第81話:使徒降臨
一、 破滅の前奏曲、裂ける白銀の天蓋
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………ッ!!
世界が、死の恐怖に震えていた。
教国ルミナを覆い尽くす白亜の防壁。その内側に広がる整然とした幾何学都市『聖都ルミナ』。そして、天を突く超巨大タワー『神座の塔』。
そのすべてが、地獄の底から響き渡るような、不気味で重厚な超低温の振動によって揺れていた。
かつて太陽の光を通していた青白い神聖マナの結界はすでに跡形もなく霧散していた。
代わりに天空を埋め尽くしていたのは、不気味な黒と銀色が混ざり合い、渦を巻く【死の暗雲】であった。
暗雲は、生き物のように蠢きながら急速に下降し、聖都の空を完全に覆い隠していく。
昼であるはずの時間帯は一瞬にして漆黒の闇へと塗り潰され、雲の隙間からは、幾何学的なルーン文字を描く紫黒色の「マナの断層(亀裂)」が、稲妻のように走っていた。
「……あ、あぁ……」
聖都の地上大通り。
普段は感情を抑圧され、無表情に配給の栄養ペレットを食し、機械のように歩いていた十五万人の教国住人たち。
彼らが一斉に足を止め、呆然と天空を見上げていた。
抑圧マナによって感情野を麻痺させられていたはずの彼らの瞳に、生まれて初めての強烈な『感情』が宿っていた。
それは、歓喜でも怒りでもない。
人間の魂の根本に刻まれた、完全なる絶望と【死への根源的恐怖】であった。
「空が……崩れていく……」
「神様……お助けください……! 神様……ッ!」
無表情だった住人たちの顔が、恐怖に歪む。
子供が母親の裾にしがみついて声を上げて泣き出し、大人が石畳に膝をついて頭を抱えて叫び声を上げる。
主神アルファが目指した「誰も泣かず、誰も怒らない完璧な静止の世界」。そのメッキが、圧倒的な滅びの威圧感を前にして、無惨にも剥がれ落ちていた。
そして、その惨状は、地下深くの収容施設「奈落」においても同様であった。
ドガガガガガガガガガガッ!!
天井の崩落穴から降り注ぐ抑圧マナの波動が、奈落の金属壁や岩肌をミシミシと押し潰していく。
アルのスープによって人間らしい「心」を取り戻した何百人もの不適合者たちが、互いに身体を寄せ合い、ガタガタと震えながら上空を見上げていた。
「なにが……何が始まるっていうんだ……!?」
片目を失明した初老の男が、血の滲む唇を噛み締めながら叫んだ。
「……降臨するのだ」
破れた純白の甲冑を抱え、アルの差し出したスープで心を取り戻した新・聖騎士長セリアが、震える声で呟いた。
彼女の顔からは血の気が完全に引いている。
「主神アルファ様の意志を直接体現する、真の神罰執行者……。……第一使徒ガラテアの欠損を補い、世界を【大氷期】へと一気に加速させるための……使徒たちが……っ!」
「使徒の……群れだと……!?」
エレナが、血に染まった聖剣『星霜』を強く握り締め、己の身体を庇うようにアルたちの前に立ち塞がった。
空中へ浮遊していた新・聖女セラフィナは、白磁の仮面の下で恍惚とした吐息を漏らした。
「ああ……ご覧なさい、哀れな虫ども。……主神アルファ様の偉大なる御手が、ついにこの汚れた世界を直接清めにお降りになられます。……歓喜しなさい。あなた方の不完全な命は、間もなく完璧な無へと救済されるのですから!」
セラフィナが両手を広げて叫んだその瞬間。
バリァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
聖都ルミナの天空を覆っていた黒銀の暗雲が、まるで巨大な刃で両断されたかのように、真っ二つに裂け開けた。
二、 三の神威、絶望の降臨
暗雲の裂け目から放たれたのは、太陽の光などではなかった。
空間そのものを凍てつかせ、すべての色彩を漂白する、絶対零度の【純白と漆黒の神光】。
その光の柱に乗って、雲の彼方から、音もなく、静かに三つの影が舞い降りてきた。
ド・ス・ン……。
衝撃音すらも、空間の冷気によって死滅する。
三つの影が、聖都ルミナの中心部——『神座の塔』の空中回廊、そして地下の奈落へと通じる巨大な開口部の縁へと、同時に足をついた。
その瞬間。
ポォォォォォォォォォン……ッ!
