1.幼馴染
誰にだって、幼馴染っていうのはいるはず。それが一人なのか複数なのか、仲がいいか悪いかは人それぞれだけれども。
「うん、可愛い」
「そこ、口説かない!」
これはそんな幼馴染達のちょっと普通じゃない一週間。
口説くなといった少女は可愛いと言った少年を見上げながらため息をつく。
十センチ以上もある身長差の前で少年は怒られても痛くもかゆくもないようだ。
「ほら、静かにしろ。HR始めるぞ」
そんな担任の声で生徒は席に着く。少年はなぜか驚き、小さく呟いた。
「どうして、先生が……」
「なにしてんの、緋稀?」
席に着かない少年――緋稀を呼ぶ少女。慌てて少年は少女の隣の席に座った。
「うん、ちょっとぼうっとしてた。ありがと、人公」
少年は少女――人公の頭をなでた。少女は嫌そうにそれから離れようとする。
その様子を見ながら担任はHRを始めた。
「そこでいちゃついてる二人は放置で連絡する。普通授業で、図書委員は放課後図書室に集まるそうだ」
適当に連絡を伝えた後担任は教室から出て行った。
「まったく、いちゃついてないっての。勝手に絡んでくるな、緋稀」
ふてくされて、そっぽを向きながらも、少女の手は先ほどの担任の連絡を書きとっている。
機嫌を取るようなことはせずに、他の生徒へ話しかける少年。
「うーんと、今日の一時間目ってなんだっけ?」
「数学だよ」
「うん、ありがと」
子供のような笑みを浮かべ感謝を告げる少年。そして、机に伏せると、すぐさま寝息を立てている。
呆れたように少女は少年をちらりと見て、授業の用意を始めた。
授業が始まっても少年が起きる気配はなかった。
時折教師の声掛けには反応するようなそぶりを見せるがまた眠ってしまう。
そして、教師は隣の人公を指名するのだった。
これが”いつも”の授業風景だった。
放課後、少年と少女は図書室へ行った。彼らは図書委員だった。
「さて、お前らだけ? まあいいや、図書の整理を頼んだ」
担当は担任の先生だった。
「まったく、なんで二人でやんなきゃいけないの?」
先生も彼女の幼馴染だった。
「まあ、いいじゃん。自分も手伝うからー」
へらへらした笑みを浮かべる彼に仕方がないと少年は整理を始めた。
少女も少年を追うように整理を始めた。
先生は彼女たちと反対側から整理を始めた。
黙々と整理をする少年に彼女はどうしてこんな事はするのか、と尋ねた。
「うん、早く帰りたい」
少年はそういうと、作業する手を速めた。
少女は知ってる本に出会うとその内容を思い出し、少しの間止まってしまうので少年より遅かった。
その、少年の手が止まった。
「なんか、面白い本でも見つけた?」
少年は少女の方を向き、こういった。
「うーん、もし僕がこの世界から消えるとしたらどうする?」
あまりに唐突な冗談だった。
「何言ってんの? 消えるなんて簡単にできないでしょ」
少女も冗談として返すことにした。
少年は小さく笑って、二人は整理へと戻った。
今日はこの辺にしよーか、という先生の声がかかり今日の作業は終わった。
少女は塾にでも行くのだろうか、少年を置いて先に帰って行った。
「先生、どうしてここに……」
少年は先生を見つめていた。先生は依然として笑ったまま言った。
「……お金貰ってないしセーフでしょ。家庭教師してたって」
拍子抜けした少年の顔を見てまた笑う先生。早く帰れよ、といい残し彼も帰って行った。




