第118話:這い上がる男
一、 灰の玉座と、命の残火
サラサラ……、サラサラ……。
武神の孤島、その最深部たる漆黒の深淵。
かつて百倍重力という理不尽な圧殺領域を展開していた『超重力の巨人』は、カルムの放った一筋の解体刃によって核を両断され、今やただの細かい黒い灰となって虚空を舞っていた。
巨人の崩壊と共に、周囲の空間を押し潰していた重圧は嘘のように消え去り、大気は本来の重力(一倍)の軽さを取り戻していた。
だが、重力が軽くなったからといって、カルムの身体にかかる絶望的な負荷が消えたわけではない。
「……ハァ……ッ……ハァ……ッ……ハァ……ッ……」
カルムは、黒曜石の大地の上に立ち尽くし、荒く、血の混じった不規則な呼吸を繰り返していた。
彼の肉体は、限界という言葉の定義をとうに数段階通り越している。
魔女による処置で再生したはずの両腕は、百倍重力の結界を両断するという人間の限界を超えた一撃(我流・神殺しの解体刃)を放った反動により、再び完全に破壊されていた。
右腕は、表面の皮膚が焼け焦げ、筋肉の繊維が限界まで引き伸ばされて断裂し、肩からだらりとぶら下がっている。
左腕もまた、毛細血管がすべて破裂し、赤黒く腫れ上がった状態で機能停止していた。
全身の骨格には無数のヒビが走り、歩くたびに、いや、ただ呼吸をして肺を膨らませるたびに、ガラスの破片で内臓をかき回されるような激痛が走る。
(……終わっ……たか……)
カルムは、霞む黄金の左目で、巨人の灰が原初マナの青白い光に溶けていくのを見つめた。
勝った。
古代の闘鬼、巨大キメラ、そして百倍重力の化身。
この島が隠し持っていた最大の絶望たちを、力任せの暴力ではなく、アルの包丁から学んだ『理を見極め、解体する武術』によって、完全に打ち破ったのだ。
神の絶対的な法則すらも切り裂ける『刃』を、俺は確かに掴み取った。
「……へっ……。……やってやったぜ……アル……」
カルムの血に染まった唇から、ヒューヒューと風の漏れるような笑い声が漏れた。
誇らしかった。
自分の中に眠っていた荒々しい暴力が、相棒の祈りと技術によって洗練され、一つの【武の完成形】へと辿り着いたのだから。
だが。
ドクン……。
…………。
ドクン……。
カルムの耳の奥で鳴り響く、自身の心臓の鼓動。
それは、信じられないほど遅く、弱々しく、今にもその命の秒針を完全に停止させようとしていた。
痛覚すらも、すでに麻痺し始めている。
指先の感覚はなく、足はまるで他人の借り物のように冷たく重い。
カルムは、その場に崩れ落ちそうになる両膝を、残された気力だけでギリギリのところで支えていた。
(……ここで、膝を突いたら……もう二度と、立ち上がれねぇ……)
カルムの本能が、そう告げていた。
休みたい。このまま血の海に倒れ込んで、目を閉じれば、どれほど楽だろうか。
重力から解放された今、眠りに落ちることは、温かい羽毛のベッドに沈み込むような、甘美な死の誘惑であった。
(……バカ言え。……俺の帰る場所は……こんな灰の底じゃねぇだろ……)
カルムは、ガチガチと歯を鳴らしながら、虚空を睨みつけた。
彼の目的は、この島で敵を倒すことではない。
ここで得た『最高の火力(刃)』を持って、アルの元へ帰り、あいつの作る温かい厨房を護る最強の盾(相棒)となることだ。
ここで力尽きて死んでしまえば、いくら最強の力を手に入れても、何の意味もない。
「……動け……。……動けよ、俺の身体……ッ!」
カルムは、己の肉体に命令を下した。
マナ回路は失われている。己の魂を直接燃やす『炎の概念刃』も、巨人を倒すために完全に使い果たし、体内にはもうチリ一つほどの火種すら残っていない。
それでも。
カルムは、血まみれの右足を、三十倍重力のクレーターの斜面に向かって、一歩、ズリッ……と引きずるようにして踏み出した。
「……アルが……待ってんだ……。……俺は……帰らなきゃなんねぇんだよッ……!」
その足取りは、死人の行進よりも遅く、無様だった。
だが、その一歩には、世界中のどんな英雄の凱旋よりも重い【執念】が込められていた。
二、 魔女の再臨と、無慈悲な真実の宣告
ズリッ……。ザクッ……。
カルムが、クレーターの斜面を十数歩ほど這い上がった時だった。
