第十八話 再生限界
森の中をルネ達はただひたすら走る。
銃弾から庇い続けて、ルネの体はボロボロだった。
けれど足を動かし、マチス達を歩かせる。森の中へ入り、少しでも野営地に近づけく事が出来れば、銃撃音が届いてノヴァ達が救援に来るだろう。
だからそれまではとルネは歯を食いしばってふらつく足を動かす。
「ルネ、もう良い……アサギリとマルコも……」
「良いも悪いも。マチスさん、それで私を怒ったでしょうに。それに、ほら」
肩で息をしながら苦し気に言うマチスに、ルネは笑ってそう答える。
普段明るいアサギリも、憎まれ口を叩くマルコも今は黙ったままだ。
身近にある死を感じているのだろう。
「きみ達が死んだら、クラウィスが大泣きするのでね」
いつかノヴァに言われた台詞をマチスに言う。
すると彼は目を少し開いてルネの方を見た。ルネが笑って見せるとマチスは目を伏せる。
「……そうか」
「そうですよ。ええ。……私はまだ実感が湧かないですけど。そちらは山ほどあるでしょう?」
ルネの言葉に、今度はアサギリが小さく笑う。マルコもだ。
「そうだねぇー。クラウィスちゃん、怪我して戻ると怒りながら泣いちゃうからさぁー」
「ええ。……マチスさんは大目玉ですね」
「はは……そいつは、怖ぇなぁ。……怒ると俺より怖ぇんだよな、お嬢……」
普段通りのやり取りに、マチスは少し元気を取り戻したようだ。
良い事だ。彼らはそうでないととルネは思う。
そして何とか無事に返してやりたいとも。
ぼたぼたと、ルネの背中や足から流れた血が地面を濡らす。
以前であれば、銃弾一発分程度の穴なら直ぐに再生していた。しかし今はじわじわと再生するくらいだ。
傷の再生が明らかに遅くなっている。その事にルネは内心冷や汗をかいていた。
頭の中に『再生限界』という言葉が浮かぶ。
(どこまでもつか……)
せめてノヴァ達に会わせるまでは。
それまではどうかもってくれと、見つからないでくれと、ルネは祈りながら足を前へと進める。
「いたぞ! あそこだ!」
しかし、その願いは空しく、スピリトーソの軍人の声が聞こる。
くそ、とルネは舌打ちした。
「出来るだけ体を低く。大丈夫、向こうも弾を無駄にはしたくないはずです」
ルネはそう三人に言う。
自分の頭部は、軍服のコートで何とかカバーできている。
体の方の再生力は落ちているが、それでもまだ失ったわけじゃない。
まだ大丈夫だ。自分にもそう言い聞かせ、ルネは再び始まった銃撃から三人を庇って走る。
(だけど目の前が)
痛みか、傷か分からないが、目の前に薄っすらと霞がかかるようになった。血を多く失ったからかもしれない。
こんな事はルネは初めてだった。まるで本当に死の間際にいるような感覚だ。
(……ああ、まるで、じゃなくて。本当に間際にいるのか、私は)
理解して、ルネは口の端を上げた。
怖くないわけではない。けれど、ようやく。
ようやく人間に戻れた気がして、少しだけ嬉しかったのだ。
「ルネ・アインスッ!!!!!」
その背中に怒鳴り声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。
目だけで見れば、憤怒の形相を浮かべた指揮官のアルバートが、散弾銃を構えているところだった。
「まず」
あれは無理だ。貫通する。
そう判断したルネは、マチス達の背を押して、踵を返す。
そして両手を大きく広げた。
「ルネ!?」
「アサギリさん、マルコくん、走って!」
でも、とマルコが言いかけた時、
「総員、撃て!」
その場にノヴァの声が響いた。間に合った、来てくれたのだ。
しかし――――。
同時に、アルバートが散弾銃を撃ち。
「ルネ!?」
放ったスラッグ弾がルネの腹部を貫通した。