空間全体から、教会の大聖堂のパイプオルガンを何千台も同時に鳴らしたかのような、重厚で美しく、そして狂気に満ちた「神聖音波」が響き渡った。
大気が凍りつき、地上に立ち並ぶ白亜の建造物群が一瞬にして青白い結晶(絶対氷壊)へと変質していく。
「……っ! ガ……ハッ……!」
エレナが、その場に崩れ落ちそうになる膝を、聖剣を床に突き刺すことで死に物狂いで耐えた。
呼吸ができない。
空気が冷たいのではない。大気中に存在する「酸素」や「マナ」という概念そのものが、彼らが降臨しただけで「停止」させられているのだ。
「ワタクシの……生体CPUが……演算を拒否しています……ッ!」
オルタが、自身の胸の刻印【ALTA-00】を押さえ、膝をついて激しい火花を散らした。
彼女のルビー色の瞳に、エラーログが凄まじい速さで流れていく。
『――――警告。超高次元存在(使徒)の複合波形を検知。……空間抑圧率、九九・九パーセント。……存在を維持することが、極めて困難です――――』
アルは、両膝をガクガクと震わせながらも、黒鉄の包丁を胸元に構え、必死に頭上を見上げた。
彼の漆黒の瞳に映ったのは、もはや人間の理解の範疇を超えた【神の造形物】たちであった。
一人目は——すでに一度遭遇し、カルムの命と引き換えにしても「一歩後退させただけ」であった男。
純白の法衣を纏い、背後に三つの神聖光輪を回転させる、絶対静止の執行者。
【第二使徒・神罰審判官エノク】。
「……ふむ。奈落の底で、まだ不快なノイズが蠢いていましたか」
エノクは、氷のように冷たい瞳でアルたちを見下ろし、呆れを含んだ声で呟いた。
そして、エノクの左右に並び立つ、新たな二つの影。
二人目は——巨大な幾何学模様の「白銀の概念鏡」を背中に背負い、全身を絶対防御の神聖装甲で固めた、感情の存在しない巨人の如き使徒。
その手に握られているのは、刃が存在せず、ただ周囲のマナを無限に吸引・無力化する『無の聖杖』。
【第三使徒・概念封殺者バアル】。
「……ノイズ、確認。領域内の『熱量』および『自由意志』を、規定値ゼロへ補正開始」
バアルの口から漏れたのは、オルタのような機械音ではなく、数万人の人間が同時に呟いているかのような、重低音の合成音声であった。
そして、三人目——。
その存在こそが、この場に漂う狂気と威圧感の元凶であった。
背中に十二枚の「光の羽」を羽ばたかせ、身体の至る所が透明な「マナの結晶」で形成された、性別すら超越した神々しき異形の使徒。
その手に握られているのは、主神アルファから直接賜ったとされる、世界の物理法則を再書き換えするための指針——『創世の法典』。
第一使徒ガラテアが物理的な「破壊」を司っていたとすれば、この使徒は世界の「概念」そのものを上書きする、主神の右腕。
【第一使徒補佐・真理改変者メリエル】。
「あ……あぁ……」
セリアが、地面に伏せたまま絶望の涙を流した。