『――――見事な執念だ。だが、物理法則というものは、精神論だけで覆せるほど甘くはないぞ』
静まり返ったクレーターの底に、凛とした、だがどこか冷酷な響きを持った女性の声が響いた。
「……!」
カルムが重い頭を上げると、そこには、先ほどカルムの肉体を一時的に再生させた謎の女性——【最初の魔女】が、黒曜石の岩盤の上に静かに腰を下ろしていた。
銀色の長い髪が、原初マナの風に揺れている。
彼女の周囲だけは、この孤島の過酷な環境から完全に切り離されたように、清浄で絶対的な空間が保たれていた。
「……てめぇ……。……まだ、いたのかよ……」
カルムは、両腕を垂らしながら、血の混じった唾を吐き捨てた。
『観察を続けていただけだ。……まさか、マナを持たないただの人間が、百倍重力の化身を、空間ごと「解体」してみせるとはな。……お前の編み出したその武術、私の研究データに新たな1ページを加えるに足る、素晴らしいサンプルだったよ』
魔女は、カルムの凄絶な戦いを称賛するように、パチパチと乾いた拍手を送った。
だが、その黄金色の瞳には、カルムへの同情や慈愛の色は一切なかった。
あるのは、純粋な探求者としての知的好奇心と、冷徹な分析の光だけ。
『だが、そこまでだ、修羅の小僧』
魔女は、立ち上がり、カルムの方へゆっくりと歩み寄ってきた。
『先ほど、私が星の命を流し込んでお前の肉体を再生させたが……お前は、百倍重力を切り裂くために、その生命力のキャパシティを遥かに超える出力を引き出してしまった。……自分の肉体の状態が、分かっているだろう?』
「……あぁ……。……ボロボロだ……。だが……まだ、歩けるぜ……」
カルムは、強がりではなく、事実としてもう一歩、足を踏み出そうとした。
しかし。
『歩けるかどうかではない。お前の細胞は、すでに【死んでいる】のだ』
魔女の宣告は、無慈悲なナイフのようにカルムの耳を打った。
『細胞の分裂回数は限界を迎え、DNAの螺旋は完全に崩壊している。今、お前が動けているのは、脳内麻薬の過剰分泌と、魂の異常な興奮状態による「死後硬直の延長」のようなものに過ぎない。……持ってあと数十分。このクレーターを登り切る前に、お前の肉体は完全に砂となって崩れ落ちるだろう』
魔女の言葉に、嘘はなかった。
カルム自身、自分の身体が、砂上の楼閣のように今にも崩れ去りそうな不安定な状態にあることを、本能で悟っていた。
指先から少しずつ、自分の存在が透明になっていくような、悍ましい虚無感。
「……だから、どうしたってんだよ……」
カルムは、俯いていた顔を上げ、魔女を真っ直ぐに睨みつけた。
「俺の細胞が死んでようが……寿命が尽きてようが……知ったことかよ。……俺の【魂】は、まだ一ミリも死んじゃいねぇぞッ!」
カルムの左目、黄金に輝く解体眼の奥に、決して消えることのない強烈な反逆の光が宿った。
「肉体が砂になるなら……砂のまま這い上がってやる。脳みそが焼き切れるなら……俺の魂だけで這い上がってやる。……俺は、アルの元へ帰る。あいつに背中を預けてもらうまで、絶対に……絶対に終わらせねぇッ!」
その気迫。
死を宣告されてなお、一切の揺らぎを見せないカルムの修羅の眼差しに、魔女は一瞬だけ、本当に一瞬だけ、驚いたように目を見張った。
『……狂っているな。神の理不尽に抗う者は数多く見てきたが、お前ほど純粋で、泥臭い狂気を宿した人間は初めてだ』
魔女は、フッと小さく笑い、銀髪をかき上げた。
『……ならば、見せてみろ。お前のその「魂」とやらが、完全に死に絶えた肉体の枷(理)を超えて、己を動かすことができるのかを。……マナ回路というシステムに頼らず、命の燃えカスすらも使い果たしたお前が、どうやって新しい「熱」を創り出すのかをな』
魔女の言葉は、ただの挑発ではなかった。
それは、カルムがこれから向かうべき【最後の領域】への、残酷だが的確なヒントであった。
「……言われなくても……見せてやるよ。……特等席で、拝んでな……ッ!」
カルムは、魔女から視線を外し、再びクレーターの斜面へと向き直った。
その瞬間。
三、 崩壊する武神の孤島、絶望の垂直登攀
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!!
