第129話(最終話)
イザナミ様は、悪戯っぽく目を細め、当時の天照大神様のセリフをあえて言葉に出してなぞりました。
『テセウスとやら、妾は不埒な考えなど気にはせぬ。その不埒な情熱を妾に注ぎ込める力があるのなら、妾への冒涜、蹂躙は喜んで受け入れようぞ』
その言葉がリビングに響いた瞬間、天照大神様は顔を一気に真っ赤に染め上げました。
「あっ! あれはっ……奴に格の違いを見せつけて、戦意を喪失させようと言ったまでのことじゃ! 決して本気で申したわけでは……!」
「だが姉貴よ。奴はその言葉を信じて、そのために日本に来たんだぜ? くっくっく」
素戔嗚尊様が、腕を組んで肩を揺らして笑います。
「まあ、この前も姉貴の日輪の質量はまだ奴には耐えられないことが分かっただろうし、どうにかなるとも思ってないけどな。
……それにしても、あいつも罪な男だな。姉貴をここまでソワソワさせるとはよ」
弟からの追い打ちに、天照大神様は「うるさい、うるさい! 素戔は黙っておれ!」と頬を膨らませ、再び窓の外の海岸線へと視線を向けるのでした。
ピンポーン。
約束の三日が経ち、鎌倉の静かな住宅街に軽やかなチャイムの音が響きました。現代のテセウスが、ついに七里ヶ浜の家へと到着したのです。
その音を聞くや否や、天照大神様は「来たっ!」とばかりにリビングを飛び出し、脱兎の如き勢いで玄関へと迎えに出ました。
「きっ、貴様ーーーっ!!
妾をこれほどまで待たせるとは、良い度胸じゃ!
そこに直れ!!」
再会の感動も束の間、天照大神様は白いワンピースをなびかせながら、挨拶代わりと言わんばかりにテセウスへ飛びかかりました。
そして、素戔嗚尊様に戯れる時と同じようにコブラツイストをテセウスにガッチリと極めたのです。
「ぐ、おおぉぉーーー! ぎ、ギブ! ギブっす! 天照様ぁぁーー!!」
「あーっ! 姉貴! まだ無理だって! 奴が死んじまう!」
素戔嗚尊様が慌てて止めに入りますが時すでに遅し。
テセウスが太陽の質量を宿した最高神の洗礼に抗えるはずもなく、白目を剥いて口から泡を吹き、そのままカクンと意識を失ってしまいました。
「あーあ……案の定、泡吹いてやがる。……くっく、だが、なんだ。
気絶してるくせに、嬉しそうな顔をしてやがるな、この男は」
素戔嗚尊様は呆れ半分、感心半分といった様子で、ぐったりしたテセウス様を運び、リビングの大きなソファへと寝かせました。
「ふん! 相変わらず軟弱な男じゃのう! 妾はこれでも、手加減したのじゃぞ?」
天照大神様は頬を膨らませてフンと鼻を鳴らしましたが、喜びを隠しきれない様子です。
「いや、姉貴。姉貴のコブラツイストを正面から耐えられる男なんざ世界中探してもいねーよ。
……頼むから、『また日輪の核融合を発散したい』とか言い出さないでくれよな?」
素戔嗚尊様がやれやれと頭を抱える中、荒っぽい歓迎にノックアウトされた英雄は、幸せな夢の中でした。
「むううっ! まだ寝ておるのか、この男は?! 早くどうなったか教えぬかーー!」
天照大神様は、ソファで気絶しているテセウスの襟首をガシッと掴み上げると、「もう待ち切れん!」とばかりに前後に激しく揺さぶりました。
「やめろーー!! 姉貴がさっき締め上げたからこうなってんだろうが!」
素戔嗚尊様が慌てて止めに入りますが、天照大神様は「ぶりぶり」と怒りのオーラを隠そうともしません。
イザナミ様も、横でじっとテセウス様の様子を伺いながら、「早く起きぬかのう……」と、哀れな男の心配よりも「早く教えろ」という無言の圧力を放ってました。
それからさらに二時間が過ぎた頃――。
「いってーーー……! あれ? 俺は……」
テセウスがようやく重い瞼を開け、痛む首を押さえながら身を起こしました。
「貴様ぁー! いつまで待たせるかーーーー!!」
「待て待て待てーーー!! また締め上げたら今度こそ何も聞けなくなるだろーーー!!」
再び襲い掛かろうとする天照大神様を、素戔嗚尊様が必死の形相で羽交い締めにして食い止めます。
「ふん! 仕方ない……。話が終わるまで、妾も堪えてやる!」
天照大神様はようやく拳を収めましたが、テセウスは先ほどの生きた心地のしない感触を思い出し、顔を真っ青にして身を縮めました。
しかし、ハッと本来の用件を思い出すと、居住まいを正して三柱を見据えました。
「……もう気づいてると思うが、黄泉の扉が閉じたということは、もはやタイムパラドックスは起きないということだ。そして……それをギリシャの皆に伝えたのが、三日前」
テセウスは不敵に、しかしどこか晴れやかな笑みを浮かべて言葉を継ぎました。
「そろそろ、日の本に来る頃なんじゃないかな?」
「なっ、なんじゃと……?! 誰が来ると言うのじゃ?!」
「そりゃ、もちろん……。あなた方に、一番会いたがっている『彼女』に決まっているだろう?」
テセウスがそう告げた、まさにその時です。
――ピンポーン。
静まり返った七里ヶ浜の家に、軽やかなチャイムの音が響き渡りました。
三柱の神々は、一斉に玄関の方向を見つめ、生唾をごくりと飲み込みました。
どっ……『どちら様ですか?』
天照大神様の震える声がリビングに溶け込み、物語の幕が静かに、しかし最高潮の感動と共に閉じられました。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
突然「書きたい!」という衝動に突き動かされて、一気に書き上げましたが、改めて読み直してみると、厨二病全開だし、言葉は統一されてないし、シナリオは雑すぎるし、設定が浅かったりでお恥ずかしい限りです。。
それでも根気強くお付き合い頂いた方々には本当に感謝しております。
ポンコツ可愛いアリアドネちゃん、豪快なアマテラス様、優しくて妖艶なイザナミ様、スパダリスサノオ様に、私自身がデトックスされてました。
けど、それ以上に、お付き合いしてくださっている皆様がいてくださることが何より嬉しかったです。
4か月という短い間でしたが、拙いわたしのポンコツ物語にお付き合い頂き、本当に有難うございました。
今一度深くお礼申し上げます。
m(_ _)m
現在第二部を執筆中です。
また皆様とお会いできれば何よりですー(*´꒳`*)




