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ブリーフィング 後

「翼ができると言ったからです」

「城戸が?」

「どうして城戸君ができるって言ったらできるわけ?」


 小笠原先輩と石見先輩が尋ねる。


「まずこのゾーンプレスは、基本的に敵陣での展開が基本となるんですが、普通のゾーンプレスとは違って、秋田先輩と菊池の二人を後ろに置いていくことになります。よってプレスの参加人数は俺と二人を除いた七人でのプレスです」

「そう考えると少ないな」

「そこで翼の出番です。翼には、敵にボールを奪われた時の対処と、味方のパスコースが無くなった時のフォローをしてもらいます」

「そんなん全員がやらないとゾーンプレスにならないじゃん」

「それはそうなんですが、全員がやっていることを、プレスの後方でやってもらいます。ゾーンプレスの展開中に翼よりも後ろにボールが行ったら、全部翼の責任になります」

「そ、それは責任が重すぎるんじゃ……」

「それも込みで、翼はできると言ったんです」


 桜井は至って真面目な表情を崩さない。

 たかが高校の部活。そう思われても仕方ないかもしれないが、やるからには勝ちたい。

 中学の沈んだ三年間と比べれば、この程度の役目をこなせないはずがない。こなせなければこの学校で全国を目指すなんて無理だ。だからやらなければならない。

 全員の視線が俺に集まった気もするが、俺は桜井だけを見て、その話を聞くことに意識を集中させた。


「セカンドボールの収集、ルーズボールのキープ。翼にかかる負担は大きいかもしれません。ですが、翼には次の試合では足りない一人の分も動いてもらうことになります」


 そんな桜井の説明を聞いている中、西岡が小声で話しかけてきた。


「城戸。そんなことできるのか?」


 少し心配した様子の西岡。

 西岡は優しいやつだから。


「大丈夫だ。自分でやると言った以上、やり遂げてみせるさ。それに中学の時と違って、仲間のためっていうのも悪くないだろ?」

「そうかもしれないが……」

「大丈夫さ。地区予選の初戦くらいのレベルなら、なんとかなるさ」


 俺がニカッと笑うと、西岡は小さく何度か頷いた。納得はしていないようだが、理解はしてくれたようだった。


「そしてこのプレスを始めるのは、後半の残り十五分からです。最初から見せていたら奇襲の意味がないので、最後の最後の切り札としておきます。ただディフェンスは常にゾーンでいくので、そのあたりは理解してください」

「ちょっといいか?」


 秋田先輩が手を挙げた。


「僕はマンツーマンの守りと、そのゾーンディフェンスっていうやつの違いがわからないんだけど、何が違うんだ? マンツーマンは自分がマークしてる選手の辺りを守るっていうのはわかるんだけどさ、ゾーンってどこを守るわけ?」

「ゾーンディフェンスは、守備の時に、自分が与えられた区域を守ることを言います。もしもその区域に一人がドリブルで侵入してきたとした場合、その区域を守っている選手が対応することになります」

「じゃあ抜かれた場合は? 知らんぷりして次の区域に侵入するまで放置ってこと?」

「まぁ形式上だとそういうことになるんですが、基本的には近い区域の選手がカバーに入って、そのカバーに入った選手の区域を抜かれた選手がカバーする、といった形になります」

「へー。じゃあ逆サイドとかなら放置してもいいってわけ?」

「そのへんは臨機応変です。もしもセンターを守ってる選手が抜かれた場合のカバーに入る、もしくはセンターの選手が守っている区域を離れてカバーに行ってしまった場合、カバーに入る前にその空いた区域にパスを入れてしまったらあっという間に点を取られてしまいます。そのため、その区域を守るために反対側のサイドの選手がセンターに少しだけカバーに入る、とかもしないといけないわけです」

「はぁ……。なんか難しいな」

「大丈夫ですよ。俺が菊池と先輩に教えた守り方は、ゾーンディフェンスのやり方なので、難しく考えずに動いてもらって大丈夫です」


 まさかそんなことろから土台を作っていたとは。

 それも秋田先輩が同じようなことを思ったのか、『オーケーだ』と片手を上げた。それを見た桜井は全員に向き直って補足する。


「勿論というわけではないですが、これも翼には動き回ってもらうことになります」

「また城戸くん?」

「はい。今度はフォアチェックです。いくらゾーンディフェンスとは言っても、ロングボールをポンポンと中に入れられてはたまったもんじゃありません。もちろん前線の小笠原先輩、似鳥先輩、篤志にはプレスはかけてもらいますが、それによって空く中盤のチェックとカバーを翼にしてもらいます」

「さっきのもそうだけど、このゾーンのフォローをするのが城戸くんの仕事ってこと?」

「そうです。ですが、これにはもう一つメリットがあるんです」

「それは?」

「それは攻めに転じやすくなるんです。翼は一応ストッパーのポジションにいるわけですが、ゾーンディフェンスで中盤にパサーがいると、前線で待っているツートップにうまいことボールが入っていきます」


 相変わらずいろいろ考える奴だ。

 あらかじめ概要を聞かされていた俺ですらすごいと思うんだから、他の面子はそれ以上だろう。


「ボランチとは違うのか?」

「まぁ似たようなものです。でも基本は守備です。人数が少ないせいもありますが、ボランチとセンターバックの仕事をしてもらいます。そのポジションでの二人分ということです」

「はぁ……」

「とまぁこんな感じです。あとは言っても理解しにくいと思うので、明日からの練習で補いましょう」


 そう言って桜井はこの場を締めた。

 そして田辺が俺の元へ近づいて一言。


「よくわかんないけど、翼が大変だってことはわかった。ま、頑張れよ!」


 さすが田辺。今の話の半分も理解できてなかったんだろうな。

 その緊張感の無さは少し見習いたいもんだ。

※フォアチェック

早めにボールを持っている選手に対して、ボールを奪いに行く動作を仕掛けること。

これによってボールを奪える可能性がぐんと上がる。


※ストッパー

ダイヤモンド型の四人DFにしたときの、真ん中の前にいる選手のこと。

一番最初にアタックをかけるのがストッパーの役目。敵の攻めの勢いを止めるのが役目。

下痢の薬とは違います。

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