第46話 第二次調査へ
『報告。五月一八日の一件以来、黒舞地区、蓮辺地区、山蓋地区にて一般人と賢術師双方の不可解な死亡事案が多数発生。いずれも遺体は、全身の肉を毟られた状態で死亡しているのを朝に発見されている。調査に本部の賢術師と、『万』の二年賢術師を二名派遣することとしたが、調査結果、第二次調査が必要と判断。第二次調査には、新たに『万』教諭、柊波瑠明を派遣することとする——』
***
五月二一日、朝。
「危なかったね。もうちょい遅かったら——」
『万』生徒寮、とある部屋。
血塗れのベッドで横たわる眞樹の横で柊が言う。
「——全身の肉を引き千切って死んでただろうね」
「先生、やっぱ眞樹も……」
「うん。アレの被害者だね」
流聖の問いにそう答える柊。
直後、隣から虹が聞いた。
「じゃあ肉を毟っても一切起きる気配がないって、やっぱりその影響なんですかね」
「その可能性が高い。って言うか、ほぼそれで間違いないだろうね」
柊の空想実現で眞樹の状態を静止するための可能性を実現しているため、眞樹の動きは止まっているものの、危うく死に直面する状況だ。
「第二次調査、俺が今日単独で行ってくるよ。本当は明日の予定だったけどね。俺らの教え子にまで被害が拡大してると来たら、それでも黙ってる俺じゃないよ」
柊は術水を操作し、眞樹の身体を宙に浮かせる。
「このまま由美んとこ連れてった後に、第二次調査行ってくるわ。あぁ、一年生の授業、悪いんだけど俺からだって言ってみのりんに頼んでもらってもいい?」
「あ、はい。わかりました」
「じゃ、任せたよ」
そう言い、最初に颯爽と部屋を出ると、柊は壁にぶつけない様に慎重に部屋の扉から眞樹を出す。
そして、そのまま生徒寮を出た。
「この件は一旦柊先生に任せるしかないな。一年に迷惑かけんのもなんだ、さっさと美乃梨先生に頼みに行こうぜ」
「そうだな」
眞樹への心配が表情に漏れ、腑に落ちない様な雰囲気ながら、二人も生徒寮を後にした。
***
山蓋地区。
「復興作業、あんま進んでないね。こりゃ……」
柊が山蓋地区を訪れたのは、あの日以来一週間と少しぶりだ。現地には既に本部の賢術師が複数名おり、第二次調査を行っていた。
柊はとある一軒家の調査をしていた賢術師二名に声をかける。
「久しぶり、晃楽」
「……え?あぁ、波瑠明先輩じゃないですか!」
二名のうちの一人がそういうや否や柊の元へ駆け寄った。もう一名の賢術師もこちらへ視線を注ぐ。
柊の目の前まで歩いたその賢術師は言った。
「久しぶりです、先輩。先輩も第二次調査に?」
「うん。本部の要請でね。それにしても大きくなったもんだね」
「先輩に言われて自分、筋トレずっとやってたんですよ」
「どおりでねぇ」
柊がそこまでいうと、後方で見ていたもう一人の賢術師も駆け寄ってきた。
「どうも、柊さん。ご無沙汰してます」
「魁斗も一緒なんだね」
彼らは柊の二年下の後輩だった古黒晃楽と、一年下の後輩だった野々田魁斗だ。
どちらも、柊がよく面倒を見た後輩である。
「本部も本気ですね。波瑠明先輩を派遣するなんて」
「本当は明日が調査日の予定だったんだけど、今日の朝、この案件の関係で俺の教え子が危ない状況になっちゃってね。予定前倒しで今日、調査決行ってわけ」
柊の言葉に、二人は顔を見合わせる。
「そうでしたか、柊さんのところでも……」
魁斗が俯きながらそう呟く。
「やっぱ本部でも被害出てるよね」
「はい。確認できるだけでも、いよいよ三〇に到達しそうなんですよ。俺の同期も多く被害に遭ってしまって。このままじゃヤバいですよね」
「ヤバいね」
柊が辺りを見渡す。
