43 フォルティカ《王道》
「でかい! 多い!」
「フォルティカ王国はこの大陸で一番栄えてるからな」
俺の残念な感想にもフォークスさんはきちんと答えてくれる。できる男は優しいのだ。
クーランド大陸の最北にあるフォルティカ王国は魔道具だけでなく物作りも盛んな国で、北の海沿いに王都を構えている。
「王城も見えますね。フォークスさんは入ったことあるんですよね」
街の入口から遠くには城が見える。
あちこちに川も流れ、城下町と港町が混ざった不思議な雰囲気だ。
俺はその雰囲気になんとなく落ち着きを感じた。
「ああ。最近は行ってないがな。とりあえず仕事があるかギルドに寄るか」
フォークスさんがこれから冒険者ギルドに行くというので俺もついて行くことにする。
ただ俺はまだ冒険者になれない。
あと二年もすれば成人して冒険者になれるのだが、とりあえず今回はフォークスさんが討伐依頼を受けて俺が手伝うことにした。
その報酬で宿さえ確保できればあとはなんとかなるだろう。
ならなければ街を出るだけだ。
俺にとって街を出て野宿するのはたいしたことじゃあない。
それから大通りを歩いて冒険者ギルドに辿り着いた。
基本的にクヴェルト帝国と造りは同じようで、冒険者ギルドの中は多くの人で賑わっている。食堂も併設されていて呑んだくれもたくさんいる。
そして当然のように絡まれた。
もちろん俺がではない。
フォークスさんがだ。
なんせ彼は目立つ。
フォークスさんよりもでかい人は何人かいるが、その威圧感からどうしても目立ってしまう。
だからフォークスさんに喧嘩を売る人達は人数で対抗しようとするのだろう。
「おいおい、大層な剣を持ってんじゃねぇか」
「そうだそうだ!」
――脇役が現れた。
それ以外の表現をする方が難しいな。
茶髪だ。
四人組だ。
剣を持っている。
弓も持っている。
なぜかちょっとヘラヘラしている。
うん。脇役というか、やられ役だな。
俺が冷静にその人達を分析していると、周りの冒険者達がフォークスさんを指差して話しているのが聴こえた。
「あれってフォークスじゃねえか?」
「あの紅蓮剣のか?」
え?
何それ格好良い!
俺は思わずキラキラした目でフォークスさんを見てしまった。
そして周囲の反応を見たやられ役は当然不機嫌になる。
「二つ名持ちだからなんだってんだよ! 舐めんなよ!」
「そうだそうだ!」
そうか、彼らも二つ名が欲しいんだな?
それなら俺が与えてあげよう。
その名もワッキー&ソーダ!
うんうん。
脇役&そうだでいい感じ。
会心の命名に俺は思わず満面の笑みを浮かべた。
「なにヘラヘラしてんだコラー!」
ワッキーは叫んだ。
「そうだそうだ!」
ソーダも叫んだ。
ただほんとにそれで煽れてると思ってるのか?
しかし語彙の少なさこそが彼らの魅力なのだ。ここでそれに対してケチをつけるのは彼らに対して無礼かもしれない。
フォークスさんもどことなく楽しそうに眺めている。対抗するかけらもなさそうだな。
とりあえずジト目で可哀想だと伝えておこう。
そんな俺の視線に気がついたフォークスさんは鼻で笑ったあと、なぜか俺を指差して彼らに告げた。
「お前等がまとめてこいつと戦って、十秒後に一人でも立っていられれば相手してやる」
「んだと!?」
フォークスさんの発言にギルド内がざわつく。
そしてワッキー&ソーダは顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。
器用な奴らだ。
一芸に秀でるとはこのことか?
もうすこしで三人目のあだ名が生まれそうだが出てこない。だから俺は思わず難しい表情になってしまった。
すると俺の表情で余裕を取り戻した彼らは「上等だ」「そうだそうだ!」と言って了承してしまった。
どうするの?
ギルドの中でやるの?
そんな事を考えているとギルドの奥から一人の男が現れた。
「お前等こんなとこで暴れるな! 外でやれ!」
大声で怒鳴りつけてきたのはフォークスさんよりも体の大きい冒険者だった。逞しい髭にさらに逞しいスキンヘッドは男の中の漢だろう。
なかなか凄い威圧感だ。
俺は彼を冒険者のボスと名付けることにした。なかなかに今日の俺は冴えているかもしれない。
俺が満足そうに頷いているとフォークスさんは一歩踏み出してボスに笑いかけた。
「お元気そうで」
おや?
顔見知りかな?
