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決意


 巨大な蛇に睨まれたような寒気がした。


 この感覚はよく覚えている。


 魔法でもない、神からの恩恵でもない、ただの予感だ。


 しかしこの感覚を信じていいという確信が持てたのは過去の経験ゆえだろう。


 すぐに動かなければならないと感覚が告げる。


 旅立つのは来週の予定だったがこれはもうここを発たなければいけない。


 準備はまだできていないがこの警笛を無視しては大変なことになるだろう。


 読んでいた「ゲイルの冒険」という本を閉じ、急いで父の執務室へ向かう。


 今なら執務室で父が冒険者と依頼の話をしているはずだ。



「あら? ニコラス様、お出かけですか?」



 清掃の行き届いた廊下を速足で歩いていると、メイドのルーサが箒を片手に声を掛けてきた。



「ルーサ、父に用がある。執務室にいるよね?」



 ルーサは僕と足並みをそろえ、隣につきながら答える。



「ユルグ様なら執務室で今日到着した冒険者のベック様とお話しをしていますよ。お暇になるのは夕飯時だと思います」


「そうか、僕はその二人に用があるから執務室に突撃する」



 僕がそう言うと、ルーサは微笑みを浮かべる。



「来週ですよね、ニコラス様が旅に出るの。そんなに楽しみですか?」



 慈母のように笑うルーサに少し落胆する。


 確かに周りから見たらやんちゃな子供の楽しみに見えるかもしれないが、こちらはこの旅に命がかかっているといってもいい。


 そんな気持ちが出てしまったのか



「いや、今夜にでも出る。ルーサ、旅の準備をお願い。荷物は最低限でいいよ」



 突っ返すようにそう言ってしまった。



「え? 今日ですか? どういうことですか? 準備はある程度はできていますが食料品などが……それにフィリが『お別れ会するんだー!』って」


「それどころじゃなくなったんだ」



 ルーサの質問を無理やり切る。階段を降りた先のリビングから執務室へ。



「それどころって、フィリはニコラス様の旅立ちが近づいてここ一週間ずっと泣いてたんですよ。今日旅立つってフィリが聞いたらせっかく元気出たのに、また大泣きしてしまいますよ」



 僕付のメイドのフィリがここのところ目を腫らしていたのはそういう理由だったのか。フィリはいつも「吟遊詩人さんの歌が響きました」とか「孤児院の子が種まきしてた」とかとよくわからないことですぐに泣くから、また変なことで泣いたのだろうと思い気が付かなかった。


 執務室の扉の前に来た。


 中から楽しそうな声が聞こえる。


 父の陽気な声を聞くなんて珍しいなと思い部屋に入ることを躊躇するが、仕方がない。


 寒気が止まらないのだ。


 必死さが伝わるように強く扉を叩く。


 ルーサがいぶかしげな眼を向けているが、返事など待たず扉を開ける。


 礼儀なんて知るものか、今日旅立たなければいけない理由がそもそもの旅を決意した理由でもあるのだ。


 執務室では応接室で二人の男が目を丸くしてこちらを見ていた。


 片方は父、もう片方は冒険者だろう。


 おっと、状況を観察する時間をとると余裕があるとみなされてしまうかもしれない。


 父の口が開く前に僕は宣言をする。



「アリーナ姉さんが来る! 今すぐにでも出発する!」



 したい、ではだめだ。すると断言してやる。


 僕は今日、旅立たなければならないのだ。



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