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神殺しのフルコース ~少年料理人と修羅の創世食卓~  作者: solune
第1章:黒鉄のスラム編

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第17話:芽生えた信頼

一、 荒野の夜風と騎士の孤影

旧交易都市ガレアの惨状を後にし、アル、カルム、エレナの三人は、さらに西へと伸びる荒涼とした大地を踏み破っていた。


見渡す限り、地表は赤茶けた岩肌と乾燥した亀裂に覆われている。視界の先には、幾重にも重なり合う不気味な岩の尖塔群――「泣き叫ぶ岩塩峡谷(ガレ・ヴァレー)」が、巨大な獣の牙のように聳え立っていた。峡谷の隙間を吹き抜ける乾いた風は、まるで亡霊の啜り泣きのような悲しげな笛音を鳴らし、立ち止まる者の肌を削るように冷たい。


「……冷えてきたな。今夜はあの岩の影で野営にするぞ」


カルムが背中の巨大な旅荷物をドサリと地面に下ろし、慣れた手つきで周囲の枯れ木や油分の残る鉱石を集め始めた。


「うん! 急いで温かいご飯を作るね!」


アルは背中のリュックから手製の鉄鍋と、スラム街から大切に持ち出してきた調理道具を手際よく取り出した。

水筒から綺麗な水を鍋に注ぎ、集めた枯れ木にカルムがほんの少しだけ赤い魔力の火を灯す。パチパチと燃え上がる炎の周りに、荒野の凍える冷気を押し返すような、ささやかで温かな空間が生まれた。


だが――その輪から少し離れた岩の上で、エレナ・ルミナスはただ一人、白銀の甲冑を纏ったままじっと膝を抱えて座っていた。


風になびく美しい銀髪。整った横顔。

しかし、彼女の青い瞳は、どこか遠くの暗闇を見つめたまま、微動だにしない。


アルは、手元で黒鉄の包丁を振るいながら、そんなエレナの背中を心配そうに見つめていた。


「……エレナさん、ずっとあんな感じだね」


アルが声をひそめて呟くと、薪の火を調整していたカルムが「フン」と鼻を鳴らした。


「ほっとけよ。あの騎士様はな、自分で勝手に重てぇ荷物を背負い込んで、勝手に潰れそうになってんだ。教国のド真面目ちゃん特有の病気だよ」


「そんな言い方しないでよ、カルム」


「事実だろ? ガレアでのこと、まだ気に病んでやがんだよ。『自分が聖騎士長でありながら、民を救えなかった』とか『神の冷たさを止められなかった』とかな」


カルムは干し肉の欠片を口に放り込みながら、どこか諦めたように呟いた。


カルムの言う通りだった。

エレナはガレアを去ってからというもの、必要最低限の言葉しか発していなかった。教国ルミナの最高位聖騎士長として、「民を護る不滅の盾」として生きてきた彼女にとって、ガレアの人々が神の冷たいペレットに支配され、温かな食事の湯気すら「悪魔の不純物」と恐れて拒絶した事実は、自らの存在理由を根本から揺るがすほどの激毒だったのだ。


アルは、鍋の中でコトコトと煮立ち始めたスープを見つめた。


アビスの魔導汚染獣から抽出した生命マナの乾し肉と、荒野の岩肌にへばりついていた苦味の強い根菜。アルが『真理の目』で毒素(アク)だけを削ぎ落とし、丁寧に下ごしらえを終えたそのスープは、立ち上る湯気の中に香ばしく、優しい匂いを漂わせていた。


アルは、木のお椀にたっぷりとスープを注ぐと、岩の上に座るエレナの元へと歩み寄った。


「エレナさん。スープができたよ。温かいうちに食べて」


「……アル殿か」


エレナはゆっくりと顔を上げた。その青い瞳には、隠し切れない疲労と、己の無力さに対する深い絶望の陰が落ちていた。


「かたじけない……。だが、私は今、食欲がないのだ。そのスープは、君と喧嘩屋で分けるといい」


「ダメだよ」

アルは、譲らない強い目でエレナを見つめた。


「エレナさん、ガレアを出てからずっと水しか飲んでないでしょ? どんなに辛いことがあっても、お腹を空かせたままじゃ、心がどんどん冷たくなっちゃうよ」


「……私の心など、最初から冷えている」


エレナは自らの手袋を嵌めた両手を見つめ、自嘲気味に呟いた。


「私は……聖騎士長などと呼ばれる資格のない女だ。教律に従い、神の意志こそが正義だと信じ込み……目の前で苦しむ民を見捨て、挙げ句の果てにはガレアの人々を救うことすらできなかった。私の掲げる『盾』など、ただのハリボテだ。君たちの足引っ張りでしかない……」


