Prince's wish Part 2
本日二話目です。
愛しいヒトに、可愛いヒト。
必ず幸せにします、14代目リス王国国王リュカ・ロワ・リスの名に誓って。
□■□ Prince's wish Part 2 □■□
「おやおや、リュカがここに来るなんて珍しいな。」
あの舞踏会より幾日か経った頃、私は公務もあってジュファ皇国へと赴いていました。
幼馴染殿が言うように、いつもは私の執務室に幼馴染殿が来るのが常であって、その逆は殆ど皆無です。
しかし、その『常』を破ってでも私はここに来なければならなかったのだ。
「話が違うじゃないか!幼馴染殿!!」
「お、おう、どうした?リュカ…。」
あの舞踏会で出会った彼女を手に入れることは出来ました。
ベルナール男爵家嫡子エマ・バロン・ベルナール…それが彼女の名でした。
くしくも先々代王妃であり賢母と名高かったエマ・レーヌ・リスと同じ名を有する彼女でしたが、その実状は直感とはあまりにもかけ離れていたのです。
「君は『私の理想の王妃と出会う』と言った。しかし彼女はどうだ?継母に虐げられ必要最低限の貴族としての在り方しか知らなかった。
そんな彼女が『理想の王妃』?ふざけるのいい加減にしてくれ!」
「おうおう…荒れてるな~。
…しかし、あの男爵家令嬢を選んだことで側妃教育を施す時間が必要となり、結果王妃選定まで時間稼ぎが出来たじゃないか。」
ジュファ皇国では側妃は後宮での女主人代行や御子の生みの親…つまり家族として数えられ外交や政治の場には出てきません。
しかしリス王国では側近として政治を担う一員に数えられます。
陛下も言質を取られた手前、彼女を側妃に認めない訳にはいきません。
確かに時間稼ぎと言った意味では、彼女を選んだのは最良の人選だったのでしょう。
「代わりに私が成人した暁には王子妃が発表されることになったがな!」
こうなってしまえば、もう私は愛しいヒトを手に入れる未来などありません。
無残に愛しいヒトを失うくらいなら愛しいヒトとの思い出を糧に、男爵家令嬢とレア嬢を妃にして生きて行こう。
そう秘かに決意を胸に抱いていると、部屋中に不穏な呻き声が響き渡ります。
「くくく…くくくく……あーははははは!!」
「お…幼馴染殿?」
「くくく…なあ、リュカ?彼女は己が側妃に選ばれていることは知っているのか?」
「え…?いや、妃としか言っていないが……。」
「ならそれとなく…そうだな、そのレア嬢の口からがいいな。陰口といった形で彼女が側妃になることを知らせろ。」
「何故?そんなことして彼女が妃となることを辞するようになったら…。」
「いいから。」
タロットカードを取り出しいつも以上に腹黒く…否、不敵に笑う幼馴染殿には一体どんな未来が視えているのでしょうか…。
しかし今回を含めた今までの実績が私に『幼馴染殿を信じろ』と言っているのがわかります。
私も次期一国の王として曲げられないものも、あります。
公務から帰った私は優秀な影に手を回して、幼馴染殿が言った通りに彼女の耳に側妃の話が入るようにしたのでした。
「どうしたんだい、私の可愛いヒト。教師から聞いたよ、まるで別人のようだって。」
結果から言えば、幼馴染殿の言う通りの結果となったというべきでしょうか。
側妃の話を可愛いヒトの耳に入れさせた翌日には、可愛いヒトはあの日の直感通り王妃に相応しいと言えるヒトとなっていました。
「リュカ様…私、前から思っていたのです、このままでは駄目だって。このままではリュカ様の隣に立つのに相応しく無いって。
だからこっそり特訓して…自信がついてから、行動に起こしてみようって思ったのです。
―――そんなに、変でしたでしょうか?私、まだリュカ様の隣に立つには役不足でしょうか…?」
そして垂れかかるように、不安げに可愛いヒトは私を見上げてきました。
本当に、このヒトは―――。
「…いいや、そんなことないよ、私の可愛いヒト。本当に、私の妃はいつも私を驚かせてくれる。」
「リュカ様……。」
嬉しそうに囁く可愛いヒトを抱きしめ確信する。
やはり彼女にこそ王妃の座は相応しいと!絶対に側妃として終わらせてはいけないと!!