「神座の塔を支える……最高位の使徒たちが、三体同時に……。……終わった。この世界は……もう、終わりです……っ!」
第二使徒エノク。
第三使徒バアル。
そして、第一使徒補佐メリエル。
主神アルファの直属にして、世界の命運を握る最凶の使徒たちが、この白銀の教国に【完全降臨】を果たした瞬間であった。
三、 凍てつく世界と奪われる体温
「……主神アルファ様は、仰せられました」
第一使徒補佐メリエルが、十二枚の光の羽を静かに揺らしながら、天空から地上へと向かってその声を響かせた。
その声は、耳で聞くものではない。意識の深層へと直接打ち込まれる、絶対の教律であった。
「『世界は過ちを犯しすぎた。命が感情を持ち、熱を求め、互いを貪り合うが故に、世界は永遠の苦痛から抜け出すことができない』……と」
メリエルが、手に持つ『創世の法典』を静かに開き、白銀の光を放たせた。
「故に、主神アルファ様は決断されました。……これより、全大陸における『感情伝達回路』を完全停止し、すべての生命を【絶対静止の結晶】へと昇華させます。……これぞ、一切の争いと悲しみのない、真の永遠の救済」
メリエルの言葉とともに、バアルが背中の概念鏡を掲げ、エノクが指先を立てた。
ズズズズズズズズズズズズッ……!!
聖都ルミナ全体を包み込んでいた冷気が、一気に数千倍の濃度へと跳ね上がった。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
地上にいた十五万人の住人たちが、叫び声を上げる猶予すら与えられず、その場に次々と倒れ伏していった。
彼らが倒れていくのではない。
彼らの体内を流れていたわずかな血液の巡り、心臓の鼓動、そして脳の思考(感情)そのものが、上空からの神威によって強制的に『停止』させられ、皮膚が真っ白な氷の結晶へと変わっていくのだ。
「逃げろ……っ! みんな、早く……!」
奈落の底で、アルが亡者たちへ向かって叫んだ。
しかし、亡者たちもまた、その神威の前に身体が金縛りに遭ったように動かなくなっていた。
「お腹が……冷たい……」
「料理人さんの……スープの温かさが……消えていく……」
アルのスープを飲んで「心」を取り戻したばかりの人々の皮膚に、再び青白い霜が張り付き始める。
アルが彼らに与えた『体温』が、使徒たちの圧倒的な神威の前に、上書きされ、奪われようとしていたのだ。
「やめろ……! やめてくれぇぇぇッ!!」
アルが、叫びながら手にした黒鉄の包丁を強く握り締めた。
「せっかく……せっかくみんな、笑顔を取り戻したのに! お腹いっぱい食べて、『美味しかった』って笑ってくれたのに!……それをまた、そんな冷たい氷で奪うなんて……絶対に許さないッ!!」
アルの胸の『炉』が、激しく燃え上がろうとした。
怒りと、仲間を護りたいという情熱。
だが——。
「……無駄ですよ、特異点」
第三使徒バアルが、無感情な合成音とともに『無の聖杖』をアルへ向かって突き出した。
ピキィィィィィィィンッ!
