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13話

 「疲れてるな」

 「疲れないと思う?」


 どうにか宥めて馬車を降り、グランド家の客間でぐったりする私に、可哀想なモノを見る目でワイマールは労う。

 何で殿下が居るんだとか、なぜ早く助けに来なかったとか、言いたい事は一杯あるけど、今は休みたい。泥のように溶けてしまいたい……。

 しかし、何で殿下は私の行く先々に現れるのかしら。どこからか情報が漏れているとしても、こう頻繁だと怖いわね。……まさか!私の回りに間者が!?


 「ねえ、もしかしたら私の回りに間者が潜んでいる可能性って無い?」

 「いきなり何を馬鹿なことを。サラを監視して何の得が有るって言うんだ?」

 「そうよねぇ。なら、どうやって殿下は私の行動を把握しているのかしら」

 「探知機でも搭載しているんじゃないか」


 ワイマールは馬鹿にしたように言った。

 サラ探知機搭載済の王子様って……なんかイヤ。


 「サラ様、お話はお済みですか」


 出たな間者!じゃなかった。曲者デイルのお出ましだ。


 「サラ、顔が怖い」

 「あら、私としたことが」


 ソファーの肘掛けに凭れ掛かっていると、ドアをノックする音とデイル様の声が聞こえてきた。

 つい不機嫌が顔に出てしまい、両手で顔をムニムニする。はい、微笑み仮面装着完了!


