何故こんな事をしたんです?
嫌な予感というものは、往々にしてよく当たるもので。
「宿……予約したんですか」
何考えてんのこの子……。
駅から通り沿いにどんどん歩いて行く葉子に観光の気配が見られなくて聞いてみたところ、返って来た言葉がそんな話だった。
この通りをしばらく歩いた先の山中に幾つか宿のぱらぱらと並んでる一帯があり、その一つを家族で懇意にしてるらしい。そこに向かって僕達は歩いていたんだ。
女の子っぽい服装というリクエストは、そのためだったわけ。
「まあ、予約してしまったなら仕方ありません。あちらにも迷惑となってしまいますし。でも、感心しませんね」
「……ごめん」
わからないのは、どうして僕と泊まりに行こうだなんて思ったのかという事だ。まさかねえ、好いてなんて……。理由が無い。原因が無い。そう思うきっかけが彼女には無いはずだ。
ファリアやキリーさんは、それがあるにはあるんだ。ファリアは一応僕が助けたし、キリーさんは魔穴で魂を解放するところを見た。まあそれだって、僕には好いてしまう程の理由だとは思えないんだけども。
『お主は頑なだのう。受け入れて、享受しておれば良いものを』
助けられたから助けただけだもの。出来る事をやっただけなんだから、そこまで大層な事じゃないんだよ。
『たわけめ! 何だその考え方は! ……まあ、今は良い。今は葉子の事を考えてやるのだ。我らの事はひとまず置いておこう』
何か、怒られた。変な事言った? おっと、後だ後。今は葉子の事。
「何故こんな事をしたんです? 理由がありますよね?」
「……うん、ある。二人きりになりたかった」
「……はい?」
「……他に誰もいないところで、聞いて欲しい事と見て欲しい物がある」
もしかして、ちゃんとした理由がある?
……あ、だから前に会った時は僕の部屋に行きたがったの?
それじゃ何、あの時連れて行ってればわざわざ宿になんて……いやいや、人に見られたら厄介だ。それは駄目。
うん、そうだよ。僕が何もしなければ良いんだ。女の子のふりをして、葉子の友達として旅行に来た。それで良いんだよね。
幸いにも僕は普通にしていれば女の子にしか見えない。大丈夫大丈夫。
「わかりました。そういう事なら付き合いましょう。でも、別に宿じゃなくても良かったのでは?」
「……あの宿に、最近行ってなくて。久しぶりに行きたかったから」
単純に行きたくはあったのね。でも相手は選んで欲しかったな……。
話したらすっきりしたのか、彼女の歩くスピードが落ち着いた。周りを見る余裕も生まれて、ようやく観光らしくなる。
山間を走るこの通りは、左右を見上げれば深い緑の山々が望める。立ち並ぶのは一般的な商店や何かの社屋などで、時折名物らしき物のお店や旅館などの看板が見えた。
僕達のように歩いている観光客もちらほらいるけど、多くはバスを使って移動してるみたいだね。
「……滝とかあるから、見に行くんだと思う」
ちょっと見てみたいかも。
あちこち覗いたり眺めたりしながら楽しく満喫する事しばらく。何か、リーフが頻りに写真撮ってるんだけど。
「……可愛いかったから。皆に自慢する」
「やめて!?」
嫌だって断られた、酷い。
と言うか、酷い誤解生みそうじゃない? ちゃんと変な事してないって言ってよ?
