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4.宝探し2日目

 結局次のヒントも少女にはちんぷんかんぷんだった。

「なによ、ここはどんな国って」

 少年と別れ、自分の部屋で少女は一人つぶやいた。

「平和な国、それ以外何があるの」

 わけわかんない、と少女は枕に顔をうずめる。

「もしかして、緋稀の世界の話だったりするのかな?」

 この国は平和だ、戦争はない。食べ物や水、一般的な暮らしには不自由しない。むしろ有り余るくらいだ。でも、ほかの国では……。

「ただの学生にこんな話考えさせんなバカ」

 考えても仕方がない、と少女はベットの中にもぐりこんだ。


 次の日、少女はどうにか少年の書く世界を聞き出そうと決意した。

「魔法ってどんなふうに使われているの」

「科学に近い扱いかな、見えないけどそこのすべてに通じる、みたいな」

 相変わらずよくわからない言い方だったが、一つだけ印象に残ったことがあった。

「その世界で死ぬとどうなるの?」

「自らの体が変化して一つの物になるんだ。それを大切に取っておくのが普通かな」

 その話をした時の目がすごく悲しそうだった。だれか大切な人がなくなったのだろうか。

「大切じゃない人なんていないんだよ。みんな役目を背負って生きている」

 そう言った少年は凛々しくて、少女は見とれてしまった。

「それよりも、宝探しでしょ?」

 訪ねてくる少年に見せつけるように少女は四個目のヒントを見せる。


『ヒントその四、もし魔法があるとしたら?』


「自分で書いたのに、忘れたわけ?」

 少女は呆れるように少年を見る。少年は笑ってごまかした。

「私はもし魔法が使えたら……本の世界に行きたいな。主人公たちと一緒に冒険したい」

「もし、それが危険であっても。それで死んでしまっても?」

 きっと乗り越えられるって信じたいじゃない、と少女は笑う。

 少年も人公らしいね、というだけだった。

「あ、でももし帰ってこれないんだったら、みんなの記憶を消したいな」

 少年はどうして、と尋ねる。少女はだって帰ってこないのにずっと待たせるのも悪いじゃない? なんて、明るく言い放った。

「人公は強いんだね……」

 少年がつぶやいた言葉は少女には聞こえていなかった。もし、聞いていたらまた質問が飛んできただろうから。


「人公のそういうところ、好きだよ」

「ん、いきなり何?」

「言いたくなっただけ」

 あっそう、と流す少女には少年の気持ちは少しも伝わっていないのだろう。少年は伝えることで満足しているようだ。

 もう一つくらい今日見つけられるといいんだけどね。と少女は伸びをしながらつぶやく。

「きっと見つけられると思うよ。全部のヒントは無理でもね」

「そういえば、全部でヒントっていくつぐらいあるの?」

 うーん、三十ぐらい? なんてふざけていう少年に、あー、そりゃ無理だ。と返す少女。こんな冗談めかした会話が二人は好きだった。

 周りの人から変なやつと思われてもいい、なんて最初は思ってもいたが、この二人の掛け合いは周りから見たら夫婦漫才そのものだった。

 少女はそう言ってからかわれるのは嫌いだったが、少年はそれを広めようとするばかりだった。その事件は数少ない二人が大げんかをした時だった。


「今見つけたヒントが四つみんなバラバラなことが書いてある。きっと全部集めたらちゃんとわかるんだろうけど、数少ないヒントで私は見つけてみせる!」

 頑張れー、とまるで他人事のように応援する少年。あんたも頑張るの、と少女に言われて、

「はーい」

 と、手までつける立派な返事をする。

 呆れたように少女は少年を眺める。少年は何か変、とばかりに首をかしげるだけだ。

「ほんと、変わらないね」

 溜息まじりにそういえば、悲しそうに肩を下ろす少年。慌てて悪い意味じゃないから、と少女はフォローに入る。

「人公はいつも優しいよね」

「そうかな」

 そうだよ、と言う少年はいつも通りの笑顔が戻っていた。

「人公もかわっちゃだめだからね」

 約束、と小指を出してきた少年に少女は小さく吹き出しながらも自分も小指を出す。

 指切りげんまん――と約束の歌を歌いながら、段々と張り合うように二人の声は大きくなっていた。

「これで心配なし!」

「どうして?」

「何があっても人公を見つけられる」

 何言ってんの、と呆れられても少年は上機嫌のままだった。


 そうだ、と少年は少女に断りを入れる。

「明日は宝探しおやすみね」

「どうして?」

「どうしても外せない用事が入ったんだ」

 自分が言い出したことなのに、なんて言葉は少女の口からは言えなかった。

 いつもなら一休みの沈黙も、今は気まずいだけのものだった。

 小さい頃から一緒だった。そんな二人だお互いの長所も短所も知っている。でも、やっぱり知らないことだってあるに違いない。


「ごめん」

 そう言って少年は少女を置いて駈け出した。

 慌てて少女は追いかけようとするが、一歩踏み出す前にそれをやめた。

 少年は時々一人でこもることがあった。何事にも反応しない、そんなときが。

「……もうひとつヒント?」


『ヒントその五、昔話はお好き?』


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