「がはっ……!?」
アルの胸の『炉』から立ち上りかけた黄金のマナが、バアルの放った概念干渉波によって、燃え上がる前に「無」へと打ち消されたのだ。
「理解しなさい」
バアルが淡々と告げる。
「あなたの放つ『熱』は、物理法則における単なるエネルギーの揺らぎに過ぎない。……我が背負う概念鏡は、領域内のあらゆるエネルギー発生運動を即座に相殺・無力化する。……あなたの包丁も、あなたの炎も、我が前では何の意味もなさない」
「包丁が……熱が……打ち消された……!?」
アルの漆黒の瞳に、激しい衝撃が走る。
切るべき「糸」すら見えない。
バアルの力は、アルが包丁を振るうという「事象」そのもののエネルギーを、発生直前にゼロへと還元してしまうのだ。
四、 折れることのない相棒、最後の火種
「……へっ。相変わらず……上から目線の神様気取りが……偉そうに仕切ってんじゃねぇよ……」
その時。
奈落の瓦礫の山の上から。
完全に黒焦げにされ、エノクの絶対零度によって心臓の奥まで凍結していたはずの男——カルムの口から、掠れた声が漏れた。
「カルム……ッ!?」
アルがハッと振り返る。
「カルム殿! 動いてはならん! 君の心臓はまだ……!」
エレナが悲鳴を上げる。
カルムの身体は、依然として黒焦げのままであった。
全身の骨は砕け、左目は潰れ、右腕の筋肉は断裂している。
しかし、彼の右拳——黒く炭化したその小さな拳の奥底で、アルの与えてくれたスープの熱と、自らの魂の叫びが融合した【群青と緋色の極光炎の最後の火種】が、チリチリと、しかし途絶えることなく燃え続けていたのだ。
「アル……」
カルムが、潰れた左目を血で濡らしながら、右目だけでアルを見つめた。
「泣いてんじゃ……ねぇよ……相棒……」
「カルム……! だって……だって、カルムの手が……ッ!」
「俺の火は……消えてねぇぞ……」
カルムは、折れた体骨がギシギシと悲鳴を上げるのも無視して、ゆっくりと、地獄の底から立ち上がるように身を起こした。
「あの氷野郎に……心臓まで凍らされた時は……正直、もうダメかと思ったさ。……暗くて、冷たくて……スラムの泥の底に一人で捨てられた時と同じだった……」
カルムの全身の炭化した皮膚から、血と熱気がプシューッと音を立てて噴き出す。
「だがな……お前のスープの匂いが……聞こえたんだよ」
カルムが、ガクガクと震える右拳を、アルの目の前へ突き出した。
「お前が……『絶対に助ける』って泣きながら叫んでくれた声が……俺の心臓の氷を、叩き割りやがったんだ……ッ!」
「カルム……ッ!!」
カルムの右拳に、再びポッと、群青と緋色が美しく混ざり合う『護るための極光炎』が灯った。
それは、先ほどの命を削った自滅の炎ではない。
絶望の底でアルの体温を受け取り、己の魂の根源から再創生された、絶対に消えない【不滅の太陽の火種】。
「……ほう。我が絶対静止の呪いを、自らの意志だけで打ち破って立ち上がりますか」
天空の第二使徒エノクが、初めて不快そうに眉をひそめた。
「ですが、無駄な抵抗です、野良犬。一歩後退させられたあの過ちを、二度も繰り返す私ではありません」
「一歩で十分だったんだよ……ッ!」
カルムが、血だらけの顔でニッと八重歯を見せて笑った。
「俺が一歩お前を押し下げたから……アルは奈落へ落ちて、生き延びられた! 俺がこうして立ち上がったから……今、お前の目の前に『最高の火力』が立ってんだよッ!!」
「狂人め」
エノクが冷たく指先を立てる。
「……カルム殿、私(僕)もいるぞ!」
エレナが、聖剣『星霜』に全マナを注ぎ込み、カルムの隣へ並び立った。
彼女の背後には、アルのスープで救われた新・聖女セリアもまた、折れたレイピアを構えて立ち上がっていた。
「私の命と盾は、アル殿とカルム殿のためにある! 使徒どもよ、この不滅の創世極光を突破できると思うなッ!!」
「ワタクシの全演算リソースも、皆様のサポートへ固定完了しましたっ!」
オルタも、破損した身体から残された全マナを放出し、エレナとカルムの周囲に強力な補正結界を展開した。
三人の仲間たちが、アルの前に立ち塞がり、三体の絶対的な使徒へと向かって、不屈の牙を剥く。
チーム『最高の厨房』。
彼らが旅を通じて育んできた不滅の絆と体温が、使徒降臨という最大の絶望を前にして、極限の爆発を起こそうとしていた。
五、 絶望の神威、一撃の崩壊
「不快ですね」
天空で十二枚の光の羽を広げる第一使徒補佐メリエルが、感情のない声で呟いた。
「虫どもが、ゴミ溜めの中でどれほど肩を寄せ合おうと……神の定める『静止』の歴史を変えることはできません」
メリエルが、手に持つ『創世の法典』のページを、サラリと一枚繰った。
その瞬間。
ドドドゴォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!
