第26話 砂漠の夜
小さな窓から夜空を見上げる。
そこにはうっすらと白い月が見えるだけで、この地上に星の光は決して届かない。
白砂漠は夜になると発光する。
人工的な白光が太陽に代わって世界を照らすのだ。
だから街も空もあまり暗くはならない。
ただ頼りなく空に佇む白い月が、今が夜であることを告げるだけ。
故に、都では昼夜を問わず活動する住人たちが多い。
夜という概念に囚われず、一日をまるまる有効に活用する職業やサービスが当然の社会となっている。
それはまるで、人間が夜間再生を必要としなくなったような違和感溢れる異様な世界。
生身の人間が、本来の〈生物〉という枠から勝手に剥離していく不自然さを伴っている。
しかしこの砂漠の街は違った。
発光する砂漠の中心で、まるで白夜のような明るい夜に在ってさえ、時間の感覚を失わず……。
そろそろ夜中に差しかかろうという今は、昼間の賑わいが嘘のように街全体がしんと静まりかえっている。
完璧を目指す〈ニュークリアス〉。
彼女はこの世界を白い砂で埋め尽くそうとしている。
正当な理由など分かるはずもない。
超高精度演算処理能力を誇る機械が打ち出した理論など、到底人間如きに推し量れるはずもないのだ。
けれど皮肉にも。
野生の勘とでもいうのだろうか。
嫌なことに、女神が意図するところが伝わってきてしまう。
昼間、教会で出会ったあの老女のように……。
確かに今はまだ、女神の干渉は人類に及んではいない。
しかし、必ず彼女は人間を駆除しようとするだろう。
音楽や夜と同様、この世界に不必要なものとして。
それも決して遠くはない。
ごく近い未来の話だ。
だから、早く制御装置を設置しなくてはならない。
修正プログラムを流し彼女の思考をリセットする。
〈ニュークリアス〉の牙が人類に向けられる前に。
アリエスの胸にある人工心臓を使って。
スウィンザと共に旅立つ時、そうインジバ博士から説明を受けていた。
「アリエス、寒いのですか。砂漠の夜は少し冷えますからね」
凛とした、けれど優しい声がかけられたのと同時に。
アリエスの身体はスウィンザの腕にスッポリと包み込まれた。




