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第十九話 不死兵として、ただの人間として


「ルネ! ルネ! ねぇ、起きて! しっかりして!」

「おい、あんたは不死兵(、、、)なんだろう! 何で……何で、傷が塞がらないんだ!」


 耳元でガンガンと響く声にルネが薄っすらと目を開けると、ノヴァとクラウィスの顔が見えた。

 その上にマチスやアサギリ、マルコの顔もある。全員が泣きそうな顔でルネを見ていた。


(何でこんなに泣きそうな顔……)


 そう思ったら、ふと自分の腹部が、やたらと熱くて痛んだ。手を当てるとべったりと血がついてくる。

 どうやら自分の腹には穴が開いているらしい。

 そう言えばアルバートに撃たれたなと理解して、ルネは小さく笑った。


「どうして笑ってるの! 笑いごとじゃないですよ!」

「そうだ! あんたは死なないはず(、、、、、、)だろう、ルネ・アインス!」


 泣きながら怒るクラウィスに続いて、ノヴァもそう言った。

 不死兵。それが自分の存在であり、自分の価値。

 けれど今のルネには自分の体が再生している感覚を感じなかった。


 再生数の限界を迎えたのだ。

 不死兵としての力をすべて使い来って、ルネはただの人間の体になった。

 つまりは、そういう事だ。


「生き物なのでね。そこはまぁ、無限じゃない……んだと思う」

「何で。何で、黙っていたの!? 黙って、一人で向かったの!?」


 ぽたぽたとクラウィスの瞳から落ちた涙が、ルネの頬に当たる。

 ああ、温かい。なんて温かくて心地良いんだろう。

 血と同じくらい熱を持っているのに、ルネにはこちらの方がずっと心地よく感じられた。


「成功率と言うか……まぁ、これも、なりゆき……かなぁ。ホラ、結局、解剖されなかったし」

「解剖なんてするわけないでしょう!」

「するんだよ。……少なくとも、きみ達以外はね」


 自分の弟妹達と同い年の少女に向かってルネは笑う。

 彼らは不死兵を不死兵として解剖しなかった。それどころか、手当てをしてくれて、美味しい食事を与えてくれて、人として扱ってくれたのだ。

 

「人としてまともに接してもらったのは、ずいぶん久しぶりだった。それが敵だったなんて、ちょっと笑っちゃうけどね」

「…………」

「……不死兵も、死ぬのか」

「頭を吹っ飛ばしたら、いつも死んでるでしょ」


 ハハ、とジョークめかして笑ってみせるとノヴァが苦い顔になる。

 堪えるように、彼はいう。


「どうして……あんたは不死兵になんてなったんだ」

「んー? うーん、そうだね……まぁ、俗っぽい話だけど、お金だね。うち、貧しかったからさぁ」


 目の前がどんどん白くなっていく。けれども気分は妙に良くて、ルネは明るい声でそう答えた。

 ただの人間に戻った事と、彼らが自分を心配してくれた事が本当に――――本当に嬉しかったからだ。そう思えるようになったからだ。


(もう一度、人として扱われるなんて思わなかった)


 それはとても新鮮で、不思議な事だ。

 数えればたった十日ほどの時間。だけど短くて、眩い時間だった。

 その十日が不死兵としてのルネを変えてくれた。人に引き戻してくれたのだ。


 何て自分は幸運なのだろうか。

 気が付けば、フフ、と笑っていた。


「ありがとう。不死兵になってから、初めて……穏やかに過ごせました」

「ルネ……」

「……そうだ。あの、さっき、マチスさん達がいたところに、サーヴィって不死兵が、いるんですけど。出来れば……保護してやってくれると……嬉しい」

「ああ。ああ、分かった。約束する!」


 ルネの頼みをノヴァは大きく頷いて請け負ってくれた。良かった、それならば安心だ。

 ほっと息を吐くと、いよいよ目の前が見えなくなってきた。


「……ああ、でも。……でも、ノヴァさんの言った未来は……少し興味が、あったかなぁ……」


 酷く眠い。もうノヴァの顔も、クラウィスの顔も見えなくなってきている。

 ふと、頭の中に『星の小箱』のメロディーが流れ出した。母の歌声でだ。

 自然とルネの口は動き出す。


「……星屑の小箱へ、星を詰めよう……眠れない夜に、きみの明かりになるように……」


 掠れる声で歌いながら。

 やがてルネの意識は途切れた。

本日、十九時にもう一話投稿します。

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