それから彼女の生活は激変しました。
まず私の公務に動向させ経験と次期王妃としての素質を内外にアピールする。
勿論彼女をよく思っていない臣下の者や令嬢達が口撃しても私は助けません。
そんなことしなくても彼女は彼らを蹴散らせてみせたのですから。
徐々に素質を認められ、遂には現宰相にしてデュボワ侯爵家当主から養子縁組を打診され。
そして―――。
「綺麗だよ、私の可愛いヒト。」
「リュカ様……!」
春麗らかな今日、私の戴冠式より一ヶ月経った今日、遂に私の可愛いヒトは王妃となりました。
前王であった父上から王妃を打診されていたマルタン侯爵家からの抗議や妨害があるかもしれないと懸念していましたが、肝心のレア嬢が既に他国に嫁いでしっていた為取り越し苦労となりましたが。
これで、全てが整いました。
後は王妃の協力を得られるだけ。
「…今、何と言ったのですか?リュカ様……。」
「側妃を娶ろうと思うんだ、私の可愛いヒト。」
大よそ初夜の最中に告げるべきことでは無かったかもしれません。
しかし側近にも、他の誰にも知られること無く王妃に事の計画を早急に話すには今この時以外無かったのです。
「彼の国と同盟を結べれば何より国も豊かになる。君には彼女の友となり、味方となり、支えて欲しいんだ。私の可愛いヒト。」
自分でも残酷なことを言っている自覚はありました。
だからこそ王妃から詰め寄られても甘んじて受け入れるつもりでした。
「…それを、ご側近の方々はご存知なのですか…?」
「いや、この話をしたのは君が初めてだよ、私の可愛いヒト。」
「謹んでお請け致しますわ、リュカ様。」
しかし王妃は一切の恨みつらみを告げることなく私の願いを聞き入れてくれたのです!
「国が、民が豊かになるというなら、王妃たる私にリュカ様の…陛下のおやりになることを反対する理由などありませんわ。」
これが王妃たる者の在り方―――。
あの日抱いた直感に、幼馴染殿の…魔導士殿の予見に、間違いなど無かったのですね。
「そうか…ありがとう、私の可愛いヒト。君を選んで、本当によかった…。」
「陛下……!」
少しでも王妃の決断に心を返したくて殊更優しく、優しく抱きしめたのでした。
「…まさか、こんな所に現れるとはな……。」
王妃として幼馴染の横に立つ彼女をみてそう呟く。
『願いの小瓶』―――何でも3つ願いを叶えてくれる不可思議な羊皮紙と僅か3インチ程の大きさの小瓶は、いつ、誰が、何の目的を持って創られたのかもわからない、伝説の魔道具として魔法を研究する者達の間で囁かれてきた。
存在そのものを架空の存在とも創造の産物とも言う研究者もいたが、古参の研究者程その存在を信じていた。
何故なら魔法を研究する者とは歴史を読み解く者でもあり、歴史を読み解く上で小瓶の存在無く残されなかった偉業は無かったとさえ言われているのだ。
しかしいつの時代に誰の手にどういった経緯で渡るのか。
決まったパターンがある訳でも無く、正に神の采配で現れる『願いの小瓶』に魅入られた者の末路は『幸』か『不幸』だ。
どうやら此度の『願いの小瓶』の所有者は『幸』という結果に落ち着いたようだが。
「ソレハ ドウ カナ?」
肩に止まっていた使い魔の蝙蝠猫が呟く。
「だってしがない成金貴族から一国の王妃にまでなったんだぞ?これを『幸』と言わずなんて言うんだ?」
「ククク…確カニ、他人カラ見タラソウカモシレナイガ、本人ニトッテハ『不幸』カモシレナイゾ?」
「まさか、彼女は望んで王妃を目指した。俺の占いでも、そう出てる。」
「ククク…マア、イイサ。オ前ガ ソレデ納得シテイルナラ。」
それっきり蝙蝠猫らしくベリアルは瞳を閉じて再び眠りについた。
本当、仕事の時以外はいっつも寝ているかヒトをおちょくっているかしないベリアルには本当に腹が立って仕方が無い。
秘かな怒りに腹を立てながら、それでも表には出さず、俺は幼馴染の元に祝いを述べに行ったのだった。
だから俺にも気付けなかった。
―――――世界の近くで「アナタ ノ 願イ事 全テ 叶エマシタァ」という聞きなれた声が聞こえていたことに。
※1インチ=2.54㎝なので3インチは7.62㎝、約8㎝です。
ベリアルとはソロモンの悪魔の一人で、人間の望む地位を与える悪魔ですが、今作では望みを叶えてくれる悪魔としています。