 「……器用だな」

 「処世術よ。ワイマールも身に付けた方が良いわよ。役立つし、便利だから」

 「遠慮しておく」


 顔の準備を終え、招き入れる。デイル様は部屋に入り、私のそばに来るなり膝を突く。

 ええ、本当に曲者だわ。頭が痛くなる。


 「お久しぶりです、サラ様。先程はご挨拶が出来ず、申し訳ございませんでした」

 「お久しぶりですね、デイル様。殿下を諫めてくださり助かりました。あと、いつも言っていますが、私相手に膝を折る必要は有りませんよ」

 「そんな、恐れ多いことです。私にとってサラ様は至高の人物。従者とは何かと教示してくださった、掛け替えのないお方です」


 そんなキラキラした瞳で見られても困るのだけど……。

 私、デイル様のこのノリ、凄く苦手なのよね。

 それとなく助けを求めると、「なんだこいつ」という顔で見ていたワイマールは視線に気付き、咳払いを一つすると準備が出来次第向かうので、それまで寛ぐように勧めていた。


 「お心遣いありがとうございます。ではサラ様、失礼いたします」

 「ええ。あ、殿下もご一緒に施設に伺うのならば、動きやすく地味な服に着替えるようお伝えください。あと、これを使うように」

 「かしこまりました」


 デイル様が退出したのを確認すると、再び肘掛けに凭れ掛かった。

 あ~楽チン。このままここに居たい。……無理だけどさ。


 「なんだ、アイツ。気持ち悪い」

 「殿下の従者のデイル様よ。ちょっと色々あって、なぜか私を神聖視してるの」

 「神聖視?サラを?……はっ」


 ワイマールは鼻で笑った。ムカつくけど、笑いたくなる気持ち、とても理解できる。私だって鼻で笑いたいわよ。


 「あの従者に何を渡したんだ?」

 「ああ、あれ。師匠作の髪染めよ。あんな王族丸出しの外見でウロウロされたら、いつ狙われるのかって、こちらが落ち着かないもの。しっかり変装してもらわなきゃ」


 本当は大人しく城に帰って欲しいのだけど、あの方の性格を考えたら難しいだろうし、姿が見えないだけで護衛は居るはずだから大丈夫でしょう。


 「髪染め?何だってそんなもの作ってるんだ?」

 「決まってるじゃない。売るのよ」

 「……ああ」


 どこか遠い目をするワイマール。試作品だと言っては私達に押し付けてくる師匠作の品々。便利な物もあれば、およそ凡人の私には理解できない品もある。  

 今回は役に立ちそうで良かった。毎回、実験台にされている身としては助かったわ。後で感想を訊かなくちゃ。


 一台の馬車では乗り切れない人数になってしまったので、二台に分けて行くことになった。

 グランド家の馬車に私とリリー、それにクラリスさん。さすがに子供だけではいくら貴族の子供と言えども信用されないだろうから、伯父様の名代として来てもらうことにした。

 そして、もう一台の馬車には殿下とデイル様とワイマール。緊急時に備えての殿下の護衛が一人の計四人。

 揉めに揉めたが、『まあ大変!時間がございませんわ。さあ殿下、乗ってくださいませ』と無理矢理押し込んだ。


 「ワイマールはあちらの馬車に乗って大丈夫でしょうか……」

 「学校に通い出せば色々な身分の方が居りますもの、何ごとも経験です」


 心配そうなクラリスさんにそう言うと、「確かにそうですが……」と表情を曇らせる。まるで母親のようだ。


 「……クラリスさんはワイマールの母にはなりませんの?」

 「へぇ!?あ、へっ!?サラ嬢、い、いきなり何をおっしゃいます!?」

 「まぁいけませんわ、姉さま。そういったデリケイトなことは遠回しに訊きませんと」

 「そうね、申し訳ございませんでした。では、遠回しにお訊きしますわ。エル伯父様とはいつご結婚なさいますの?」

 「姉さま、それではより直接的になっていますわ」

 「そうかしら?だって、見ていて焦れったいんですもの」


 クラリスさんを見ると、顔を真っ赤にして口をパクパク動かしていた。まるで金魚みたい。

 お互いに想いがあるのに、なぜ一緒にならないのか。それは伯父様がお祖母様を愛していたから……。

 

 お祖母様がお祖父様と出会ったのは、伯父様が10歳の頃。お祖母様はグランド家に下働きとして来た。

 伯父様を産んだお祖母様は、伯父様が5歳の年に亡くなったと聞いている。お祖父様は伯父様を連れ、墓前で誓ったそうだ。『君だけを愛し続ける』と。

 しかし、お祖父はお祖母様と出逢い、愛した。そして、伯父様も……。

 義母を想う気持ちは無くなることがなく、私達の母さまが産まれた。

 自分の想いは家族愛だと言い聞かせ、母さまを大切にした。でも、お祖母への気持ちは消えず、伯父様は逃げるように学校へと入学した。

 お祖父様が亡くなり、母さまが父さまと結婚したことで、お祖母は故郷の生家へ戻り、伯父様が爵位を継いだ。


 「人の想いとは、儘ならないものね……」

 「姉さま?」


 キョトンとするリリーの頭を撫でる。手触りの良い髪が指の間を流れた。


 何時だったか、伯父様とクラリスさん、二人の間には特別な想いがあるのでは?と母さまに伺うと、伯父様の話をしてくれた後で、『いい加減、お兄様も幸せになるべきだわ』困った顔をして言っていた。

 さらに母さまは、『何とかならないかしらねぇ……』と言いながら私をじっとみて、ニコリと笑った。

 母さまってば私をなんだと思っているのかしら。さすがに13歳でお見合いおばさんになるのは嫌だし、荷が重いわ。

 クラリスさんが伯父様を好いているのは直ぐに分かった。だって、視線がずっと伯父様を追いかけて離さないのだもの。見ていてこちらが恥ずかしくなってしまうくらいなのよ。

 ワイマールが学校に入学する前に、こちらも進展があると良いのだけど。



 「疲れているわね」

 「疲れないと思うか?」


 つい先程グランド家でのやり取りをする。今度は立場が逆だ。

 いつもの澄まし顔が、心なしか憔悴していた。

 ワイマールをこんなにも疲れさせるなんて、殿下も従者も侮れないわね。


 「なんなんだ、アイツらは。殿下にはサラとの関係を問い質され、従者にはサラの美点を永遠と聞かされ……。もう当分、サラの話は聞きたくない」

 「それは、まあ。何と言うか、ご苦労様でした」


 私は一切悪くないのに、申し訳なくなるのはなんでかしら。

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