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第一章30 透明な人生

墨然すみしかくんが四年前、僕にあの質問をしたのは、際允あいゆるは自殺したわけではないと疑っていたからだろう? 僕も同じだ。彼の本当の死因は自殺ではないと考えている」


 止湮としずが単刀直入に本心を告げた。


 数日前のレストランでの会話を経て、双方は既に「事件を追う理由」を明かすことはできないと告げ合っていた。

 その原因か、止湮としず墨然すみしかも、互いにどうしてその事実を知るに至ったのかを問わないという暗黙の了解があるようだ。


 傍らで二人の会話を聞いている死者本人である際允あいゆるは、墨然すみしかがどうやってそれを知ったのか、そしてなぜ際允あいゆるが前世で死んでから2年も経った――約4年前という時点に止湮としずに尋ねたのか、気になって仕方がない。

 だが、本人が語るつもりがない以上、仕方のないことだ。


「とはいえ、僕がそう思い始めたのも最近のことで、まだ実際に調査に割く時間が取れていないんだ」


 止湮としず墨然すみしかに、少し申し訳なさそうな微笑を向けた。


「俺は……」


 一瞬、墨然すみしかは言葉を詰まらせた。

 話すべきかどうか迷っているようだったが、すぐに意を決したように言葉を続ける。


「四年前に止湮としず先輩に尋ねてから、ずっと独自に調査を試してきました」


――どうして?


 傍でテレビを見るふりをしている際允あいゆるは、思わず口に出しそうになった言葉をかろうじて飲み込んだ。

 墨然すみしかは一体なぜ、それほどまでに前世の死に執着しているのか?


「四年前、先輩に聞いた後、際允あいゆる先輩が住んでいた寮にも行ってみました。当時の第一発見者で通報した学生や、事件に関わった警察官、刑事にも当たりましたが、収穫はありませんでした」


――行動派すぎないか、この人。


「うん……予想通りだな。でも、おかげで手間が省けるよ。ありがとう」


 止湮としずは、墨然すみしかを気遣うように笑顔を見せる。

 その言葉はおそらく、墨然すみしかに自分の持っている情報が役に立たなかったことに、負い目を感じさせないようなもの。


――止湮としず、まさか墨然すみしかくんの話をそのまま信じるつもりなのか? ただの顔見知りの後輩に過ぎないというのに、それほどまで無防備に信頼することができるのか?


 呆れを通り越して、際允あいゆるは自分の方が疑り深すぎたのではないかとさえ疑い始めた。

 本当は、止湮としずのような考え方こそが「普通」なのだろうか。


「自分は、際允あいゆる先輩は殺されたのだと考えています。ですが、全く証拠が見つからなかったんです」


 墨然すみしかの言葉には、微かだが隠しきれない悔しさが滲んでいた。


「それはこっちも同じだ。全く証拠がないんだよ」


 止湮としずもため息をついた。


「せめて犯人の正体について、何かしら手がかりがあればいいんだが」

「もし知人による犯行だったとしたら、止湮としず先輩から見て容疑者になりそうな、心当たりのある人物はいますか?」

「正直に言って、いないんだ」


際允あいゆるは……孤児だった。法律上の唯一の家族である養父は、彼が死ぬ前月に重病で入院していた。僕以外に友達も……いや、正確には他に仲がいい知り合いはいなかったはずだ」

 少し気まずそうに、止湮としずは笑った。


 他人の口から、自分の対人関係の希薄さを語られるのは妙に恥ずかしい。

 この会議自体がある意味で、自分への一種の罰ゲームなのではないかとさえ思い始めた。


「誰かと恨みを買うようなことはなかったんですか?」

「僕の知る限りではなかったよ」


 その言葉だけでは説得力が足りないと思ったのか、止湮としずはさらに付け加える。


「彼は他人と交流すること自体がほとんどなかったからな。恨みを買うとか、そんな機会すらなかっただろう」

止湮としず先輩ですら知らない、という状況はあり得ませんか?」


 止湮としずの言葉があまりに断定的で、墨然すみしかは困惑したように疑問を投げかけた。


「それはないと思う」


 そう言いながら、止湮としずは確認するようにリビングの角にいる際允あいゆるに目を向けた。

 際允あいゆるは無言のまま小さく首を振る。すると止湮としずは微笑んで、墨然すみしかへの説明を続ける。


際允あいゆるは空き時間、基本的に寮か学校しかなかった。食事以外で校外に出ることもなかったし、生活リズムも極めて規則正しかったからね」


 前世の自分、本当に生きていても死んでいても大差のない存在だったんだな。

 際允あいゆるは聞けば聞くほど、どこか他人事のようにそう思えてきた。


 しばらく考え込んだ後、墨然すみしかは再び問いかける。


際允あいゆる先輩の遺品が今どこにあるか、知っていますか?」

「遺品?」


 なぜか、止湮としずはその言葉で少しだけ固まる。そしてすぐに事も無げな表情に戻った。


()()()()()()()()よ」


――あ?


「あ?」


 墨然すみしかは、際允あいゆるが心の中で上げたのと全く同じ驚きの声を漏らした。


際允あいゆるが亡くなった後、僕は彼の養父の養子になったからね。際允あいゆるのものはすべて養父が相続して、それからほどなくして養父も亡くなって、僕はあの人のものを相続したんだ。だから、際允あいゆるのものはすべて僕のところにあるよ」


 至極当然のことだと言わんばかりに、止湮としずは平然とした顔をしていた。


「そう……でしたか……」


 墨然すみしかはまだ驚きから立ち直れないまま、呆然と返した。

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