エレナの声は、風の音に消されそうなほど弱々しかった。

一人で完璧であろうとし、一人ですべての責任を背負い込み、守れなかった過去の傷に囚われ続けている。それが、白銀の騎士エレナの抱える「冷たい孤立」であった。


アルは、言葉でエレナを慰めようとはしなかった。

ただ、持っていた温かなお椀を、エレナの膝の上へそっと置いた。


「言葉じゃうまく言えないけど……食べてみて。僕とカルムが、エレナさんのために作ったんだから」


お椀から立ち上る、じんわりとした確かな熱。

エレナは、吸い寄せられるようにその湯気を見つめ、お椀を手に取った。


二、 峡谷の急襲と硬直する刃

翌朝。

「泣き叫ぶ岩塩峡谷」の内部へと足を踏み入れた三人を待っていたのは、視界を遮るほどの激しい塩の砂嵐と、切り立った岩壁がもたらす圧迫感であった。


「……気をつけるのだ、二人とも」


エレナは、昨夜アルのスープを一口だけ口にしたおかげか、顔色は幾分持ち直していたものの、その身体には相変わらず痛々しいほどの緊張が走り続けていた。

彼女は先頭に立ち、『星霜の聖剣』の柄に手をかけたまま、研ぎ澄まされた殺気を周囲へ放っている。


「過剰に警戒しすぎだぜ、騎士様。そんなに肩肘張ってたら、出るもんも出なくなるぞ」

カルムが呆れたように言った。


「黙れ、喧嘩屋。ここは『荒野の暴食者』と呼ばれる大型魔獣の巣窟なのだ。油断をすれば、一瞬で骨ごと噛み砕かれる」


エレナは一切の余裕を見せず、前方の狭い岩間を鋭い眼光で睨みつけた。


その直後であった。


ズズズズズズズズズッ……!!


峡谷の岩壁全体が、地鳴りのような不気味な震動とともに激しく揺れ動いた!


「な……ッ! 地震か!?」

カルムが脚を大きく広げて体勢を整える。


「違う! 上だッ!!」


アルが叫んだ。

アルの『真理の目』は、上空の岩盤の内部で、凄まじい密度の「ドス黒い魔力」が急速に膨張しているのを捉えていた。


ドドドガァァァァァンッ!!


三人の頭上の岩壁が、内側から大爆発を起こすように吹き飛んだ!

大量の落石とともに、頭上から降り立ってきたのは――身の丈十メートルを超える、巨大な岩石の異形であった。


【地脈侵食獣・グラグラ・ガット】。


荒野の生態系の頂点に君臨する、伝説の超大型魔獣。

その全身は、荒野の硬質な岩塩と鉄鉱石が融合した「分厚い岩石鎧」で隙間なく覆われており、頭部には巨大な四本の岩の角が生えている。口からは、触れたものを一瞬で石化・風化させるドス黒い有毒の吐息が漏れ出ていた。


「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!!」


峡谷全体を揺るがす、圧倒的な咆哮。

その音圧だけで、アルたちの足元の岩盤がバリバリと音を立てて亀裂を走らせる。


「出たな……! 『荒野の暴食者』ッ!」


エレナが、一瞬の躊躇もなく前線へ躍り出た。

彼女の手の中で、幾何学の青白銀極光を纏う『星霜の聖剣』が瞬く間に展開される。


「少年、喧嘩屋! 私の後ろへ下がっていろ! この怪物は私が食い止める!」


「おい待て騎士様! 一人で突っ込むんじゃねぇ!」

カルムが叫ぶ。


しかし、エレナの耳には届いていなかった。

彼女の脳裏を支配していたのは、「今度こそ守らなければならない」「二人に怪我をさせてはならない」という、悲壮感に満ちた義務感と焦りであった。


「【星霜不滅陣(アウローラ・シールド)】ッ!!」


エレナが聖剣を地面へ突き立て、自分と三人全体を覆うように、巨大な幾何学模様の聖術障壁を展開した。


ドスゥゥゥゥゥンッ!!


