第27話 苺の味
――温かい。
AIだというのに、彼の身体からは確かな体温が感じられる。
背中からじんわりと染み込んでくる体温は、冷たく凍えてしまったアリエスの精神をも解してくれるかのようだった。
まるで柔らかい陽光が、ゆっくりと雪を解かしていくように。
「……スウィンザって、温かいんだね」
いつも自分を気遣ってくれる彼。
とてもAIとは思えない。
「当然です。暖房をつけていますから」
「……」
前言撤回。
あまりに無味乾燥な答えに、アリエスの顔が僅かに引き攣る。
「どうかしましたか?」
「もう……訊かなきゃよかったよ」
「すみません」
はぁと溜息を吐くアリエスに、いつものように淡々とした謝罪を述べるスウィンザ。
こういう微妙なニュアンスが通じないときほど、彼がAIであることを痛感させられる。
「アリエス、もしかしてあなたは……」
閃いたようにスウィンザが声をかけてきた。
ハッと一瞬だけ一抹の希望を抱いたアリエスを、
「お腹が空いたのですか? 夕食は砂漠苺だけでしたからね。いくら乾燥させてあるとはいえ、成長期の女性には足りない量だったのでしょう。本来ならば、一日二二〇〇キロカロリーは摂取した方がいいのですから」
しかしスウィンザは堂々と罪無く裏切った。
(もう、そうじゃないよ)
元気をなくしてしまったアリエスを見て、彼はその原因が空腹にあるのだと解釈したようだ。
けれどスウィンザの予想に反して、アリエスは空腹を感じてはいなかった。
「ううん、大丈夫だよ」
「本当ですか? おかしいですね」
必要摂取カロリーと照らし合わせて考えを巡らせているのだろう。
背後からスウィンザが混乱する気配が漂ってきた。
この流れでいくとまた――。
(うぅ、いけない)
「ほ、本当だよ。あの砂漠苺、すごく美味しかったから、わたしはとても満足しているの」
少し後ろを見上げながらアリエスははっきりと告げた。
スウィンザの暴走を食い止めるためもあったけれど、それは決して嘘ではない。
本当に砂漠で採れたとは思えないほど甘みが強く、とても美味しかったのだ。




