悪役令嬢の記憶~傘を持った雪兎さんと涙
真白と別れ帰路に就く私は、ゆったりと潮騒を感じながら、春の終わりで初夏に入ろうかという夕暮れを眺めて通学路であるミカン畑以外は何もない坂道を下る。
いつ潰れたのかもわからない、パチンコ屋さんの脇を通り抜け目の前にあるのは波を遮ることなどできるのか怪しい小さな防波堤その上にそびえる潮風でさびれた渚色のピアノ。なんでこんなところにストリートピアノが置いてあるのかは私にはわからない。でもその少しノスタルジーな雰囲気が私はなんだか嫌いではなかった。
私は海を眺めるついでにゆったりとそのピアノの前に置いてある椅子に腰を掛ける。
まるで当たり前みたいに海を見ながら黒鍵に指をかける。私はこのピアノを弾いたことはないはずなのだが自然と指がその音に伸びた。
そんなすぐに景色から流される入道雲のようなテンションで、、、
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( ᴗ ̫ ᴗ。 ) ☆三
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引き始めた曲は(フランソワ・クープラン作曲)の「ゆりの花ひらく」。この曲はクラヴサン(チェンバロ)やピアノのために書かれた優雅な小品で、可憐に咲く百合の花を思わせる、美しくもどこか儚げな雰囲気が魅力のクラシック。
別に私は特段百合の花が好きなわけでも無いし、何ならクラシックが好きなわけでも無いし、ピアノが好きなわけでも無い。むしろピアノは物事をほめない元カレがほめてくれた数少ない物の一つで、とても嫌いと言い換えることもできる。だけれども今の私はピアノを弾いている。
人間とは時折訳の分からないことをしてしまうものなのだろう。それがなぜなのかとかそれが必要なのかどうかとかは、多分どうだっていい。結果だけだ。結果だけが残る。だから私は自分という人間が人殺しなのだという結果を享受している。理解しきれていなくても、あきらめてはいる。
そんな諦念な感情で私はピアノを弾き続ける。すると日がだんだんと傾き始め世界は黄昏の藍色に表情を変える。そんな景色を見ることもなく。私がピアノの鍵盤を自分自身の罪を押し付けるみたいに弾いていると、、、
「ポツンッ」なんだ?最初は最近センシティブな感情になりがちな、メンヘラ女である私が啼き始めたのかと思ったのだが違った。
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「啼いているのは君だったのか、、、空」
そんな歯の浮くようなセリフを私は口から垂れ流す。でもそんな空の涙すら私にはどうでもよかった。むしろこんな私は雨にでも打たれてしまえばいいのだ。そんな感傷的な言葉にはしない感情が私の胸を劈く。
「はあ、、、なんで心ってあるんだよ、、、」
胸に手を当てて考えてみろ、私が人殺しとなった日に父に言われたセリフ。胸に手を当てたってそこに何にもありはしない。いやむしろなくなってほしいこんなものは、、、とすら思った。私がやっていることがただの責任放棄なのはわかっている。でも想像してしまう、この胸の重みがなければ私は今頃人殺しではなかったのではないかと、、
段々と強くなるアメニモマケズ。なんて私に言えるはずはない、雨にだって何にだって負けているから、初夏だというにこんなにも私は体が冷たいのだろう。
「ふざけやがって、、、全部全部、命ばっかりじゃん!」
私の目から雫が落ちる。これを雨と言い張れる勇気が私にはなかった。
すると、、、
「蝦夷菊さん?どうしたの?」
背後には真っ白な傘を持った生き物がいた。
「真白君には見られたくなかったな、、、」
「蝦夷菊さんも読点が三つ、、、悲しかったんだね」
「そうだよ、、、私は悲しかったんだよ。」
違う悲しいんだよ。そういうことが言える勇気が欲しかった。




