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勇者を二人も召喚してしまいましたが、何故か二人とも上半身裸です。  作者: ネコ雲


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勇者たち、先へ進む


 十四層の戦いを終えた八人は、そのまま十五層へ向かって歩いていた。


 荒野を抜け、次の階層へ続く通路を進んでいく。


 先ほどの戦いで、優太と勝平の服はさらにボロボロになっていた。


 エリーはそんな二人の姿を見ながら、少しだけ考える。


「二人とも」


「ん?」


「なんだ?」


 優太と勝平が振り返る。


「次の階層からは、私の指示通りに動いてくださいね」


「……」


 二人の足が止まった。


 優太は少し考えるように腕を組み、勝平は露骨に嫌そうな顔をする。


「……分かったよ」


「俺も」


 二人とも了承はした。


 ただし、表情には明らかに納得していないものが残っていた。


 その隣では、ミッシェルだけが嬉しそうに目を輝かせている。


「姫様が指揮を執られるのですね!」


「はい」


「私、全力で従います!」


「そこまで気合いを入れなくても大丈夫ですよ」


「いえ、姫様の指示ならば、必ずお役に立ってみせます!」


 ミッシェルの勢いに、優太と勝平が顔を見合わせる。


「……温度差すごくないか?」


「すごいな」


 二人が小声で話していると、エリーが前を向いた。


「では、行きましょう」


 八人は十五層へ進んだ。


 そして――。


 入ってすぐに魔物の群れと遭遇した。


「来ます!」


 アリンが杖を構える。


 魔物たちが一斉に走ってくる。


 エリーはすぐに周囲を見回した。


「優太さん、正面をお願いします! 勝平さんは少し右へ。ミッシェルさんは左側を――」


「分かった!」


 優太と勝平が走り出す。


 しかし、二人の動きは思ったようには噛み合わなかった。


 優太が前へ出れば勝平が横から追い抜き、勝平が魔物へ飛び込めば優太が別の敵へ向かう。


「勝平、そっちは俺がやる!」


「いや、俺のほうが近いだろ!」


「そういう意味じゃない!」


「じゃあ何だよ!」


 二人が言い合っている間に、別の魔物が横から迫る。


「二人とも、後ろです!」


 エリーの声で二人が振り返る。


「うおっ!」


「危ねえ!」


 二人が同時に飛び退いた。


 その魔物をミッシェルが一刀で斬り伏せる。


「姫様の指示を聞いてください!」


 ミッシェルが二人を睨む。


「聞いてるって!」


 優太が言い返す。


「でも、戦ってる最中に細かく指示されると動きにくいんだよ!」


「細かく指示しなければ、二人とも勝手に動くではありませんか!」


「それは――」


 優太が言葉に詰まる。


 勝平も魔物を殴り飛ばしながら眉をひそめた。


「俺たちは俺たちで周りを見てるんだよ。エリーの指示だけ聞いてたら、目の前の敵に集中できないだろ」


「私だって全体を見ているんです!」


「じゃあ、俺たちが見えてるものくらい信じてくれよ」


「信じているから指示しているんです!」


 二人の言葉に、エリーも負けずに言い返す。


 互いに譲る気がない。


「……もう!」


 エリーが頬を膨らませる。


 ミッシェルは二人を睨みつけた。


「姫様が一生懸命考えておられるのに、どうして文句ばかり言うのですか!」


「文句じゃないって!」


「文句です!」


「ミッシェルはエリーの味方すぎるだろ!」


「当然です!」


 その横で、三人の冒険者は黙々と魔物を倒していた。


 一人がちらりと四人を見る。


「……戦ってるのか、喧嘩してるのか分からなくなってきたな」


「俺たちは関わらないほうがいい」


「賛成だ」


 アリンも魔物を片付けながら、四人を眺める。


「皆さん、元気ですね」


「そういう問題か?」


 冒険者が呆れた顔をする。


 十五層を抜けても、状況は似たようなものだった。


 十六層では、エリーが先回りして指示を出す。


 優太はその指示に従おうとするものの、目の前の魔物が予想外の動きをすると反射的に別の方向へ動いてしまう。


「優太さん、右です!」


「分かってる!」


 優太が右へ動く。


 だが、その瞬間に別の魔物が左から飛び込んできた。


「……やっぱりこっちだ!」


 優太が方向を変える。


「優太さん!」


「今のは仕方ないだろ!」


「だから、勝手に変えないでください!」


「じゃあどうしろっていうんだよ!」


 優太の声も大きくなる。


 そのやり取りを見ていた勝平は、腕を組んだ。


「エリーの指示ってさ、敵が予定通り動く前提になってないか?」


「そんなことありません!」


「いや、でも今のは――」


「勝平さんまで!」


「俺は優太とは違うぞ。俺はちゃんと考えて言ってる」


「それなら、戦闘中に言わないでください!」


「なんでだよ!」


「今は戦う時間でしょう!」


「だったら最初からもっと分かりやすく指示してくれよ!」


 勝平まで不満をぶつけ始める。


 エリーはとうとう額を押さえた。


「……二人とも、私にどうしてほしいんですか」


「俺たちに任せてほしい」


 優太が即答する。


「俺もそれは同じだ」