天空の黒銀の暗雲から、先ほどのセラフィナの攻撃などとは比較にならない、地球そのものを破砕するほどの【神威の光柱】が、聖都ルミナ全体へ向かって、一斉に降り注いだ!
光柱の数、数百。
それが、聖都の建造物、防壁、そして奈落の全域を、一瞬にして飲み込んでいく。
「【星霜不滅・創世極光星陣】ッ!!!!」
エレナとセリアが、命を削って展開した最大最強の二重絶対防壁。
カルムが放つ、群青と緋色の極光炎の旋風。
オルタが張る、機甲素体の限界突破結界。
それら、チーム『最高の厨房』が持ち得るすべての『熱』と『力』が、神威の光柱と真正面から激突した!
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
光と熱の、天地を裂く大爆発。
奈落の金属床が粉々に砕け散り、空間そのものが白と黒の混ざり合うカオスへと叩き落とされる。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「がはっ……っ!?」
しかし——。
神の力は、あまりにも、あまりにも無慈悲であった。
メリエルの一撃、バアルの概念封殺、そしてエノクの絶対静止。
三体の使徒の力が重なったその神威は、エレナたちの命懸けの結界を、まるで『薄いガラス細工』のように、一瞬にして木っ端微塵に打ち砕いたのだ!
「あ……がぁッ!?」
エレナの聖剣『星霜』が悲鳴を上げ、彼女の身体が血煙を吹き上げて壁に激しく叩きつけられる。
セリアも、オルタも、衝撃波の直撃を受けて全身の装甲を砕かれ、奈落の床へと転がった。
「カルムッ!!」
アルの叫びも虚しく。
前に出て炎を放っていたカルムの身体に、エノクとバアルの重畳された冷気弾が直撃した。
ズドォォォォォォォンッ!!
「ぐあっ……ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
カルムの右拳の極光炎が、無残にも掻き消される。
カルムの身体は、再び黒い炭と氷の塊へと戻され、血を噴き出しながらアルの足元へと激しく転がり落ちた。
「ハァ……ハァ……っ」
煙が晴れた後。
奈落の底に立っていたのは——たった一人。
血と泥に汚れ、手にした黒鉄の包丁を震わせる、少年料理人アルだけであった。
エレナは血の海の中に倒れ、動かない。
セリアも、オルタも、意識を失い、機能停止している。
そして、最強の相棒カルムは、アルの足元で、再び冷たい氷に閉じ込められて静まり返っていた。
周りの亡者たちも、神威の圧力によって全員が気絶し、氷の彫像へと変えられている。
「……これで、終わりです」
第一使徒補佐メリエルが、静かに地上へと舞い降りてきた。
その背後には、エノクとバアル、そして新・聖女セラフィナが、冷たい嘲笑を浮かべて立ち並んでいる。
「特異点よ。あなたの作った温かな食卓も、仲間たちの不屈の誓いも……神の絶対の理の前には、何の意味もなさないゴミでした」
メリエルが、アルへ向かってゆっくりと手を差し伸ばす。
「さあ……永遠の静寂の中へ、眠りなさい」
圧倒的な絶望。
仲間は全員倒れ、味方は一人もいない。
包丁を握るアルの手が、恐怖と無力感で、ガタガタと激しく震え出す。
第一使徒ガラテアを倒し、深海の海竜を救い、ここまで歩んできた少年料理人の冒険。
その全てが、三体の使徒という【神の絶対の武力】の前に、完膚なきまでに打ち砕かれた瞬間であった。




