第六章 進歩
夜中の図書館で、ひとり実験して、ひとりノートに書く。
孤独だ。
でも——楽しかった。
こういう没頭する感覚、引きこもり時代に好きな小説を読んでいる時と同じだ。誰にも邪魔されず、ひたすら一つのことを掘り下げる。これが俺の本来の姿だ。
友達がいないのは寂しいが、まあ、魔法の解析が楽しいので相殺されている。
たぶん。
入学から二週間後の実技授業。
俺は手を前に出した。
心の中で焚き火を思い浮かべた。パチパチという音。オレンジ色の揺らぎ。顔に当たる熱。
手のひらに、安定した炎が灯った。
リード先生が固まった。
「アリアさん……出ましたね」
「はい」
「詠唱なしで……?何かしましたか」
「焚き火を想像しました」
「……は?」
先生の顔が「この子は何を言っているんだ」という顔になった。でも炎は本物だ。
周囲の生徒がざわめいた。
「詠唱なしで炎出した……」「二週間前まで何もできなかったのに」「焚き火ってどういうこと……?」
端の方でレオンが腕を組んで、こちらを見ていた。感情の読めない表情で。
俺は炎を消して席に戻った。
怖がられてたのに、今度は変な目で見られてる気がする。まあ……進歩か?
「……次は複合魔法だな」
俺はノートの次のページを開いた。
炎と水を同時に扱うとしたら、焚き火と滝を同時にイメージすればいいのか。でも二つのイメージが混ざったら……?
実験することは、まだまだ山ほどある。
先生には「授業中にノートを書くな」と怒られた。
それから一週間、俺は毎晩実験を続けた。
炎、水、風、土——基本四属性は全て習得した。次は「組み合わせ」だ。
炎と風を同時にイメージしたら、炎が風に煽られて大きくなった。焚き火に扇風機を向けるイメージだ。そりゃそうなる。
水と土を組み合わせたら泥になった。当たり前すぎて笑った。
でも——炎と水を同時にイメージしたら、蒸気が出た。これは使えるかもしれない。高圧の蒸気を一点に集めたら……。
「圧力鍋だ」
俺はノートに書いた。
『複合魔法①:炎+水=蒸気。圧力鍋のイメージで圧縮すると高威力になる可能性あり。要実験』
楽しい。本当に楽しい。友達がいないことなど、この際どうでもいい。
……どうでもよくはないけど、まあ今は魔法が楽しいので、そっちで満足することにした。




