3.宝探し1日目
次の日、宝探し初日。
二人が来た場所は公民館。図書館と公園が隣接している。
公民館を一通り見て回る少女、少年は眠そうにそれを眺めている。
「緋稀、ちゃんと朝ご飯食べたの?」
「食べたよ、心配しないで。それよりヒント、見つけないとだよ」
ヒントという言葉に少女は目を見開いた。
「え、それってここが答えじゃないってこと?」
少年は答えずに、公園の方へ向かった。少女もその後を追いかけた。
公園にある遊具はブランコにシーソーに滑り台、コンクリの砂山。中には狭いけど通路がある。少女は一つ一つ確認していく。
「最後は砂山だけだけど……」
少女は砂山の頂上から中を覗き込む。中は暗くてよく見えない。
「この中だよね……」
少女は恐る恐る中に入る。中のはしごを使って下へ降りていく。
一番下には手紙が置いてあった。
『ヒントその一、僕の趣味は?』
少年の整った字はそう書いてあった。
少女は簡単よと言わんばかりに一言で言った。
「読書でしょ?」
少年は微笑んで、おしいと言った。
「え、読書じゃないの? それじゃあ……なにが好きだっけ?」
少年は依然として微笑んだままだった。
「その日焼けしない色白の肌だし運動はないでしょ。教室にいないと思うといつも図書室にいるし……わかんないよ」
少女は少年の日々の行動を昔からゆっくりと思い出した。小さい頃から一緒の二人だったから思い出はたくさんあった。
しかし少年の趣味に当てはまりそうなものは出てこなかった。
少女は残念ながら降参することにした。
「答えは、書くことだよ」
「え、物語を書くこと?!」
少女は少年の知られざる趣味に耳を疑った。
どんな秘密でも共有していて隠し事なんてないと思っていた少女。
「緋稀、それだったら読ませてくれればよかったのに……」
「だって人に見せられるようなものじゃなかったし、ね?」
少し首を傾げて眉を下げ謝るそぶりを見せる少年に少女は仕方がないとばかりに溜息をついた。
「それじゃ、ここのヒントはそれだけ?」
少年は大きく首を縦に振る。少女は落胆して肩を落とした。
「次の場所に行こうよ。次のヒントが人公を待っているんだ!」
「いや、それはどこのファンタジー?」
少年は笑みをこぼした。つられるように少女も笑い始めた。笑いが収まると二人は次のヒントがありそうな場所へと向かった。
「こんな調子じゃ、絶対見つからない気がするけどなー」
次の目的地に向かいながら少女はすでにあきらめかけた様子だった。
「自分であきらめたらそこまでなんだよ。自分で探そうとしなきゃ答えなんて見つからないんだ」
少年の言葉に茶々を入れながら二人は目的地への短い道のりを歩いていくのだった。
「そういえば、人公の好きな事ってなんだっけ?」
まるで初対面のあいさつのように少年は少女に尋ねた。
「まあ、本を読むことよね」
「それじゃあ、どんな本をよく読むの?」
小さな子供のように次の質問が少年から発せられた。
「緋稀は分かってるんじゃないの? 私がよく読むのはファンタジーが多いって」
うん、そうだったね。だから僕もファンタジーのお話書いたからね。と少年は言う。少女は少年のお話を聞きたがった。
「中身は内緒、教えられないな。でも舞台は教えてあげるよ。舞台はこことは全く違う世界。魔法が存在する世界なんだ。戦いによって国は大きくなるけど、一つだけ戦わない国がある。その国のお話なんだ」
設定を聞くだけで少女はそのお話を読みたくなった。その世界を知りたくなった。
少年は笑い、まだ駄目だよ。の一点張りのため泣く泣く少女はあきらめたが。
「それじゃあ、私が宝物を見つけたらそのお話読ませてよね?」
「うん、いいよ。見つけたら人公に読ませてあげる」
少年は少女に約束した。
「それにしても意外だなー、緋稀が小説書いてたなんてさ」
次の目的地までは歩いていくには距離があった。しかし、二人は歩いていくことにした。自分の足で歩いたほうが宝探しの雰囲気が出る、と言う少年の言葉を少女が聞いたためである。
「そんなに意外だったかな? 僕は本を読むのはそれを自分に生かすためにだったんだけどね」
「緋稀って外国語得意だったっけ?」
得意と言うか、すきかな。と少年は答える。
「だって文化が一番はっきりしているのは言葉でしょ?」
そのあとも少年は文化について語っているようだが少女は全く聞いていなかった。
「そんなことより、こんな風な謎ときばっかなの?」
少年はこくんとうなずく。その様子に少女は呆れるように溜息をついた。
「それじゃあ、ヒントはあてにならないわね。自分で見つけないと!」
もう一度気合を入れなおす少女だった。
「あ、あれ人公おいしそうじゃない?」
パン屋の前を通りかかった少年は匂いにつられてショーウィンドウを眺めた。そしてその中に配置されているパンに心を奪われてしまったようだ。
「まったく、緋稀ったら。早くいこう」
そう言って少女は少年を引っ張って進もうとするが、少年はその場を動こうとはしなかった。
力いっぱい引っ張っても無駄なことを悟った少女はしかたなくもう一つの手段に出る。
「緋稀、パン買ってあげるから。そしたら行くよね」
その言葉を聞いて少年はにっこりとする。
少女は少年を現金な奴と思いながらも自分も笑顔になってパン屋へと入って行った。
「うーん、どれにしようかなー」
色々な種類のパンに目移りをする少年。それを少し呆れたように眺めている少女。
「そんなに変わったパンがあるわけでもないのに、変な緋稀。あ、そんなにたくさん買えないからね」
そう言うと、少年は驚いたように目をまるくした後小さく笑った。
「そんな、人公に買わせるわけないよ。ちゃんとお金持ってきてるから」
それだったら最初っから言いなさいよ。と少女はすこし拗ねたように言う。
「ごめん、これあげるから許して?」
少年が差し出したのは先程買ったであろうメロンパンだった。
少女は食べ物でなんか買収されないんだから。と言いながらも笑顔が戻っていた。
二人はパンを食べるために近くのベンチに座った。
「いただきまーす……あれ何か入ってる?」
少女は癖で二つに割ってメロンパンを食べようとすると中には紙が入っていた。
少女はパンをいったん袋に戻すと、その紙に書いてある言葉を呼んだ。
『ヒントその二、一番近いのに、遠い関係は?』
また謎かけだった。つまりはこれは少年がパンに仕掛けたものだということだった。
「え、どうしてパンの中に紙が入っているの?」
どんなに聞いても少年は内緒、というだけで答えてはくれなかった。少女は謎かけの方に集中することにした。
「近くて……遠い? うーん、距離は距離でも心の距離とか?」
パンを食べることを忘れて考え込む少女。少年はパンをほおばりながら考える少女を見つめている。
「きっと、これも緋稀に関係することなんだよね……うーん、二つまでは絞れたんだけどなー」
「それ言ってみてよ。もしかしたら当たってるかもよ?」
少年がそういうと、少女は二つの選択肢を言葉に出す。
「幼馴染か、読者とキャラクター達……」
「せいかーい。すごいよ、人公」
満面の笑みを浮かべる少年にそこまで喜ばなくても、と照れている少女。
「あ、それじゃあどっちが正解なの?」
少年ははぐらかすように、ごちそうさま。と言い、少女は慌てて残ったパンを食べた。
食べているうちにそれを問い詰めることをすっかり忘れてしまった。