そういうところ、抜けてそうだからな……。
「……swivelに入れて、フレアとヒルダにも見せたい」
「そう言えば出来るんですよね」
じゃあ僕も、葉子を撮って見せてあげよっと。彼女は無表情で変化に乏しいけど、角度を変えてみると案外違って見えるから色々工夫を凝らした。
そんな風に、撮って撮られて二人で撮ってとしながら、結局楽しく歩いて行く。
そして目的の宿に到着した。
大きさは程々。年期の窺える風情ある佇まいで、古式ゆかしいという言葉のよく似合う建築だ。
ところで、さすがに疲れた……。
あちらとは違ってこちらの僕は貧弱なままだからさ。魔力操作だって無いし。この距離を歩き通しはきっつかったね。
玄関を入ると年配の男性が迎えてくれる。
「七海様でいらっしゃいますね。ああ、大きくなられましたな」
そう言った彼はとても穏やかで、柔らかな笑顔を見せた。すっごくほっとする。
「……久しぶり。一泊の間、よろしく」
「はい、ごゆるりとお寛ぎ下さい。すぐにお部屋までご案内致します」
ゆったり頭を下げると彼は鍵を一つ取り、部屋まで先導してくれた。
僕達が泊まるのは三階らしい。見たところ部屋数はあまり多くない。一部屋が広そうな作りだ。廊下の窓からは山の景色が見えて、青々とした緑が目に優しい。
お客はしっかり入ってるようで、一組のカップルとすれ違った。こら、こっちじゃなくて彼女さんを見なさいよ。ああ、案の定つねられてる。
葉子は本当に綺麗だからね。見惚れるのも仕方なくはあるんだけどさ。
「こちらになります。さあ、どうぞ」
通された部屋は純和風。入口で履き物を脱いで入る形式だ。宿の中で履くように用意されているのも、サンダルではなく下駄。良いね。それだけでテンション上がる。
戸を一枚開けて入る居室はやっぱり広々としていた。机と座椅子の向こうに大きな窓があり、そこからの町と山の眺望は思わず溜め息が漏れる程。小走りに近寄って窓に触れ、眺めた。
「お連れの方にも、気に入っていただけたようですな」
「はい、とっても!」
と返事をするのに振り返ったら、思わぬ物が見えて二度見する。夕食とか諸々の話を二人がしてるんだけど、つい見えた物の方へ行ってしまった。
この部屋……露天風呂付きなの? 思わず飛び出すように足を運んだ。
外に少しせり出す形の浴室の壁は腰の高さまで。屋根は特別に設えたものが全体の半分までをカバー。広めの浴槽は完全に外側だ。湯は蛇口をひねって入れる形なので今は空っぽ。宿自体が高いところにあるおかげで外からは当然覗けない。三階が最上階だから見上げれば空が広がっている。
これはやばい。部屋でリラックスしたまま入れちゃうじゃん。後でゆっくり浸からせてもらお。
戻ると男性の姿はまだあった。
「あ、済みません。はしゃいでしまって……」
「いえいえ、喜んでいただけてこちらも光栄です」
しかし、と男性は表情を曇らせる。
「本当によろしいのですか、七海様?」
「……大丈夫」
何だろ? 何かあったの?
「昨日、この付近で不審者を見たという話がございまして」
「不審者ですか? それで何か、事件でも?」
「いえ、今のところは何もございません」
昨日かあ。タイミング悪いね。だからこうして確認してるんだね。でもちょっと大袈裟じゃない? 不審者を見たってだけでわざわざねえ。余程不審だったとか? どんな不審者よ。
葉子は確かに大丈夫だろうなあ。本人が滅茶苦茶強いんだもの。情けない話だけど、何かあっても守ってもらえると思う。
まあそんな時なので、お代は幾らか割り引いてくれるそうだ。宿としても災難だ。
「早く詳細がわかると良いですね」
「はい。警察も捜索して下さってますし、すぐにでも明らかとなるでしょう。わたくしどもも念のため、警戒の人員を増やしております。皆様の安全はお約束致しますよ」
では、と男性は立ち上がり、部屋を後にした。あら、いつの間にかお茶とお茶請けが。
座椅子に腰を下ろして、早速いただく。お饅頭美味しい。
「……見つかってないんだ」
葉子はお茶を手に、ぽつりと呟く。表情の無い彼女の感情を読み取る事は難しい。今もほとんど何も窺えない。
ただ、何となくだけど。苛立ってるように見えた。
「気になります?」
「……うん。でも、駆はわたしが守る」
「ふふ、ありがとうございます。でも、何かあると決まったわけじゃないですから。不審者だなんて言っても、ちょっとそういう風に見えちゃっただけですよ」
でも、頼もしくは思う。こちらの僕なんて何にも出来ない一般人だからね。
本当は僕も、守るとは言わなくとも肩を並べられたら良かったんだけど。
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名前 ラン
種族 ハーフエルフ
性別 男性
階級 四
筋力 六
敏捷 一六
魔力 二〇
魔導器 強化属性剣
拡張機能 変幻自在 小領域作成
魔術 魔力操作 魔力感覚
技術 看破 識別
軽業 跳躍
恩寵 旧神ナルラファリア
ID 〇二六〇〇〇〇〇〇一
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