魔獣グラグラ・ガットが、その全質量を乗せた巨大な岩石の前脚を、エレナの障壁めがけて振り下ろした!


ガガガガガガガガガッ!!!!


凄まじい衝撃波が峡谷を吹き抜け、両脇の岩壁がガラガラと崩れ落ちる。


「く……っ! ぬううううううっ……!!」


エレナの白磁の甲冑がミシミシと悲鳴を上げ、彼女の口元から一筋の血が伝い落ちた。

受け止めた。しかし、彼女の障壁は完全に「受動的」であり、魔獣の圧倒的な質量の前に、ただひたすら自分のマナを削りながら耐え忍ぶだけの状態に陥っていた。


「ダメだ、騎士様! 力任せに防ぐな!」

カルムが叫び、両拳に赤蓮の魔力炎を燃え上がらせて突進しようとする。


しかし、魔獣は前脚の打撃に続き、その巨大な口から、石化の毒ガスブレスを全方位へ噴射した!


シューーーーーーーッ!!


「ぐ……っ! これは……障壁を通り抜けて、マナそのものを石化させる毒……!?」


エレナの青白銀の障壁が、紫色の毒ガスに触れた部分から、まるで乾いた泥のようにポロポロと剥がれ落ちていく。

エレナの足元がガクリと崩れ、彼女は膝をついた。


「私は……不滅の盾……! 私が倒れるわけには……いかないのだ……ッ!」


エレナの瞳に、血が走る。

彼女は己の限界を超えてマナを絞り出そうとした。だが、その動きは硬く、余裕を失い、完全に一人で自滅への道を突き進んでいた。


三、 解体と火力、そして不滅の盾

「エレナさんッ!!」


その時、アルの透き通るような声が、峡谷の咆哮を突き抜けてエレナの耳に届いた。


「え……?」


エレナが振り返る。

そこにいたのは、避難しているはずのアルだった。

アルはエプロンをなびかせ、腰から『黒鉄の包丁』を抜いて、まっすぐにエレナの隣へと走り寄ってきたのだ。


「ダメだ、少年! 近づくな! この毒は君の命まで――」


「一人で背負わないでッ!!」


アルの叫びが、エレナの言葉を完全に遮った。


アルの漆黒の瞳には、宇宙の真理を映し出す【真理の目】の黄金の輝きが、眩いばかりに灯っていた。


「エレナさん! 盾は一人で抱え込むものじゃないよ! 僕たちが……カルムと僕が、エレナさんの背中を支えるんだッ!」


「アル殿……」


「そうだぜ、気取った騎士様よぉッ!」


アルの逆側から、深紅の流星と化したカルムが弾丸のように飛び込んできた!

カルムの両拳には、先ほどの鍛錬で得た、一切の揺らぎのない『赤蓮の極光炎』が激しく燃え盛っている。


「お前が全部背負い込んで一人で潰れたら、俺たちのチームはどうなるんだよ! 俺たちが欲しいのは『壁』じゃねぇ! 一緒に美味ぇメシを食う『仲間』なんだよッ!!」


カルムの咆哮。

その言葉が、エレナの胸の中に固く結ばれていた「孤独の結び目」を、パチンと音を立てて弾けさせた。


(仲間……。そうだ……私は……一人ではないのだ……!)


エレナの瞳から、悲壮な迷いが消え去った。

冷たく凍りついていた彼女の心に、アルとカルムの熱い体温が直接流れ込んできたのだ。


「……ふっ。そうだったな」


エレナの口元に、初めて心からの凛とした笑みが浮かんだ。


「すまない、二人とも……! 我が背中……君たちに預けるッ!!」


エレナが聖剣を斜め上へと振り上げた。

ただ耐えるだけの重い障壁が霧散し、代わりに無数の幾何学の刃が彼女の周囲を舞う、圧倒的な攻撃型聖術陣へと変化する!