カルムの足元、三十倍重力の大地が、突如として激しい地震のように揺れ始めた。
「……なっ……!?」
カルムが足を取られて膝を突きそうになる。
『超重力の巨人が消滅したことで、この島の重力バランスとマナの循環が完全に崩壊を始めたのだ。……このクレーターの底は、あと数分で星の核のマグマに呑み込まれ、完全に消滅する』
魔女が、淡々と事実を告げる。
その言葉を証明するかのように、黒曜石の大地が次々とひび割れ、その裂け目から、凄まじい熱量を持った赤黒い【原初のマグマ】が、間欠泉のように噴き出し始めた。
ジュバァァァァァァァァンッ!!!!
カルムのすぐ横でマグマが噴き上がり、熱波がカルムの顔を焼く。
『這い上がるというのなら、急ぐことだ。……もっとも、腕の使えないお前が、この垂直に近いクレーターの絶壁を、マグマに追いつかれずに登り切れるとは思えないがな』
魔女の姿が、再び原初マナの霧の中に幻のように溶け込んで消えていく。
「……チッ。……最後まで、嫌がらせの好きなババアだぜ……ッ!」
カルムは、噴き出すマグマから逃れるように、クレーターの斜面——ほぼ垂直にそびえ立つ、黒曜石の絶壁へと向かって駆け出した。
走るたびに、足の骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。
背後からは、マグマの海が凄まじい勢いでクレーターの底を埋め尽くし、カルムの足元へと迫ってきていた。
ズガァァァァァァンッ!!!!
カルムは、絶壁の麓に辿り着き、上を見上げた。
高さ数千メートル。
途中に足場になりそうな岩の出っ張りはいくつかあるが、基本的にはツルツルの黒曜石の壁だ。
通常であれば、両手を使って岩の隙間を掴み、よじ登るロッククライミング。
だが、今のカルムには、その【両腕】が使えない。
右腕は肩から垂れ下がり、左腕も腫れ上がって指一本動かせない状態だ。
腕を使わずに、どうやってこの垂直の壁を登るというのか。
「……腕がなけりゃ……足で登る。……足がなけりゃ……顎で登るまでだッ!!」
カルムは、狂気の笑みを浮かべ、絶壁に向かって跳躍した。
ドンッ!!
カルムは、右足の爪先を、黒曜石の壁のわずか数センチの窪みに強引に突き立てた。
同時に、使えない左腕の【肘】の骨を、岩の隙間に楔のようにガッチリと打ち込む。
「ガ……ァァァァッ!!」
激痛。
肘の皮膚が裂け、骨が直接岩肌と擦れ合う凄惨な痛み。
だが、カルムはその痛みすらも「身体が岩に固定されている証拠」として受け入れ、さらに上の窪みへと左足の爪先を引っ掛けた。
足の爪先と、肘の関節。
そして。
「……オラァッ!!」
カルムは、岩の突起に、自らの【顎】と【歯】を引っ掛け、首の筋肉だけで身体を上へと引き上げたのだ。
メキメキメキッ……!!