礼儀正しいバージョンのフォークスさんが挨拶をしている。ボスは強そうだからフォークスさんなら普通に戦いだすのかと思ったのに。
「久しぶりだなフォークス。そいつはお前の仲間か? ソロのお前にしては珍しいな」
「仲間というか……弟子とライバルの間ですかね」
なんと!?
フォークスさんは俺をそんなに評価してくれていたのか!?
思わず上目遣いでフォークスさんを見てしまう。だがフォークスさんは渇いた笑いでそっぽをむいてしまった。
でもあきらめるな!
届け俺の想い!
しかし、そんな俺の想いを邪魔する奴が現れた。
「俺たちを無視するな!」
「そうだそうだ!」
ですよね。
ワッキー&ソーダはフォークスさんとボスの両方を睨むが、ふたりが振り向くとすぐに怯んでしまった。
まるで脇役のお手本のような小者ぶり。
褒めずにはいられない。
「別に戦うなとは言わん。訓練所でやれ」
ボスは首でギルドの奥を指した。
クヴェルト帝国のギルドにも訓練所はあったし、ここにも併設されているのだろう。
俺は足取り軽くボス達に着いて行った。
訓練所はクヴェルト帝国と比べると少し狭かったが、四人組と戦うには十分過ぎるほどに広い。
十秒という制限つきなら逃げ回るのもひとつだが、彼らはそれを選ばないだろう。
フォークスさんはボスと一緒に壁際で話している。どうやらボスはフォルティカ王国最強のパーティでそこのリーダーを務めているらしい。
いつか手合せ願いたいものだ。
おっと、目の前に手合せしてくれる人がいるのに失礼な態度だった。
俺がよそ見をしていたのが気に入らなかったらしく、男達は歯をむき出しにして睨んでくる。
だというのにまったく威圧感がない。
不思議だ。
そこで俺は必死に考えた。
彼らがここまで王道で接してくるのならば、俺も王道で彼らと対峙すべきだと。
そして必死に考えた俺はついに閃いた。
まさに王道のセリフを。
「お主等はもう死んでいる」
「オラ――!!」
俺の言葉に反応して四人は陣形も整えずに突っ込んでくる。
しかも全員右手で武器を振り上げて。
なぜか遠距離の弓使いまでもが弓を掲げて迫ってくる。どこまでもプロ意識の高いやられ役だ。
まさにやられ役の鏡と言っていい。
だから俺は彼らに敬意を評して技を放つ。
「奥の型!大車輪!」
ガッバ――ン!!
頭に当てると絶対に死ぬから、俺は四人が辿り着く前に手刀を地面に叩きつけた。
実際は大車輪と言いながら空刃で地面を叩きつけたのだけなのだが。
そして空刃によって地面は裂け、その衝撃は一直線に彼らに向けて走り抜ける。
ダバ――ン!
「「「「ぐわぁ〜〜」」」」
衝撃波に跳ねられた彼らは情けない声を出しながら左右に飛び散った。
その比率は右に二人、左に二人。
しかも受け身もとらずにドサリと落ちるとピクリとも動かない。
鳴いてよし!
見てもよし!
完璧だ!
彼らのおかげで俺は気持ちよく主人公をすることができた。
いつか彼らに酒でも奢ってあげよう。
そんな意味のない約束を勝手にしていた。
「さっきのアレはなんだ?」
ボスが腕を組んで俺を問い詰める。
「大車輪ですが」
「違う。いや、違くはないんだろうが、なぜオーラも使わずに衝撃波が出せる」
「あれは物理攻撃の延長ですよ?」
「物理……延長……」
ボスは額を抑えているがそれは普通の反応だろう。物理だけであそこまでの威力を出そうとすればフォークスさんクラスのパワーがいる。
とはいえ空刃だって最初からあんなに威力があったわけじゃないし、そもそも空刃がオーラを必要としない理由もよくわからない。
どこかで何を間違えてこうなったのか俺にはわからないが、ひとつ言える事を俺は堂々と言ってやった。
「努力しました!」
胸を張って宣言した。
聞かれていないが勝手に宣言した。
だってそれだけは事実だから。
そんな俺を少しだけ可哀想な目で見たあと、ボスは諦めたようにフォークスさんの肩を叩いて俯いた。多分、ちゃんと面倒を見ろとかそんな感じだろう。
フォークスさんは俺をジト目で見てくるがこうなった原因はあなたにある。
つまり監督責任はフォークスさんにあるのだからボスの行動は正しい。
たからちゃんと俺の面倒を見てほしいものだ。
そんな無意味な言い訳をして、俺はフォークスさんと一緒に王都の外に狩りに出た。