「【真理解体】……見えたッ!!」


アルの黄金の視界が、魔獣グラグラ・ガットの全身を覆う岩石鎧の構造をミクロのレベルで透かして見せた。


ただの岩の塊ではない。

地脈の強いマナによって、硬質な岩塩と鉄鉱石が「毒のアクの結び目」によって強引に接着されているだけ。


(あの前脚の付け根! 胸の核へと繋がる『因果の筋』……!)


「アル! 筋はどこだ!?」

カルムが全開の魔力を足に溜めて叫ぶ。


「前脚の第三関節! 殻の繋ぎ目だよッ!」


「任せろッ!!」


アルが先行し、風のように魔獣の巨足の足元へ潜り込んだ。

黒鉄の包丁を逆手に構え、岩石の繋ぎ目にある【黄金の光の結び目】へ向かって、刃を滑らかに滑り込ませる!


シュッ――――。


サクッ……!


「「「ギ……!?」」」


絶対の強度を誇っていた魔獣の右前脚の岩石鎧が、アルの一閃によっていとも簡単に結合を解除され、ガコンッ! と音を立てて崩れ落ちた!


「今だ、カルムッ!!」


「オラァァァァァッ!! 【我流神殺・赤蓮穿】ッ!!」


アルが剥き出しにした柔らかい肉体へ、カルムの赤い炎の拳が寸分の狂いもなく突き刺さる!

ドガァァァァァァァァンッ!!


魔獣の右前脚が爆発とともに粉砕され、巨体が大きくバランスを崩して傾いた。


「ギシャアアアアッ!?」


狂乱した魔獣が、残された左前脚と尻尾を振り回し、アルとカルムを押し潰そうと襲いかかる!


だが――。


「させない……! 【星霜不滅の領域(アウローラ・グランド)】ッ!!」


背後から飛び出してきたエレナが、寸前のところで二人の前に躍り出た!


今度のエレナの障壁は、冷たい鉄の壁ではなかった。

アルの『解体』とカルムの『火加減』の軌道を一切邪魔せず、敵の反撃の衝撃だけを滑らかに逃がす、完璧な『仲間を護るための流動障壁』!


ドズゥゥゥゥンッ!


魔獣の反撃がエレナの極光に弾かれ、完全に空を切る。


「見事だ、エレナさんッ!!」

「へっ、ナイスシールドだぜ騎士様ッ!!」


「二人とも、トドメだッ!!」


エレナ、カルム、アルの三人の意志が、完璧にひとつに重なった。


アルが魔獣の胸の『核心の解体線』を黒鉄の包丁で滑らかに切り解く!

サクッ――――!


カルムがその解体線に全開の赤蓮炎を叩き込んで爆発させる!

ドガァァァンッ!


そして――無防備になった魔獣の核へ向かって、天高く跳躍したエレナが、全マナを注ぎ込んだ聖剣を真下へと振り下ろした!


「【我が絆の不滅を証明せよ……星霜極光斬】ッ!!!!」


ズバァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!!!!


青白銀の巨大な極光の刃が、十メートルの魔獣グラグラ・ガットの巨体を、縦一文字に完璧に一刀両断した!


四、 荒野の極上ステーキと溶ける心の氷

「ギ……ガ……ッ……」


崩れ去る魔獣の巨体。

だが、アルが核を解体していたことで、魔獣の体内に溜め込まれていた石化の毒素(アク)は完全に無害化され、澄み切ったマナの粒子となって荒野の空へと溶けて消えていった。


