魔王の誘いと、闇堕ちのイチゴ
清洲城の広間。信長様は、CEOから贈られたという「図面」を広げて上機嫌だった。
「百舌鳥よ! 南蛮の教皇が、俺たちのために『正装』を用意しておるらしい。イチゴという果実を模した、全身を包み込む柔らかな衣(着ぐるみ)だそうだ。これを着て京へ入れば、民衆は俺を神の化身と崇めるに違いない!」
「……殿、それ、絶対にCEOか宣教師が嘘吹き込んでますって。イチゴの着ぐるみで京を練り歩くとか、ただのゆるキャラじゃないですか。」
「ゆるきゃら? 何だそれは。とにかく、お前には『バナナ』という細長い果実の着ぐるみを用意させておる。二人並べば、日ノ本の夜明けを象徴する色彩になるとな!」
信長様は本気だ。本気でイチゴとバナナで天下を獲るつもりだ。私は頭を抱えた。隣で雷蔵が「……マジかよ」という顔で私を見ている。
一方、京の本能寺。明智光秀は、CEOが差し出した「品種改良の極み」である、真っ赤なイチゴの着ぐるみを前に立ち尽くしていた。
「……光秀殿。これこそが、未来の王の姿です。信長公はすでに、これを着てイチゴの精霊として君臨することを決意されました。あなたが守りたかった『武士の矜持』は、このフカフカした綿の中に消えていくのです」
CEOの冷徹な声が、光秀の精神を削り取る。光秀は震える手で着ぐるみの素材に触れた。あまりに柔らかく、あまりに滑らか。それは、泥臭い戦場や厳しい礼節とは無縁の、退廃的な心地よさだった。
「……あぁ。あぁ……! こんな、こんなフカフカしたものが天下だというのか! 上様は、上様はもう、イチゴになってしまわれたのかぁぁ!」
光秀の叫びが、夜の本能寺に響き渡る。彼はそのまま、CEOから渡された「糖度80%のイチゴ」を貪り食った。理性が甘みに溶け、光秀の中で何かが決壊した。
「敵は……本能寺の、イチゴにあり……!」
その頃、私はポケットの中身を整理しながら、一等陸佐と作戦会議をしていた。
「一佐殿。どうやら信長様はイチゴ、私はバナナの着ぐるみを着せられるらしい。……これ、どんな戦術的メリットがあると思う?」
一等陸佐は真面目な顔で、自作のコンバットナイフを磨きながら答えた。
「……視覚的混乱による精神攻撃だな。敵は笑い転げるか、恐怖で動けなくなるかの二択だ。私は、バナナの皮を模した踏み板トラップ(ローション付き)を用意しておこう。」
「……あんた、馴染むの早すぎだよ。」
茶々丸と弟子たちが、リボルバー「コルトマムシ」の最終点検をしている横で、私は重い溜息をついた。歴史が、いよいよ「イチゴとバナナ」という最悪の色彩に染まろうとしていた。