顎の骨が外れそうになり、歯が岩肌で砕け、口から大量の血がこぼれ落ちる。
それでも、カルムは登った。
一歩。また一歩。
マグマの熱波がすぐ真下まで迫る中、腕を失った修羅は、己の肉体を破壊しながら、文字通り【這い上がって】いった。
四、 泥に塗れた記憶、アルのスープの温度
ズリッ……。ガリッ……。
黒曜石の絶壁に、カルムの肘と顎から流れた血が、赤い線となって点々と残されていく。
「……ハァ……ッ……ハァ……ッ……。……ぐッ……!」
カルムの意識が、何度も、何度も、真っ白に飛びそうになる。
細胞の崩壊が始まっている。
指先や足先から、感覚が完全に消え失せ、自分の肉体がそこにあるのかすら分からなくなりつつあった。
下からは、マグマの海がゴウゴウと煮えたぎり、カルムの靴底を焦がすほどの熱気を放っている。
少しでも動きを止めれば、マグマに飲み込まれて灰になる。
だが、動かす筋肉が、もうカルムの身体には残されていなかった。
(……限界……だ……。……もう……上へ引っ張り上げる力が……)
カルムの左足の爪先が、岩の窪みから滑り落ちた。
「……ッ!?」
バランスを崩し、カルムの身体が絶壁から剥がれ落ちそうになる。
左肘の骨だけで、かろうじて全体重を支えている状態。
肘の関節が悲鳴を上げ、メリメリと嫌な音を立てて外れかかっている。
(……落ちる……。……俺は……ここまで……か……)
視界が暗転しかけた、その時。
『カルムッ!!』
耳の奥で、アルの悲痛な叫び声が響いた。
暗黒の絶望の中で、カルムの脳裏に、かつての記憶がフラッシュバックする。
教国の地下、忘却の深淵の入り口。
三使徒との絶望的な死闘。
全身の骨を砕かれ、マナ回路を焼き切られた自分が、泥水の中に倒れ伏していた時。
アルは、泣きながら、泥だらけの手でカルムを抱き起こし、自分の水筒から、あの温かくて不格好な『泥スープ』を飲ませてくれた。
『カルム……死なないで……! お願いだから、死なないで……ッ!』
『僕も……強くなる。一人で、最高の包丁を見つけて……絶対に、神様の理不尽を解体できる料理人になってみせるッ!』
『だから……絶対に、絶対に生きて帰ってきてねッ!』
アルの漆黒の瞳からこぼれ落ちた、大粒の涙。
それが、カルムの頬に落ちた時の、あの温かい感触。
(……そうだ……。……俺は……)
カルムは、外れかかっていた左肘に、凄まじい執念で力を込め直し、再び岩壁にしがみついた。
(……俺の命は……俺だけのモンじゃねぇんだ)
スラムで、ただのゴミとして死ぬはずだった俺。
誰からも必要とされず、誰の記憶にも残らずに消えるはずだった命。
それを、アルが拾ってくれた。
温かいスープで、俺の冷え切った血を温めてくれた。
俺に、「生きて帰ってきてほしい」と、俺の命に【価値】を与えてくれたんだ。
(……あいつが、あんなに泣いて……俺の帰りを待ってるのに……! 俺がこんな岩の壁なんかに……負けてたまるかァァァァァァッ!!!!)
カルムの黄金の左目が、再びカッと見開かれた。
眼球の毛細血管が破裂し、血の涙が頬を伝う。
「……俺は……帰るんだよッ!! アルが待ってる……最高の厨房にッ!!」
カルムは、歯を砕きながら岩の突起に噛みつき、首の筋肉を引きちぎらんばかりの力で、自らの身体を上へと引き上げた。
失われた筋肉の代わりに。
限界を迎えた細胞の代わりに。
カルムの【魂の執念】が、物理的な引力を強引にねじ伏せて、彼を上へ上へと這い上がらせていく。
五、 魂の燃焼、炎の胎動の兆し
ザクッ! ズリッ! メキッ!
カルムの這い上がる速度が、異常なほどに加速し始めた。
それはもはや、人間の動きではない。
四肢が使えなくても、全身の関節と骨、顎と歯を駆使して、まるで岩肌を這う蜘蛛のように、絶壁を垂直に駆け登っていく。
背後から迫るマグマの熱波すらも、今のカルムには届かない。
(……もっとだ。……もっと早く……! 俺は、帰るんだッ!)