そして、砕け散った岩石鎧の真ん中に、ポツンと残されたもの。


それは――石化の毒が完全に抜け、上質なサシの入った赤身肉となった、巨大な【極上の荒野肉(超高級食材)】であった。


「……勝った……のか……?」


エレナは、聖剣を支えにして着地し、自分の両手を見つめた。

かつてないほどの激闘。しかし、彼女の身体には不思議と疲労感はなく、胸の中は晴れ晴れとした熱さで満たされていた。


一人で耐え忍んでいた時には絶対に勝てなかった強敵。

それが、仲間と背中を預け合い、互いの力を信じ合うことで、これほどまでに鮮やかに撃破できたのだ。


「やったな、騎士様ッ!!」


どたばたと駆け寄ってきたカルムが、エレナの白磁の肩をガシッと力任せに抱きたたいた。


「な……喧嘩屋! 無礼だぞ!」

「堅いこと言うなよ! お前が最高のタイミングでガードしてくれたから、俺のパンチが完璧に通ったんだぜ! ありがとな、エレナ!」


カルムが、いつもの凶悪な八重歯を見せて、最高に眩しい笑顔を向けた。


「カルム……」


さらに、アルも笑顔で駆け寄ってきた。

「エレナさん、すごかったよ! エレナさんの盾があったから、僕も安心して包丁を振れたんだ!」


「アル殿……」


二人の温かな笑顔と言葉が、エレナの胸の中に残っていた最後の氷を、完全に溶かし去っていった。


「ふふ……あはははっ!」


エレナの口から、可憐で、透明な笑い声がこぼれ出た。


「私としたことが……すっかり君たちに救われてしまったな。……ありがとう、アル、カルム」


エレナが、手袋を外し、二人へ向かって素手を差し出した。

アルとカルムも笑顔で手を重ね、三人は強く手を握り合った。


「さぁ! 勝ったんだから、宴の始まりだぞッ!」


アルは、手に入れた極上の荒野肉へ向かって、黒鉄の包丁を構えた。


トントン、トントントントン――――ッ!


アルの手元で、黒鉄の包丁が吸い込まれるように滑り、厚切りのステーキ肉へと下ごしらえされていく。

カルムが荒野の平らな岩盤を集め、自身の赤蓮の炎で岩盤をカンカンに熱した。


ジュワァァァァァァァァァァッ……!!


熱せられた岩盤の上に、厚切りの肉が投入される。

香ばしい脂の弾ける音と、肉汁の濃厚な甘い香りが、峡谷全体へ爆発的に広がっていく。味付けは、荒野で採取した塩の結晶と、野草のスパイスのみ。


「はい、エレナさん! 焼き立ての荒野ステーキだよ!」


アルが、熱々の肉を盛り付けたお皿をエレナへ差し出した。


エレナは、素手でそのお皿を受け取り、熱々の肉をナイフで切り分けて口へ運んだ。


「いただきます……っ」


パクッ。


「―――――――――――――ッ!?」


エレナの青い瞳が、感動で潤んだ。


噛み締めた瞬間、口の中で溢れ出す極上の肉汁と、野草スパイスのピリッとした刺激。炭火で焼いたような香ばしさが舌全体を包み込み、呑み込んだ瞬間に、胃の腑から全身へ向かって圧倒的な生命の熱が駆け巡っていく。


「美味しい……! 美味しいぞ、アル殿……っ!!」


「だろぁ!? アルの一押しステーキだぜ!」

カルムも肉にかぶりつきながら豪快に笑う。


三人は、岩の上に並んで座り、熱々のステーキを頬張りながら、声を上げて笑い合った。

冷たい風が吹く荒野の峡谷。しかし、彼らが囲む食卓の周りだけは、世界で一番温かな体温に満ちあふれていた。


五、 結ばれた三人の絆と西の地平

夜が明け、塩の砂嵐が去った峡谷の出口。


朝日に照らされた西の地平線の彼方に、薄っすらと緑豊かな山々が見え始めていた。

あの山々を越えれば、教国ルミナの領土、そして第二の目的地である古代都市への道が開ける。


アルは、背中のリュックを背負い直し、太陽の光を見上げた。


「さぁ、行こう! 新しい街へ!」


「おうッ! 腹もいっぱいだ、どんな敵が来ても返り討ちにしてやるぜ!」

カルムが両拳を固く握り締める。


エレナは、背中の『星霜の聖剣』を確かめ、アルとカルムの二人の顔を見つめた。


彼女の瞳には、もう過去への囚われも、孤独な悲壮感もなかった。

そこにあるのは、仲間を心から信じ、共に未来を切り開く「不滅の騎士」としての揺るぎない確信。


「行こう、二人とも」


エレナは、二人の先頭に立ち、澄み切った声で言った。


「君たちの不滅の『盾』として……どこまでも共に行こう!」


少年料理人アル、喧嘩屋カルム、そして不滅の騎士エレナ。

三人の魂が「芽生えた信頼」によって完全にひとつに結ばれた。


彼らの歩む足音は、冷たい世界の理不尽を解体し、温かな新世界を再創生するための不滅の音律となって、西の彼方へと力強く響き渡っていくのであった。

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