 勝平も続ける。


「でも、二人とも勝手に動くじゃないですか!」


「勝手じゃない!」


「考えて動いてる!」


「なら、その考えを先に言ってください!」


「戦闘中にそんな暇ないだろ!」


 完全に話が噛み合わない。


 ミッシェルがとうとう二人の間に割って入った。


「お二人とも!」


「なんだよ!」


「姫様に文句を言うのはやめてください!」


「でも――」


「やめてください!」


 ミッシェルの一喝で、二人が黙る。


 少し離れた場所では、アリンと三人の冒険者が揃ってため息をついていた。


「……また始まりましたね」


「もう慣れた」


「まだ十六層なのに、俺はもう疲れたぞ」


 アリンだけが少し楽しそうだった。


「私は面白いと思いますけど」


「アリンは他人事だからな……」


 十七層、十八層と進む。


 戦闘そのものは、少しずつ上手くなっていった。


 優太と勝平もエリーの指示を無視することは減り、エリーも二人がどう動くのか少しずつ分かってくる。


 だが、完全には噛み合わない。


 優太には優太の考えがある。


 勝平には勝平の考えがある。


 エリーにも、自分が全体を見ているからこその考えがある。


 そして、それぞれが自分の考えを曲げようとしない。


 そのたびに、小さな不満が積み重なっていった。


「今のは俺なら先に行けた」


「でも、危険でした」


「結果的には大丈夫だっただろ」


「結果だけで判断しないでください」


「エリーは慎重すぎるんだよ」


「優太さんは無茶をしすぎです!」


「勝平さんも同じです!」


「俺まで巻き込むなよ!」


「二人とも同じです!」


 十九層に到着する頃には、五人の間に微妙な空気が漂っていた。


 それでも魔物が現れれば、戦わなければならない。


 十九層の魔物を倒し終えた頃には、全員が少し疲れていた。


 優太は剣を地面に立て、息を吐く。


 勝平も肩を回しながら、エリーを見る。


「……やっぱり、このままじゃ駄目だろ」


「何がですか?」


 エリーが振り返る。


「この戦い方だよ」


 優太は珍しく真剣な顔をしていた。


「もっと強い敵が出てきたら、今みたいなやり方じゃ勝てないぞ」


「どうしてですか?」


 エリーも譲らない。


「私が全員の動きを見て指示すれば、危険な場所を減らせます」


「それだけじゃ無理だ」


 優太は首を横に振った。


「戦ってる本人にしか見えないものもある」


「……」


「俺たちが毎回エリーの指示を待ってたら、判断が一瞬遅れる。強い敵ほど、その一瞬でやられると思う」


 勝平も黙って優太を見る。


 いつもの軽い調子ではない。


「じゃあ、どうすればいいんですか?」


 エリーが尋ねた。


 優太は少し考えてから、口を開いた。


「各自で考えて動けなければダメだ」


「……」


「そのうえで、エリーが全体を見てくれればいい」


 優太は周囲の仲間を見回した。


「俺達が見えてない所をエリーとアリンの援護射撃でフォローするんだよ」


「……」


「俺たちは目の前の敵を見る。エリーは全体を見る。そうしたほうが、お互いに動きやすいと思う」


 誰も口を挟まなかった。


 勝平が目を丸くしている。


 ミッシェルも珍しいものを見るように優太を見ていた。


 アリンは少しだけ目を細める。


 三人の冒険者も顔を見合わせた。


「……」


 そして、勝平がぽつりと呟いた。


「優太がまともなこと言ってる」


「俺も驚いてる」


 冒険者の一人まで思わず口にする。


「おい」


 優太が睨む。


「俺だって考える時は考えるぞ」


「いや、これはちょっと意外だった」


 アリンも小さく笑った。


「ちゃんと考えていたんですね」


「俺を何だと思ってるんだよ……」


 優太が少し不満そうに呟く。


 エリーはしばらく考えていた。


 そして、ゆっくり頷く。


「……分かりました」


「いいのか?」


「はい」


 エリーは優太を見る。


「確かに、全部を私が決めようとするのは無理がありますね」


「そうだろ?」


「皆さんが自分で考えて動いて、その上で私が全体を見る」


 エリーは自分の考えを整理するように言った。


「そのほうが、私も皆さんの動きを見やすいと思います」


 優太の表情が少し緩む。


「じゃあ、それでいこう」


「はい」


 ミッシェルも頷いた。


「姫様がそうお決めになったのであれば、私もその方法に従います」


 勝平が肩を回す。


「じゃあ、これで喧嘩しなくて済むな」


「……本当にそうなるでしょうか」


 エリーが少し不安そうに二人を見る。


「なるって」


 優太が答える。


「たぶんな」


 勝平も続ける。


 エリーは二人を見て、少しだけ苦笑した。


 十九層の先には、さらに奥へ続く道がある。


 そして、その先には――。


 五人がここまで探し続けてきた、目当ての食材が待っている。


 エリーが前を向いた。


「じゃあ~、二十層で目当ての食材を手に入れましょうか」


「筋肉に良い食材が待っているな」


「そうだな」


 優太と勝平が顔を見合わせる。


 八人は、二十層へ続く道を歩き始めた。

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