よりの美形だ。長い髪のせいでより女性らしく見える。
本人も良く勘違いされる事を気にしているが、長い髪を切ろうとはしない。
青年は中々インストールが完了しない事に業を煮やして立ち上がった。
自身の長い髪をいじくりながら、窓を開けた。
青年の身長は170cmより少し高く、線が細い体躯の割には少し引き締まった体は、男性らしさを醸し出しているが中性的である事は否めない。
男性と紹介されればそうだし、女性だと紹介されても違和感のない雰囲気を持つ。
今まで彼の性別を違えずに、入れた人は少ない。
そんな青年の名は、嵩月 優夜20歳の大学生だ。
髪を弄り、風に揺られながら、外の景色を眺める。
〈ゲームインストール率79%完了見込み時間、後15分です〉
PCから現在の進行状況を知らせる音が聞こえた。
「後…15分か…」
優夜は呟いた。長いようで短い時間だ。
数年前に発表されたときから、この日この瞬間をどれ程待っていただろう。
机の上にある、ソフトに同封されていた動物図鑑を「ペラペラ」と捲りながら
視線を向けた先には、古ぼけた小さな小屋がある。
小屋を見ると思い出すのは、三日間の掛け替えのない時間が脳裏に浮かぶ。
図鑑を適当に捲っていると、本があるページを境に固定される様に開いた。
開かれたページは見開き過ぎた所為で、本自体に変な癖がついている。
そのページには、一枚の写真と共に一種の動物の詳細な情報が載っていた。
「【ピロン~♪】」
〈インストールが完了しました〉
ディスプレイに表示されたのは無表情なシステムメッセージと完了を告げる音。
しかし、青年は無表情な機械とは対照的に感情の色を隠せない表情のまま、ゲームをプレイするために用意したVRギアのヘルメット装着して、寝具に寝そべった。
ドキドキとワクワクが身体中を振るわせて、躍動感が心を支配する。
……待ちに待ったこの瞬間を……待ち焦がれた世界へと踏み出す一言を呟く。
「システムリンク……スタート」
何度も文書を変えて申し訳ありません。