量産型マムシの咆哮と、弟子の覚悟
養鶏場の裏山。そこには、一等陸佐の指導のもとで作られた「近代的な射撃訓練場」があった。的となっているのは、CEOの拠点からくすねてきた鉄の盾だ。
「いいか小次郎、五助、お凛。これが私が設計し、一益殿と協力して作り上げた『コルトマムシ・量産試作型』だ。シリンダーの回転は手動だが、火縄銃五人分の火力を一人で持てる。ただし、一発でも不発れば、その瞬間にあんたたちは死ぬ。……覚悟はいいかい?」
私が不思議ポケットから取り出した黒光りする鉄塊を渡すと、小次郎の手が微かに震えた。だが、その瞳に宿るのは恐怖ではなく、獲物を狙う野獣の飢えだった。
「……やってやる。俺たちが、百舌鳥様の盾になるんだ」
小次郎が銃を構えた、その時だった。
「――目標、確認。全個体、排除せよ」
無機質な声と共に、森の四方からCEO直属の暗殺部隊「カラス衆」が躍り出た。彼らは現代のタクティカルな動きをコピーし、手には「連発式のクロスボウ」を装備している。
「うわっ、出た! 噂をすればブラック上司の刺客! 一佐殿、配置について!」
私が叫ぶと同時に、一等陸佐が音もなく木の上に消えた。茶々丸は即座に指笛を吹き、周囲の犬や鳥を攪乱に回す。
「小次郎! 初陣だ! おじさんのレシピ通りに、そいつらをハチの巣にしな!」
「……了解!」
小次郎がリボルバーのトリガーを引いた。
バギィィィン!!
凄まじい轟音と火花が、静かな森を切り裂く。CEOの刺客の一人が、その威力に胸を撃ち抜かれ、木に叩きつけられた。
「な……なんだ、あの連射速度は!? 火縄もなしに三発、四発と……!」
刺客たちが動揺する。そこへ、大柄な五助が不思議ポケット特製の「防弾盾(といっても厚い鉄板だが)」を構えて突撃した。
「百舌鳥様のご飯を邪魔する奴は……許さないんだからぁぁ!」
五助の怪力が敵を吹き飛ばし、お凛が隙を突いて「粘着ローション弾」を投げつける。ヌルヌルとベタベタの地獄絵図の中、小次郎のコルトマムシが正確に敵の急所を撃ち抜いていく。
一等陸佐が上空からクロスボウで支援し、わずか数分で、CEOの精鋭部隊は全滅した。
地面に転がる、さっきまで人間だったモノ。鼻を突く硝煙と、どろりと流れる血の臭い。
「……はぁ、はぁ。……お師匠様。俺、やったよ。」
小次郎が、返り血を浴びた顔で私を見た。その目は、もはや子供のそれではない。一人の殺し屋としての覚醒。私はそれを見て、胸の奥がチリりと痛んだ。中身がおじさんの私は、こんな子供に人殺しをさせたことに、耐え難い自己嫌悪を感じていた。
「……よくやった。でもね、小次郎。銃を置いたら、すぐに石鹸で手を洗いな。汚れも、血の臭いも、全部落として……今夜は特盛の親子丼だ。いいか、食うまでが遠足……じゃなくて、任務だぞ。」
私は無理やりギャグを飛ばし、震える小次郎の肩を抱き寄せた。
CEO。あんたの「効率」は、この子たちの「日常」を壊した。おじさんは、あんたを絶対に許さない。
その夜、宿舎の縁側で、小次郎とお凛が寄り添って、血のついたコルトマムシを磨いていた。
「……小次郎くん、怖くなかった?」
「……怖かったよ。でも、銃を撃ってる時だけは、自分が強くなった気がしたんだ。」
二人の会話を盗み聞きしながら、私は不思議ポケットから出したマヨネーズを、冷めた鶏肉にぶちまけた。
酸味と旨味が口に広がる。
シリアスな殺し合いの後に食うジャンクフード。最悪の気分で、最高の味だった。
「……さて。殿(信長)に報告だ。次世代のマムシたちが、産声を上げたってね。」
雷蔵が静かに寄り添い、私の冷えた手を温めてくれた。
本能寺の変まで、あと一歩。
私たちは、地獄へ向かう準備を整え終えた。




