2.家族
帰宅した少年は手を洗い、リビングへと向かった。
「おかえり」
出迎えたのは彼の唯一の家族の青年だった。
「うん、ただいま。兄さん、学校って面白いもんだね」
少年は小さく微笑んだ。
「だからお兄さんと呼んでくださいって言ってるでしょう。でも、楽しいなら何よりです」
青年は少年の嬉しそうな様子に安心した。
だが、彼らの会話には少々不自然な部分があった。なぜいまさら学校を面白いというのだろうか。
「うーんと、そういえば……先生がいたんだけれど」
その発言に青年は目を細めた。
その時、インターホンが鳴った。
「うん、僕が出てくるよ」
少年は玄関へと向かった。
少女は家に向かいながら今日の出来事を思い出していた。
朝はおかしなことを呟いている彼を注意した。授業中はずっと寝ている彼の代わりに問題にあてられた。
そして放課後。本の整理をしながら少年に言われた言葉
「もし消えたら……か。そんなわけないわよね、ずっと一緒に過ごしてる私が信じなきゃダメでしょ。あいつダメなやつだし」
それより、明日の課題の量が多いことを思い出し駆け足で自宅へ向かう少女だった。
「こんにちはー、家庭教師にきましたー」
「うーん、いりませ――って先生っ!」
少年は目を見開いた。そこにいたのは紛れもなく彼の担任であった。
「立ち話もなんだから上がって話そうか」
まるで自分の家のように誘導する彼に少年は仕方なしに従った。
「先生は僕らの事知ってるんですよね?」
「そうともいえる、まあ説明するからさー」
リビングにつき彼は二人に説明を始めた――
――次の日、学校では相変わらずの風景があった。
「おはよ、緋稀」
「うんおはよ、人公」
課題はしたのかと聞くと課題、そんなのあったっけ、という様子の緋稀にため息をつきながらも人公は課題のノートを見せる。
「うん助かったよ。ありがとう」
そういって微笑む少年。今度からはちゃんと自分でやりなさいよ、という少女の言葉は聞こえていないようだ。
「そういえば、もうすぐ秋休みだけどなんか予定あるの?」
思い出したように少女は少年へ問いかけた。
少年は首を横に振るだけだった。起きているのかわからない少年の対応に少女は後でもう一度尋ねることに決めた。
そして、放課後。昨日に引き続き二人は本の整理をしていた。
「ねえ、秋休みの予定あるの?」
聞いてもちゃんとした答えがなかった少年にもう一度尋ねた。
「うーん、ないよ。かくれんぼでもする?」
何とも幼い回答をする少年。
「ふざけないでよ、だいたいかくれんぼってどこでやるつもり?」
「うーんと、この町全部。むしろかくれんぼより宝さがしって言ったほうがあってるかも……」
「宝探し?」
この年齢になってあまり聞かない言葉を聞いた少女は繰り返した。
「うんそうだよ。やろう、人公!」
いつにもましてやる気に満ちた少年の姿に押されて少女はうなずいた。
「うーんと、昨日僕が言ったこと覚えてる?」
少女は思い出したようにつぶやいた。
「緋稀が消えるって言ったこと?」
「うん、それ本当だから」
「え? どういうことなの、説明してよ」
詰め寄る少女に少年は困った顔をしながら答えた。
「うーん、僕にもよく分からないけど。でも、確実なことなんだよね」
儚げに微笑む少年のほほを少女は思い切りつねった。
「もう、なんて顔してんの? まったく悲しい顔なんて似合わないっての、あんたは笑ってなさいよ」
そういわれて、少年はいつも通りの笑みを浮かべた。
「いちゃついてるけど、整理終わったー?」
ニヤニヤしながら先生が話しかけてきた。
「ちゃんとやってるって、先生こそ!」
「終わったから見にきたに決まってるだろー。終わったんなら帰れよー」
先生はそれを告げると、先に図書室から出て行った。
「宝探しってなんなのよ?」
少女は少年に企画の説明を求めた。
「うん、僕の大切なものをこの町のどこかに隠すんだ。それを人公が見つける」
「それだけ、制限時間は?」
「うーん、秋休みが終わるまでかな」
あまりに短い時間に少女は驚いた。
「それだけ? ヒントも何もないの?」
少年はただ微笑むだけでそれには何も答えなかった。
「うーん、他に説明したいことはあるんだけど。僕の家これる?」
「え、でも……お家の方に迷惑じゃない?」
ただ一人の身内であっても少女は家の人という。そんな細かい気遣いができる少女が少年は気に入っていた。
「うーん、幼馴染なら普通なんじゃない? 別に迷惑でもないし……」
ここで幼馴染という言葉を使った少年に少女は首をかしげながらもまあいいかとした。
「それじゃあ緋稀の家に行こうかな」
そうは言っても二人の家は近く、回り道をするわけではなかった。
「おじゃましまーす」
二人はリビングで宝探しの話をまた始めた。
「ここじゃ、お兄さんの邪魔にならない?」
「うーん、大丈夫だと思う」
青年は少女のお兄さんという言葉で満足しているだろう、とは少年も言わなかった。
「それじゃあ、惜しいところにはヒントがあったりするのね。そこからも本当の場所を探し当てる」
「うん、たぶん一日じゃ見つけられないと思うから、秋休み中がリミットにしておくよ」
少年は悪戯っぽく笑うと、少女もつられて笑った。
そこに青年がやってきた。
「人公ちゃんよかったら、ご飯食べていく?」
「いやお兄さんに悪いですし、私は帰ります。お邪魔しました!」
少女は足早に少年の家から出て行った。
本の整理は次の日の放課後に何とか終わり、秋休みに入った。
そして、二人の宝探しゲームが始まった。




