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45 フォルティカ《宿屋》

 王都での暮らしは快適だった。


 寝泊まりはフォークスさんと報酬を山分けできたので、飯付きの宿屋に泊まっている。飯も寝るところにも苦労しないのは本当にありがたいことだ。


 しかもここの宿屋はよく食べる俺に気を利かせて食事を三人前も提供してくれる。

 感謝しかない。



 その宿屋で朝ごはんを食べていると、宿屋の娘のキャルちゃんが話しかけてきた。


「アルさんお願いがあるんですが」


 この子はまだ十歳だというのにすごく働き者だ。

 朝早くから宿屋の手伝いをして、こうやって泊まっているお客さん達に声をかけてくれる。

 聞いた話では俺の食事を三人前にしてくれたのもこの子の判断らしい。

 つまり俺の感謝はほぼキャルちゃんに向けてだ。


「キャルちゃんどうしたんだい?」


 だから俺はできるだけキャルちゃんがお願い事を言いやすいように優しく笑いかけた。

 するとキャルちゃんは少しだけ頬を緩めて話しだしてくれた。


「平原に現れた魔物を冒険者さんが狩りに行くそうなのですが、少し戦力が足りないそうで……」


 キャルちゃんはそこで言葉を止めた。


 わかっているよキャルちゃん!

 見ず知らずの冒険者のために助けてくれる人を探しているんだろ?


「いつもアルさんにばかりお願いして申し訳ないとは思っているのですが……」


 キャルちゃんはお盆をぎゅっと握りしめて下を向いてしまった。

 誰だキャルちゃんにこんな顔をさせたやつは!


「いいんだよキャルちゃん。俺にできる事ならいつでも手伝うさ」


 俺は優しく微笑んで了承した。


 するとキャルちゃんは満面の笑みでこちらを見返してくれる。

 そうだ。子供はこうでないと。


「ではご飯を食べ終わったらすぐに南の門に向かってください。四人組の冒険者が待っています。詳細はこのメモに書いてますので」


 キャルちゃんはメモをテーブルにのせると踵を返して調理室に入っていった。

 その様子を眺めながら、よく働く子だなぁと俺は感心した。





 食事を終わらせた俺はのんびりと南の門に向かった。

 そこにはキョロキョロと周りを見渡す四人組の冒険者がいる。


 年は二十歳を過ぎたくらいかな?

 根拠はないがきっと彼らだ。


「お待たせ」

「あんたがアルか? 遅いぞ。説明は馬車の中でするから早く乗れ」


 どうやら彼らも忙しいようだ。

 こんなに天気がいいんだからのんびりすればいいのに。


「あんたがあの狩り専なんだろ? フライングシャークの討伐経験はあるのか?」


 彼の言う狩り専とは俺の仕事の事を言っている。


 フォークスさんの連れということで最初の頃にいろんな冒険者達に応援で呼ばれたが、俺は討伐以外には何も出来なかった。


 資源を採取してもどこかでなくし、捕獲依頼でもトドメを刺してしまう。角が必要だと言われても気がついたら破壊してしまう。

 だが魔物の討伐だけは頼りになる。


 そうして俺は狩り専門の助っ人という新しいジョブを得た。

 そしていつからか、困った冒険者を宿屋のキャルちゃんが紹介してくるようになった。

 あの子は気配り上手なのだ。



 そして彼らはサラリと魔物の名前を言ったが俺にはわからない。

 シャークなのに平原にいるのか?

 飛ぶのか?


「おい。ちゃんとメモを読んだんだろうな?」

「あ〜、テーブルに置いてきたかも」

「テメー!」


 知らないよ。

 だってご飯食べてたんだもん。

 居心地の悪くなった俺は馬車を降りて走ってついて行った。






 半日ほど走って目的の平原に着いた。

 まだ昼過ぎだからすぐに討伐できれば今日のうちに帰れるな。


 普通は対象となる魔物を探すところからはじまるのだけど、今回はその必要はない。

 なぜならはるか上空を飛び回って居場所を晒してくれてるから。

 むしろあの行動は縄張りを示してるよね?


「あの下まで行けばいいの?」

「なんだ話が早いな。そうだ。あの下に行けば勝手に向こうから降りてくる」


 四人の準備が整うまで準備運動をして待つ。既に半日ほど走って体は温まっているが念には念をだ。


 みんなの準備が整ったのでフライングシャークの下まで歩く。


 だがなぜかみんな黙って下を向いている。

 その四人の表情と体はかなり固い。


 中級冒険者と聞いていたけど、まだ若いしそこまで経験はないのかもしれない。

 まぁ、俺のほうが年下なんだけど。



 とりあえず俺は彼らの緊張をほぐすために話しかけた。


「今まで戦った中で一番強かった相手って何?」

「なんだよ急に」

「いや、お互いの力量を知るのは大事でしょ?」


 リーダーらしき男は仲間を見たあとにこっちに向きなおった。

 彼らは前衛二人、後衛二人のパーティだ。

 ただ、火力はあまりありそうにない。


 堅実に実績を積むタイプと言えば聞こえはいいが、慎重になり過ぎて冒険できないタイプなのだろう。


「クレイジーモンキーだ。……もっとも逃げるのに必死で戦ったとは言えないがな」

「そこは逃げたと言わなければわからないのに。正直者だね?」

「俺たちはもうこれ以上強くなれない。だから……最後に大物に挑みたかったんだ」


 最後という言葉に反応して皆の顔を見たが誰とも目が合わない。

 彼らは下を向きながら小さく笑うだけだった。



 これが今から戦う者の顔か?

