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『のんびり暮らしたい宿屋の娘、今日も子育て相談を受けています』 ~元小児科看護師の異世界暮らし~  作者: 入野 カフェイン


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84/84

第84話 夏が暑すぎる…。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


「Forest亭、ちょっと好きかも」と思っていただけたら、

評価やブックマーク、リアクションをいただけるととっても嬉しいです!


皆さまからの反応を励みに、これからものんびり楽しく更新していきます。


引き続き、ルマとForest亭をよろしくお願いします!

夏の暑さは、今日も容赦がなかった。

前世では、出退勤の時の暑さを感じるだけでよかった

家でも冷房で、病院でも常に冷房管理されているから、快適ライフを過ごせていた


朝から照りつける太陽に、街の石畳はすっかり熱を持っている。

こんな日は、外に出ずに涼しいところでのんびりするに限る。

「……あつい」

私はForest亭のカウンターに座り、冷たいリモネ水をちびちび飲んでいた。

隣ではリトが木のブロックを並べて遊んでいる。

「ねえ、リト」

「んー?」

「昨日のマングラ、おいしかったねぇ」

「おいちかった!」

「また食べたいねぇ」

「たべたい!」

昨日、冒険者のイトたちがお土産にくれたマングラ。

あの濃厚な甘さと、とろっとした果肉。

思い出すだけで幸せな気持ちになる。

(あれ、冷たくしたら絶対おいしいよねぇ)

マンゴーシャーベットに、マンゴージェラート。

前世では夏になるとよく食べていた。

特に、暑い日に食べる冷たいジェラートは最高だった。

「……ジェラート食べたい」

「じぇらーと?」

「冷たくて、あまーいおやつ!」

「たべる!」

「だよねぇ!」

でも、この世界には冷凍庫がない。

氷だって見たことがない。

(……ん?)

私は手元のリモネ水を見つめた。

そういえば。

私、水魔法で冷たい水を出せるよね?

それなら、もっともっと冷たくしたらどうなるんだろう。

(……氷になるんじゃない?)

水は冷やせば凍る。

前世では当たり前だったことだ。

でも、魔法でそれができるかはわからない。

「……ねえ、パパ!」

ちょうど厨房から出てきたパパに声をかけた。

「ん? どうした、ルマ」

「氷の魔法ってある?」

「氷?」

「うん! お水をカチカチにする魔法!」

パパは少し考えてから首を傾げた。

「いや、聞いたことがないな」

「ないの?」

「ああ。水の魔法ならあるが、氷を作る魔法か……。少なくとも、俺はそんな魔法を使う人を知らないぞ」

「へえー」

「どうしたんだ、急に」

「ちょっと気になっただけ!」

私はにっこり笑った。

パパは不思議そうにしていたけれど、それ以上は聞いてこなかった。

(氷魔法はないのかぁ)

でも、存在しないというより、知られていないだけかもしれない。

そもそも、魔法ってイメージが大切なんだよね。

だったら。

(……ちょっと試してみようかな)

◇

私は小さな木の器を持って、裏庭へ向かった。

もちろん、リトも一緒だ。

「ねえね、なにするの?」

「ちょっと実験!」

「じっけん!」

リトは意味がわかっているのかいないのか、楽しそうについてくる。

私は日陰にしゃがみ込み、器を地面に置いた。

まずは、いつもの水魔法。

手のひらから水を出し、器に溜める。

「おみず!」

「そう、お水!」

リトが嬉しそうに覗き込む。

私は指先を水につけた。

ひんやりしている。

いつも通りの冷たい水だ。

(ここから、もっと冷たくするんだよね)

私は器に手をかざした。

まず、水が冷たくなっていくところを想像する。

少しずつ。

ゆっくりと。

水の温度が下がっていく。

前世で冷凍庫に入れた製氷皿を思い浮かべる。

最初はただの水。

それがどんどん冷えて、表面から薄い氷ができ始める。

やがて全体が固まり、カチカチの氷になる。

(もっと冷たく……もっともっと……)

魔力をゆっくり流していく。

すると。

ぴしっ。

「……ん?」

器の中で、小さな音がした。

水面を見ると、薄い膜のようなものが広がっている。

「……え?」

私はそっと指を伸ばした。

つん。

硬い。

「…………」

もう少し魔力を流してみる。

ぴし、ぴしっ。

薄い膜が少しずつ厚くなり、水の中に白い筋が広がっていく。

そして、しばらくすると。

「……できた?」

器を持ち上げて傾けてみる。

水がこぼれない。

指でつつくと、こんこんと硬い感触が返ってきた。

「…………氷だ」

本当に氷だ。

「……できちゃったぁ!」

思わず声が大きくなった。

「ねえね!」

リトがびっくりして私を見る。

「あ、ごめんごめん!」

私は慌てて口を押さえた。

でも、嬉しいものは嬉しい。

(すごい! 私、氷作れちゃった!)

これって、もしかして新しい魔法なのでは?

