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転生先では気の向くままに。  作者: ろく
1章
9/17

賢い子

 あの転生から数か月が過ぎ———。



 私はハイハイで動くことができるようになっていた。


 この体、赤ん坊というだけあってかなり動くのも力を使うのだ。

 そして、すぐに眠たくなるというのが難点である。



「あら、プラム。こんなところまで動けるようになったの。」


 動かしていた手を止め、「すごいわねぇ。疲れたでしょう?」と笑いながら私を抱っこするシラン母様。

 抱っこしてもらいながら母様がしていた作業を盗み見る。


 母様の作業……仕事は、洋裁である。



 私が生まれたこの家では、父様が狩猟を行い、母様が洋裁をして生計を立てている。

 と言ってもどこの家庭でも似たようなものだと、母様と父様が話しているのを聞いたことがある。


 私たち親子が住むこの家は小さな村の集落にあり、馬車や馬で半日ほどかけて行ったところに大きな都市が存在している。


 山に囲まれたこの村は、貧困とまではいかないが、間違っても裕福ではない。

 山に囲まれているせいか様々な生き物が共存しており、それらを狩猟して食料や衣類として活用しながら生活をしている。

 半日かけて都市まで商売をしに行ったり、村内で自給自足したりしながら、みんなで仲良く穏やかに暮らしているのだ。



「母様の仕事が気になるの?」


 母様の言葉に頷くように頭を動かすと、「プラムは言ってることがわかるのね。賢いわね。」とにこやかにほほ笑みながら母様が仕事の話をしてくれる。



「今はね、この前取れた鹿の皮で服を作っているのよ。鹿の皮は柔らかくて着心地がいいから、いろいろな人から重宝されているのよ。」


「んだぁ。」


「ふふっ。プラムは母様の話をわかっているみたいに返事してくれるのね。」


「んだ。」


「賢いわねぇ。すぐに言葉も覚えてしまうのでしょうね。」


「あー。」


「賢いプラム。母様はこんなに可愛くて賢い娘がいて幸せだわ。」



 にこやかに笑う母様をみて、私もほっこりと笑顔になる。

 転生初日、異世界言語の習得や転生についてばれてはいけない、と考えていたが、母様や父様と接するうちにそれは間違いであったと気づいたのだ。


 転生から少し経った頃、うっかり何度か二人の会話に返事…と言っても「んだぁ。」「あー。」程度ではあるが、反応をしたことがある。

 その際、しまった!と思った私の気持ちとは裏腹に、父様も母様も、私のことを恐怖することはなく、賢い子供だと喜ぶ様子ばかりだったのだ。

 それ以来、私は普通に返事もすれば反応もするようにしているのだ。



 ……以前、「プラムは他の子より成長が早いのね。」「うちの子は本当に賢いな。」と話し合う両親を見て、少し胸が痛んだのは気のせいであろう。


(いくら私の精神年齢がおこちゃまとはいえ、実年齢は82歳の婆だ。)




「賢すぎて、母様はあなたが明日にでも話し出すんじゃないかと思うわ。」


「んだ…。」



 クスクスと笑いながら、「そこまでじゃないわよねぇ。でも話せたらもっと楽しくなるわね。」と冗談交じりに言う母様を見て、声帯さえできていればそれもあり得るかもしれない、と思うのであった。




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