 俺は思わず溜め息めを漏らしてしまった。


「そう言うあんたは何と戦ったんだよ」


 拗ねたようにリーダーが聞き返す。


 そうだな。

 俺にとっての最強は言うまでもない。

 あのひとがどれ程強いか俺にはわからないが、挑まずにはいられない。



 そうだ。

 俺は強くならなければいけない。



 思わず全身から赤と青オーラが噴き出す。隣を歩いていた四人は驚きの声をあげながら後退った。


 上空にいたフライングシャークもこちらのオーラに気づいたのか急降下してきた。

 体の大きさからして、なかなかの威力を持っていそうだ。



 だが足りない。

 あのひとの一撃の足元にも及ばない。



 俺は拳を強く握り、体を捻る。

 あのひとはいつだって笑いながらその強さを見せつけてきた。その圧倒的な強さと優しさですべての弱音を吹き飛ばしてくれた。



(だから、俺にもできるかな?)



 体を覆っていたオーラが右の拳に集まる。その拳の中でオーラが渦巻くように熱を持って暴れる。


「おい! 下がれ!」


 フライングシャークが突進してくるのを見て冒険者達は慌てて後ろに走り出した。だが俺はそれに従うつもりはない。

 この熱をぶつけるせっかくの機会なのだから。



 そしてフライングシャークとぶつかる瞬間、俺は自らを鼓舞するために叫んだ。


「俺が戦ったのは!

 憧れたのは!

 死神みたいな強さを持った女神だ!!」



 ズドン!!



 突き出した拳とフライングシャークがぶつかり合って轟音をあげる。


 足元がひび割れ、ぶつかり合った衝撃で破片が飛び散り、あたり一面の草木が激しく揺れる。


 その衝撃を受けた体がきしんで痛む。

 気を抜けば腕が吹き飛ばされそうだ。


 でも止めない。

 俺は突き出した拳を一際強く握った。



 そして彼女のように笑う。

 不敵に。楽しそうに。

 それが彼女の象徴だから。


「受けとめてみろ! 爆拳!」


 強く握った拳が強烈な光を放つ。

 しかしそこから火の魔法が漏れることはない。

 魔法の威力は拳からフライングシャークに流れ、そこではじめて本来の爆発を起こした。


 ズババババーーン

『ッァ――――!!!』


 フライングシャークから声にならない叫びがあがる。その体はみるみる膨らみ、やがて形を保つ事ができなくなったフライグシャークは目を見開いて破裂した。


 ドパ――ン!!


 そして爆炎とともにその姿を消した。




◇◇◇◇



「一発で……」


 呆然とする四人はじっと青年を見つめた。

 彼は爆炎に照らされ、白金の髪は淡い光を放っている。

 その姿は雄々しく、英雄の活躍を目撃したかのように感じただろう。


 だが彼の激しすぎる活躍とは裏腹にその表情は笑っていた。

 まるで挑発するかのような不敵な笑みで。


 四人の冒険者があきらめるように終えるはずだった旅は、常識とともに打ち砕かれた。


 これからどれ程の時がたっても彼らがこの日の事を忘れることはない。

 彼らもまた、死神の笑顔に魅了されてしまったのだ。




◇◇◇◇



 帰りの馬車はみんな無言だった。

 ずっと足元を見つめて拳を握りしめている。


 もしかしてフライングシャークって捕獲の依頼だったのかな?

 それとも討伐部位が必要だったとか?


 しまっまな〜。

 メモに書いてあったとかだったらどうしよ〜。

 なんだか俺まで辛くなってきた。


 そして俺は逃げるように馬車を降りて走った。






 夕方には街の門まで帰ってこれた。

 馬車から降りてきた四人は気持ちを持ち直したようで、先ほどまでの暗さはない。

 いや、若干は暗いかな?


「ありがとう、アル」


 俺が表情を気にしていたせいか、リーダーは手をさし出してきた。握手のようだ。


 つまりこの依頼は成功したということだ。

 よかった。これでキャルちゃんも喜ぶ。

 俺の飯が減らされることもない。みんな幸せだ。


「こちらこそ。あとはリーダーからもキャルちゃんに報告しておいてください」


 俺も笑顔で握り返す。

 礼儀は大事だ。


「あぁ。そうしてればまだ子供なんだがな……」

「?」

「いや、こっちの話だ。俺たちも決心がついたよ。じゃあな」


 そう言って四人は馬車とともに街の中に消えていった。その背中を見送りながら俺はリーダーの言葉を呟く。


「決心か……なんのかな?」


 よくわからんが俺の食事が守られたのだからそれでいい。

 俺も宿屋に向けて歩きだした。


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