カルムの意識は、激痛と酸欠によって、現実と幻覚の境界線を完全に超えていた。
彼の視界には、岩壁ではなく、アルのいる『最高の厨房』への光の道筋だけが真っ直ぐに伸びて見えていた。
だが。
魔女が宣告した通り、カルムの肉体の細胞は、すでに完全に死に絶えようとしていた。
限界を超えた動きにより、カルムの左肘の骨が完全に砕け散った。
足の爪先も、度重なる衝撃で肉が削げ落ち、骨が露出している。
身体を固定する手段が、一つ、また一つと失われていく。
「……ガ……ァ……ッ……!」
頂上まで、あと数十メートル。
だというのに、カルムの身体から完全に力が抜け、岩壁からズルズルと滑り落ち始めたのだ。
(……動け……。……頼むから、動いてくれ……ッ!)
心でどれほど叫んでも、細胞はこれ以上の活動を拒否していた。
肉体という器が、完全に崩壊の臨界点を迎えたのだ。
カルムの身体が、絶壁から剥がれ落ち、マグマの海へと真っ逆さまに落下しようとする。
『……お前が、どうやって新しい「熱」を創り出すのかをな』
その瞬間、魔女の言葉が脳裏に蘇った。
マナ回路は焼けた。
命の燃えカス(生命力)も、完全に使い果たした。
肉体は死んだ。
ならば、俺の中に残っているものは、なんだ?
(……俺の……【魂】だ)
カルムは、落下しながら、目を閉じた。
肉体が死んだなら。
肉体という器に頼るのを、完全にやめればいい。
俺がアルを想う気持ち。
あいつの背中を絶対に護るという、世界中の誰にも負けない【誓い】。
その形のない「想い」や「魂」そのものを、直接、物理世界に顕現させればいいじゃないか。
マナでもない。
生命力でもない。
ただ純粋な、カルムという存在の【魂の温度】。
ドクンッ……!!!!
完全に停止していたはずのカルムの心臓で。
いや、心臓という物理的な器官ではなく、彼の魂の最深部で。
これまでの『真紅の炎(命の熱)』とも『緋色の極光(アルの祈り)』とも違う。
それらが完全に融合し、昇華し、肉体という枷から解き放たれた、全く新しい【概念としての熱】が。
小さな、本当に小さな火種として、産声を上げたのだ。
「……俺の火は……」
カルムが、静かに目を開く。
その瞬間。
彼の完全に機能停止し、だらりと垂れ下がっていた両腕の表面から。
いや、両腕だけではない。彼の全身を包み込むようにして。
圧倒的に澄み切った、世界で最も熱く、そして世界で最も優しい【真紅と緋色が混ざり合う、神殺しの概念炎】が、爆発的な勢いで噴き上がり始めたのだ!
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!
「……俺の火は、誰にも消せねぇッ!!!!」
カルムの身体が、落下を完全に停止し、空中でピタリと静止した。
炎が、翼のように広がる。
肉体が死んでも、彼の魂の炎は、物理法則(重力)すらも完全に支配し、カルムの身体を空中に浮遊させていた。
カルムは、炎に包まれた両腕をゆっくりと持ち上げた。
激痛はない。
あるのは、絶対的な力強さと、アルの元へ帰るという明確な意志だけ。
孤島の崩壊によるマグマの海が、足元で咆哮を上げる。
だが、カルムの放つ新しい概念炎の熱量は、星のマグマすらも凌駕し、周囲の空間を完全に焼き尽くしていた。
絶望の岩壁を這い上がり、肉体の死を超越して。
修羅の少年は、ついに真の『神殺しの炎』を己の魂から直接引き出すことに成功したのだ。
第119話「我流・神殺しの概念炎」。
全てを失った果てに覚醒した究極の炎が、武神の孤島を焼き尽くし、相棒の待つ地上へと帰還するための、最大のカタルシスがいま爆発の時を迎えようとしていた。