いや、水魔法の応用だから新しい属性とは違うのかな。

まあ、そんなことはどうでもいい。

大事なのは。

(氷が作れる!!)

これで冷たいおやつが食べられる!

「ねえね、かちかち!」

リトが氷を指差す。

「そう! カチカチ!」

「つめたい?」

「冷たいよー!」

リトがそっと指先で触れた。

「ひゃっ!」

すぐに手を引っ込める。

「つめたーい!」

「ふふふ!」

二人で顔を見合わせて笑った。

◇

「パパー!」

私は氷の入った器を持って厨房へ戻った。

「おう、どうした?」

「これ見て!」

パパが器を覗き込む。

「……ん?」

私は得意げに器を差し出した。

「氷!」

「……氷?」

パパが指で触れる。

そして、ぴたりと動きを止めた。

「……ルマ、これはどこで手に入れた?」

「作った!」

「……作った?」

「うん! 水魔法で!」

パパはしばらく無言だった。

そこへママもやってくる。

「どうしたの?」

「フルコ、ちょっとこれを見てくれ」

「まあ……!」

ママも驚いたように氷を見つめた。

「本当に氷ね。こんな暑い日に、どうしたの?」

「ルマが魔法で作ったらしい」

「えっ?」

ママが私を見る。

私は頷いた。

「お水をね、どんどん冷たくして、カチカチになるところを考えたの!」

「……それでできたの?」

「うん!」

パパとママが顔を見合わせる。

「……驚いたな」

パパが小さく呟いた。

「さっきも言ったが、俺は氷を作る魔法なんて聞いたことがない」

「やっぱり珍しい?」

「ああ。少なくとも、普通に使われている魔法ではないと思うぞ」

ママは少し考えてから、私の前にしゃがんだ。

「ルマ、この魔法のことは、しばらく家族だけの秘密にしましょうか」

「ひみつ?」

「ええ。珍しい魔法が使えると知られたら、いろんな人が会いに来るかもしれないでしょう?」

「……!」

それは困る。

とても困る。

知らない人に囲まれたり、魔法を見せてほしいと頼まれたり。

そんなことになったら、私の平和な生活が台無しである。

「ひみつにする!」

即答した。

パパが笑う。

「ははっ。ずいぶん早いな」

「だって、めんどくさいもん!」

「……ルマらしいわねぇ」

ママも笑った。

「リトも、これはお外でお話ししないでね」

「ひみつ!」

リトが口元に人差し指を当てる。

「しー!」

「そう、しーっ、ね」

よし。

これで安心だ。

氷魔法は家族だけの秘密。

私はこれからも、平和にのんびり暮らすのである。

◇

さて。

氷が作れるようになったのはいいけれど、ひとつ問題があった。

「……とけちゃった」

カウンターに置いていた器の氷が、少しずつ水に戻っていた。

当然である。

今は夏だ。

せっかく作っても、そのまま置いておけば溶けてしまう。

(うーん……)

もう一度作ればいいんだけど。

さっきの氷を作るとき、いつもの水魔法より少し疲れた気がする。

何度も作るのは面倒だ。

それに、冷たいおやつを作るなら、氷だけじゃなく材料も冷やしたい。

できれば、いつでも使えるように保存しておきたい。

(やっぱり冷凍庫が欲しいなぁ)

でも、冷凍庫を作る方法なんて知らない。

前世では当たり前に使っていたけれど、どうやって冷やしているのかなんて、詳しく考えたこともなかった。

電気もないし。

……ん?

(魔道具なら、できるんじゃない?)

そうだ。

この世界には魔石がある。

魔石を使った魔道具なら、魔法と似たようなことができる。

水を出す魔道具だってあるし、風を出す魔道具もある。

だったら、冷たい水や冷たい風を出す魔道具だって作れるかもしれない。

(……モルトさん!)

私はぱっと顔を上げた。

以前、ミキサーを作ってくれた魔道具職人のモルトさん。

あの人なら、何かいい方法を考えてくれるかもしれない。

「リト!」

「ん?」

隣で木のブロックを並べていたリトが顔を上げた。

「モルトさんのところ行かない?」

「いく!」

「早っ!」

私も即答することは多いけれど、リトもなかなかである。

「じゃあ、ママに聞いてこよ!」

「うん!」

◇

「ママー!」

厨房に顔を出すと、ママが夕食の仕込みをしていた。

「あら、どうしたの?」

「モルトさんのところ行ってきていい?」

「モルトさん?」

「うん! ちょっと相談したいことがあるの!」

ママは一瞬、不思議そうな顔をした。

それから、何かに気づいたように笑った。

「もしかして、さっきの氷のこと?」

「……えへへ」

「もう。今度は何を考えたの?」

「冷たいものを入れておける箱!」

「箱?」

「うん! 中がずーっと冷たいの!」

ママは少し驚いた顔をした。

「そんなものができたら、食材の保存にも便利そうね」

「でしょ!」

そうなのだ。

お肉だって、野菜だって、果物だって。

冷たく保存できれば、今よりずっと便利になるはず。

……まあ、私の一番の目的はジェラートなんだけど。

そこは黙っておこう。

「リトも一緒に行くの?」

「ぼくも!」

リトが元気よく手を上げる。

ママは頷いた。

「わかったわ。でも、寄り道せずに帰ってくるのよ。暑いからお水も持っていきなさい」

「はーい!」

「はーい!」

二人揃って返事をした。

◇

外に出ると、むわっとした熱気が顔に当たった。

「……あつい」

「ねー」

リトと手をつないで歩く。

石畳は太陽に照らされ、遠くの景色が少し揺らいで見える。

こんな日に外を歩くなんて、本当は嫌だ。

でも。

(冷凍庫のためなら仕方ない!)

