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今のチーム

「悪いな」


 そう言った桜井は、椅子に腰を下ろした。それを見て俺も、入り口から一番近いところにある椅子に座った。

 

「なんで俺だけ? 田辺とか西岡とかも残ってもらえばいいじゃん。ってゆーかみんないるところで……話すような内容じゃないってことか?」

「まぁ、そんなところかな」


 ハハ、と桜井は小さく笑った。


「きっと翼はこのチームのキーマンになると思うんだ」

「キーマン? 俺が?」


 『桜井だろ』という言葉を飲み込んだ。内心ちょっと嬉しかったのかもしれない。


「順番に話していいか?」

「……おう」

「まず、翼から見てうちのチームはどう思う?」

「人数が足りてない」

「それもそうだけど、人数が足りていると仮定しての話で進めてくれ」

「んー……」


 うちのチーム? 問題を挙げろってことなのか? それとも長所と短所か?

 桜井はじっと俺を見ている。俺の真面目な答えを待っているようだ。ならゆっくり考えてみよう。

 うちのチームは二年生五人と一年生五人の十人の小さいどころか、数すら足りていない部活だ。でも今はそれを考えるなってことだから、これは置いておこう。

 まずは長所。

 桜井もそうだが、俺とか田辺、西岡といった出身中学が強豪校だったという強みがある。しかし高校レベルはまた違うレベルになるというのが先輩たちの言葉で、中学と高校を一緒にしてはいけない。だがその強豪校で経験してきたことは実績になっていく。そういう意味では長所だろう。

 そして似鳥先輩の飛び出しはとても上手い。それに合わせて出される小笠原先輩のパスもバッチリだった。きっと一年間練習をしてきたんだろう。

 白岩先輩はガタイが良いせいかやはりDFとしては強い。パスとかドリブルはとんちんかんな部分が目立つが、当たりとボール奪い方は強い。石見先輩は足が速い。スタミナはそこそこだが、スピードはなかなかだと思う。秋田先輩は……まぁ秋田先輩だ。


「どうだ? なんか考えはまとまったか?」

「うーん。あー、攻めは強いかもしれないけど、守りが弱いかな」


 そう。きっと全員が攻めるのが好きなんだと思う。似鳥先輩然り(しかり)田辺然り小笠原先輩も攻めてる時が好きだと言っていた。そういう意味でもトータル的な意味でも、攻めはいいが守りが薄いイメージがある。


「だよな。俺も思ってた。だからこそ、翼にはキーマンとなってほしいんだ」

「だからなんで俺なんだよ」

「翼にはトップ下でもボランチでもなく、もう一つ下のリベロをやってもらいたいんだ」

「リベロ? だってCBなんて白岩先輩だったり西岡だったりいるじゃねぇか」

「俺の考えてるフォーメーションだと、西岡はSBをしてもらいたいんだ」


 西岡がSB? ……っていうことは、オーバーラップ要因で使いたいってことだろ。だとすると、DFは四人だろう。それで俺がリベロっていうことは、ダイヤモンド型になり、そのセンターの前が俺で後ろが白岩先輩だろう。そして右か左に西岡だろう。じゃあ反対側は……


「右SBは部長だ」

「石見先輩?」

「そうだ。ウチのチームの長友になってもらいたいんだ」

「長友……」


 めっちゃ走れってことか。厳しいやつだな。

 俺は小さく笑い、他のポジションも聞きたくなってきた。


「他は? ってゆーか全部教えろ」


 そう言うと、桜井は少し嬉しそうな顔をして、戦術盤を取り出し、マグネットとちょこちょこと動かし始めた。


「えっとさ、こういう風に考えてるんだ」


 桜井が見せてくれた戦術盤は、「4-3-2」の形だった。DFは予想通りダイヤモンド型の四人。MFは山なりな横一列。FWは横フラット。


「って一人足りないじゃねぇか」

「それは俺がキーパーにいるからだ」

「キーパーってお前……」

「仕方ないだろう。他にキーパーを託せる人間がいないんだ。俺がやるしかないさ」

「そうかもしれないけど、お前ほどのテクニックがあるならフィールドプレイヤーとして出てた方がいいだろ。背の高い人間に低いところのものを取らせてるようなもんだろ」

「でもほかにキーパーができる人間がいるか?」

「…………」


 そう言われるとなんとも言い返せない。俺はキーパーなんてやったことないから何とも……。


「じゃあもしもキーパーがいたとしたら、お前はどこに入るんだよ」

「ボランチとトップ下の間だな。トップ下には小笠原先輩を入れるんだが、翼と小笠原先輩を繋ぐ役割と、SMFを秋田先輩と菊池を入れる予定なんだ。だからそのカバーリングをするためのそのポジションだ。そしてその俺のカバーを翼にしてもらいたいんだ」

「カバーのカバーか」


 不思議な響きだ。

 でも桜井の考えを聞いていると、何とかなりそうな気がしてならない。

 キャプテンをやると言った以上、勝つことを考えているっていうのは心強い。そして頼もしい。同じ一年でここまで考えるっていうのは、簡単なことじゃない。


「ここまで考えても、やっぱりキーパーは必要だよな」

「ん。だがそればかりはどうしようもない。キーパーじゃなくても、あと一人は欲しいもんだ」

「そうだよなぁ……」

「でさ、俺が考えてる戦術なんだけどさ」


 桜井はマグネットを動かしながら嬉々として説明を始めた。

 

※リベロ

ボランチというよりも、攻め寄りなDFといった感じのポジション。

頻繁にオーバーラップをして攻めに参加する。

ガンダムで言うなら、バーチェみたいな後方支援が得意そうなやつ。


※7話のあとがきで「フォーメーション」のことを説明していたのですが、盛大に間違っていたので修正しました。寝ぼけ眼で書くあとがきはキケン。気を付けろ!

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