「俺も協力するよ。今何してんの?」
「えっと……待ってくださいね」
晃楽はそう言い、肩から提げた手提げから一枚の用紙を取り出した。
「ええっと」
「それは?」
「あぁ、これは山蓋地区の地図です。何せ広い地区ですし、なにより自分、覚えるの苦手なので。まだみんなが調査してない箇所を調査していただきたいなと思いまして」
「なるほどね」
晃楽と魁斗は地図を数秒凝視した後、柊に話しかける。
「ここら一帯は自分たちで調査してしまいます。先輩は、西の方のここら辺の調査をお願いします。多分、先に他の方々が向かってると思いますが」
「あぁ、楓真さんもあちらに」
そう言い、魁斗が西の方角を指し示した。その方角の方へ歩き出し、柊が晃楽と魁斗に手を振る。
「ありがと。引き続き頑張ってー」
「「はい」」
西の方角への道中、調査中だった賢術師たちと挨拶を交わしながら、人の多い箇所へ向かう。
柊が訪れたのは山蓋地区の西側だ。柊が駆け付けると、そこでは既に賢術師が数人調査にあたっていた。
「おぉ、波瑠明じゃん」
サラサラな黒髪を靡かせる高身長の男が柊に声をかける。彼は本部の賢術師、風原楓真。学生時代の柊の同期だ。
「楓真、久しぶり」
調査中だった楓真が柊の元へ駆け寄る。同時に、早速だがと前置きを置いて柊が口を開く。
「俺も調査俺も手伝うよ。何やればいい?」
「そりゃ助かるわ。じゃ、あの家を調査してくれ。基本的に一軒家を二人から三人で順々に調べるんだが、お前のことだ。一人で十分だろ」
「任せてよ」
意気揚々とその一軒家へ歩き出す柊だが、そんな柊に楓真が背後から声をかけた。
「頼もしいのは学生時代から変わんないな」
柊がその言葉に、ニカっと表情に笑みを浮かべた。
「やめてくれよ」
柊は楓真に指定された一軒家の前まで歩く。そして、徐に目の前の扉に手を伸ばした。
「ん?」
手を伸ばすも、その手を引っ込める。同時に柊は、目の前の扉を凝視していた。
(この一軒家、妙な気配だな……。最初の調査で気がつかなかったのか……?)
柊は改めて扉に手を伸ばし、取っ手を握る。特につっかかったりすることなく、スウゥッと扉は開いた。最初に内部を覗き込み、その後玄関へ入る。
(二階か?俺と平行線上に妙な気配を感じるわけじゃない。どんなに低くても俺の頭上二五センチ以上——ちょうど二階の床くらいか)
柊は一階の調査の前に二階へと登る。
妙な気配がしたのは、柊の直感で二階の部屋のどこか。慎重に探り、柊はとある部屋の前へと辿り着いた。扉を開けて部屋の中を見渡す。
そこは、ベッドが二台並ぶ寝室であった。
(その裏か……)
柊は躊躇なく寝室へ入り、並ぶ二つのベッドに挟まれている小さな棚の前に立つ。それをどかし、その裏を確認した。
「……羽?見るからに魔術骸か何かの遺物って感じがするね」
そこにあったのは、魔源らしきオーラを帯びた巨大な鳥の羽のようなものだった。眞樹と虹が行った先の調査で発見された品と同じものである。
「素手で触らない方がいいから……とりあえず覚えておいて他んとこ探すか」
その羽には敢えて触れず、柊は寝室を隈なく調査したのち、一旦寝室を出る。その後寝室以外の部屋の調査を行うも、これと言ったものは出てこなかった。
柊の調査した一軒家の異変は寝室にある、魔源を帯びた鳥の羽の存在のみだ。
(一回目の調査でも幾つか見つかったんだっけ、この羽っぽいやつ。やっぱりこの事件、数年前のアレがまた——)
柊は一軒家を出ると、また隣の一軒家の調査を始める。その後探した複数の一軒家で同様の羽を発見した旨を楓真に伝え、柊は一旦『万』へと戻るのだった。
第二次調査にて異変が見つかり——?