未来のジェラートのためである。

頑張ろう。

「ねえね」

「ん?」

「ひえひえ?」

「そう! ひえひえの箱を作ってもらうの!」

「こおり?」

「氷も作れたら最高だねぇ」

「おやつ!」

「そうそう! 冷たいおやつ!」

リトも楽しみらしい。

ふふふ。

いいねぇ。

二人でおいしいものを食べようね。

◇

カラン、カラン。

「こんにちはー!」

モルトさんの店の扉を開けると、奥から金属を叩く音が聞こえてきた。

「……ん?」

作業台の向こうから、モルトさんが顔を出す。

「なんだ、ルマか」

「こんにちは!」

「こんにちは!」

リトもぺこりと頭を下げた。

「おう。今日は二人か」

「うん!」

モルトさんは手に持っていた道具を置いた。

「それで、今日は何の用だ?」

「相談!」

「……また何か思いついたのか」

「えへへ」

モルトさんが小さくため息をつく。

でも、なんだか少し楽しそうにも見える。

私は作業台に近づいた。

「ねえねえ、モルトさん」

「なんだ?」

「冷たい水を出す魔道具って作れる?」

「冷たい水?」

「うん! 雪みたいに、すっごく冷たいお水!」

モルトさんは腕を組んだ。

「……水の魔石を使えば、水を出すことはできる。温度を調整する回路も考えられなくはないが……」

「ほんと!?」

「どこまで冷たくできるかは、試してみないとわからんな」

「おおー!」

希望が見えてきた!

「じゃあ、冷たい風は?」

「風?」

「うん! すこーしだけ、冷たい風を出すの!」

モルトさんが首を傾げた。

「冷たい水に、冷たい風……。いったい何を作るつもりだ?」

私は両手を広げた。

「中がずーっと冷たい箱!」

「……箱?」

「そう! 食べ物を入れておいたら、ずっと冷たいままなの!」

モルトさんはしばらく黙っていた。

それから、作業台に並んだ魔石へ視線を向けた。

「……なるほど」

「できそう?」

「まだわからん。だが、水と風の魔石を使うという発想は悪くない」

「やった!」

私は思わず両手を上げた。

その隣で、リトが作業台をじっと見つめている。

「ぐるぐる……」

「ん?」

リトは風の魔石を指差した。

「かぜ、ぐるぐる!」

「風を回すのか?」

モルトさんが尋ねる。

「うん!」

リトは小さな指で、くるくると円を描いた。

モルトさんは少し考え込んだ。

「……風を弱く出し続けて、箱の中を巡らせる。そこに冷たい水を組み合わせれば……」

「お?」

私は顔を上げた。

モルトさんが何やら考え始めている。

「……面白いな」

ぽつりと呟いた。

「モルトさん?」

「水の魔石で冷たい水を少しずつ出す。風の魔石で冷たい風を弱く流し続ける……。うまく組み合わせれば、箱の中の温度を下げられるかもしれん」

「ほんと!?」

「ああ。ただし、実際に動かしてみないとわからんぞ」

「うん!」

私は大きく頷いた。

モルトさんは棚から小さな金属の盤を取り出した。

魔石をはめ込むためのくぼみがある、魔道具用の盤だ。

「……少し試してみるか」

「やったー!」

リトも嬉しそうに手を上げる。

「やったー!」

私は目を輝かせながら、モルトさんの手元を覗き込んだ。

(ふふふ……)

これは、もしかして。

本当に冷凍庫ができちゃうのでは?

そうなったら、マングラのシャーベットも、ボナナのジェラートも夢じゃない。

もちろん、氷魔法のことは秘密のまま。

魔道具なら、私が毎回魔法を使わなくてもいい。

なんて素晴らしいんだろう。

モルトさんは細い道具を手に取り、金属の盤をじっと見つめていた。

その隣では、リトが楽しそうに指をくるくる回している。

私は二人を眺めながら、にんまりと笑った。

こうして、私の小さな思いつきから、冷たい箱を作る計画が始まった。

目指すは、いつでも冷たいおやつが食べられる生活!

……あ、もちろん食材の保存にも使えるよ?

うん。

そっちも大事。

でも、まずは。

(ジェラート、食べたいなぁ)

今日も私の頭の中は、おいしいものでいっぱいだった。

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