第一章21 「俺」は誓う
「僕がそれを知ったのは、成人した当日だった」
止湮は過去の記憶を語り続ける。
「あの日は月曜日だった。両親が数日前に僕の誕生日を祝いたいって言ったから、その週末に実家に帰っていたんだ。日付が変わる時、両親はバースデーケーキを持ってバースデーソングを歌いながら僕の部屋に入ってきて、そしてこのことを説明した」
その淡々とした口調の中に、際允は一筋の憎悪を感じ取った。
「彼らは、これは僕への誕生日プレゼントだと言ってさ。サプライズにするためにずっと隠していたんだと。それから何を言ってたっけ? 我々ミレカー一族はおかげでこれから大出世するんだとか? この大きな贈り物と過去十八年の養育の恩にしっかり報いろよとか? 契約上の親子関係はなくなったが、これからもずっと家族だとか? そんなところだったか。よく覚えてないな」
止湮の記憶力では、本当によく覚えていないようなことがあるとは、とても思えない。
意図的に忘れたのか、それとも思い出したくないのか。
「その後はさっき話した通りだ。早朝に蔚柳・ランニオンが死んで、僕は『あの契約』を相続した。夜が明けて、僕は両親に火の教会に連れて行かれて、また守秘と相続者確保の契約を結ばせられた。成人した当日には、大体こんなことがあったんだ」
無力な笑みを際允に向ける。
「君が六年前に言った通りだ。やっぱり成年なんて、期待するようなことでも祝うようなことでもなかった」
——「それはそうとして、十八歳の誕生日だぞ? 明日、未成年だった君は成人に変わるんだぞ。こんなに大きな変化、記念する価値十分あるだろ」
前世で自分が成人する前後の二日間、止湮が言葉の端々に滲ませていた、自分の成年への無限の期待と憧れを、際允は思い出した。
彼の誕生日を祝うのがあんなに好きだった止湮が、自分の誕生日にはこんなお祝いを受けたのか?
際允は胸が締め付けられるような痛みを感じる。だが他人をどう慰めていいのかわからず、ただ苦笑いを浮かべている止湮の顔を静かに見つめることしかできない。
「本当はこんな個人的なことを他人に話したくなかったんだけど、君の前世の個人的なことを知ってしまった以上、教えないのは不公平な気がしてさ」
止湮は苦笑しながら心の内を明かした。
「僕は元々、君が『あの契約』を継承したくないとか、そういう理由で自殺を選んだんじゃないかと疑っていたんだ。だから、どうしても君が前世でなぜ自殺したのかを先に聞きたかった。君の質問に答える前に聞かないと、君が自分の自殺のせいでこうなったと思わせて、不必要な罪悪感を感じさせるかもしれないと心配していたからさ」
――殺されて死んだのがよかった。
その思いしかなかった。自分の考えを口に出せば、止湮がまた複雑な表情をするだろうと思い、際允はただ心の中で密かに思うようにした。
「そう疑ったのは、今日まで僕もたまに自殺を考えたことがあったからだ」
淡々とした口調で話した、止湮のその全く穏やかではない言葉に、際允はまるで心臓が強く掴まれたような苦痛を感じる。
が、止湮はすぐに話を続ける。
「でも相続者がいない状態で死んだら、『あの契約』は直接解除されてしまう。そうなれば最悪の場合、火の国が他国に侵略される可能性すらある。だからしなかったんだ」
賢く理性的な止湮だからこそ、自分が自殺したらどうなるかを誰よりも理解しており、できなかったのだ。
他の人なら無理だったかもしれない。少なくとも際允の身に起こったら、世間のことなど知ったことかと自殺を選ぶ可能性は十分にあると、彼は思った。
現時点、止湮に自殺の意思がないことを知って、少し安心した。それでも、止湮が自殺を選ばなかった理由には、少し鬱屈したものを感じる。
「そこまで他人のことを考えて生きる必要がある?」
「他人のためじゃないさ」
止湮は淡々と言った。
「それは間違ったことだと知っているから、できない。ただそれだけだ」
あまりにも律義な人だ。
だが今の止湮には、相続者である自分がいる。その場合、自殺したら、火の契約は相続者が未成年のため無効状態にはなるが、相続者不在の状況よりは対処しやすく、結果もそこまで深刻ではないはずだ。
「今の止湮には相続者ができたけど、まだ、自殺したいと思ってるなら……」
自分の尋ねる声が震えているのを聞こえる。どうやら際允は心の底で、止湮から否定的な返事を聞くのを恐れているようだ。
「いや」
彼の緊張を解くかのように、止湮は彼に温かい笑みを向け、否定した。
「僕には今、新しい生きる目標ができたから」
「目標?」
止湮の茶色の瞳は彼を真っ直ぐに見つめ、一瞬の迷いもなく話す。
「際允。僕は、君の前世の死の真相を突き止めたい」
「……」
際允は言葉を失い、ただ呆気にとられて見返すしかない。
――こんなに良い人と巡り合えたとは。自分は前世で……いや前々世でどれほどの徳を積んだんだ?
止湮が優しくて実直な善人であることを最近から知っていたが、これほど正義感が強いとは思ってはいなかった。
もしかすると止湮も、人生が両親に勝手に決められて大きく変えられた影響で、悪を憎む気持ちが強くなったのかもしれない、と際允が推測した。
「君が言ってたように、火の教会は——君が孤児だから、他殺の事実を隠蔽しても、殺人犯を庇っても構わないと考えているんだろう。誰も君の死を気にしないし、追及しないかもしれないが――、」
「――俺はする」
これ以上ないほど優しく、しかし無比の決意を込めて、止湮が誓った。




