始まり
本当に遅くなって申し訳ございません
同時に現われた〝世界融合〟の使い手である〝零世界〟と〝死者軍勢〟前に動くことが出来ない状態である俺達の前に、学園の一年生である谷崎が〝魔術閉鎖空間〟の中に現われた。
前から召喚者の存在を知ってたり、俺達の助けになったりしてくれた谷崎。人間とは違うと感覚では理解していたが、〝正義者〟が谷崎を見て、リーシャ・フォースと呼んでいた所を見ると、その感覚は正解だったようだ。
しかし、ジャックは谷崎の事に対してさらに深い情報を持っているようだ。たぶん、ほとんどの者が知らない情報を抱えているに違いない。
「なんだこの展開……二人の世界融合の使い手に、初めての召喚者と言われているリーシャ・フォースが同じ場所に揃うなど、本来在りえないことなのに……」
顔に絶望を浮かべながら話しジャック。世界最強の魔法使いである〝零世界〟と〝死者軍勢〟が同じ場所に揃っていることが、どれほど絶望的な状況であるのかを充分に理解しているのだ。
ジャックは今までに何度か〝世界融合〟の使い手を見てきているのだろう。だからこそ、俺達以上に今の状況がどれほど危険な状況なのかを十分に理解しているのだろう。
だが、俺はそれよりもジャックが口にした、谷崎の事についてのほうが気になった。今まで考えても分からなかったことなどで余計に気になってしまったのだろう。
「谷崎が初めての召喚者???どういうことだそれは」
見た目はどう見ても普通の高校生にしか見えない。召喚者の存在を知っていたり、普通の人間ではないことは想像が付いていたが、谷崎が初代召喚者であることなど在りえないだろう。
魔力反応は〝第三次開放〟に至った俺ですらほとんど感じることが出来ない。大抵の召喚者であれば魔力を消していても感じ取れるはずだ。正面に居る〝世界融合〟の使い手となれば話しは別だが、谷崎からはそこまでの力は感じなない。
「谷崎??この女は初代召喚者……いや、厳密には違うが、人間でありながら未来予知という能力を持って生まれた女だ。名前はリーシャ・フォース……死んだと利かされていたがどうしてここに??」
ジャックの顔を見る限り嘘を付いているようには見えない。大体この状況で嘘を付く必要などジャックには一切ないはずだ。だとすれば、ジャックが言っていることは全て本当の事という訳だ。
未来予知……そんなことが出来る人間が過去に居たなど今までに聞いたことが無い。テレビなどでその紛い物などなら何度も見たことがあるが、召喚者が関わっているということは、本当に未来を視ることが出来たのだろう。
だが、ジャックが言っていた通り未来予知が出来る力があったとしても、谷崎は人間のはずだ。だとすれば、今の状況は辻褄があわない。
初代召喚者と言われているのだから、召喚者という存在が現われる前に生きていた人間ということになるはずだ。しかし、今の谷崎は俺達と全く変らない高校生にしか見えない。人間であれば普通に死んでいる年であるのは確実だ。
だが、学園に通って居た谷崎が、死んでいるなど在りえない。少なからず、俺た白雪。凜奈には谷崎の姿が見えていたはずだ。三人が見えている段階で幽霊や死人という考えは捨てるべきだろう。
「どういうことなの??この状況に、そして今の会話も全て。答えてよ谷崎」
白雪が息を上げている谷崎に視線を向ける。〝世界融合〟の使い手である二人は今の状況を傍観している。白雪はこの二人は今の状況で不意打ちで攻撃を仕掛けてくる可能性は低いと読んだのだろう。
〝零世界〟が居る限り、不意打ちなどしなくても俺達に勝ち目はほとんど存在していない。それに不意打ちを仕掛けてくるのであれば、初めの段階でしているだろう。
「ごめんなさい……私から言えることは何も無いです。けど、その〝正義者〟が言ったことが……」
話しをしている途中に顔が歪み、頭を抱えながら地面に手をつく谷崎。学園で起こった時のように、自分に関する情報を口にする時に何かしらの魔法が仕掛けられているのだろう。
「前も言いましたが、貴方ではそれを壊すことは出来ませんよ?」
傍観していた〝死者軍勢〟が突然話しに参加した。その顔は笑みを浮かべていて、少し気味が悪い。
「わかってる!私は今はあなたの操り人形だから……」
瞳に大粒の涙を溜め、少し痛みが和らいだのか、立ち上がる谷崎は〝死者軍勢〟を睨むようにして見つめる。
「そうですね、貴方は私の操り人形です。でも、感謝してくだいよ??私が居たから貴方はこうして話をすることが出来るのだから」
「…………」
消す言葉もないのか、何も言わずに視線を俺達に戻す。だが、その瞳は今までに見てきた谷崎の目ではなかった。
「なるほどね……そいいうことね」
「どうしたんだ??白雪」
「いえ、やっぱり〝死者軍勢〟の魔法は最低の魔法だと思ったのよ」
睨むようにして〝死者軍勢〟を睨む白雪。そこには憎悪と殺意が込められていた。
「さすが、〝雷光武具変生〟だな。〝死者軍勢〟の魔法についても知っていたか……それも〝世界融合〟すらも知っているとは、驚きだな」
「ええ、しかし想像は出来るでしょう……ネクロマンサーなのだから、死者を自由に操ることなど造作もないと、それも記憶と意思をそのまま受け継いで操ることも出来るなど、想像出来る範囲でしょう」
「それもそうだな。驚いて失礼した」
のんびりと会話を続ける二人だが、俺は驚きを隠せなかった。〝死者軍勢〟の魔法はあまりにも非道徳的だったからだ。死者の記憶を受け継いだまま操ることが可能な魔法など、人間や魔法使いを操り人形に出来るのと同じだ。
この男はそれを、谷崎にしていたというのか??胸の中で怒りが密かにこみ上げるのを感じる。
「おっと、〝魔法斬り〟は戦闘準備出来ていますね??密かに殺気を感じましたよ?」
しかし、相手は〝世界創造〟の使い手である。表に出していない怒りすら、感じ取ってしまう。実力が上であることなど初めから理解している事だ。〝世界融合〟の使い手は俺たち〝第三次開放〟の使い手より格段に強い。
だが、それを倒せなくては前に進むことなど出来る訳がない。〝死者軍勢〟の隣に居る〝零世界〟は、さらに強い。同じ舞台に上がらないことには戦うことすらも厳しいだろう。それに戦争に選ばれたという事はいずれ戦わなければならない相手だ。
〝魔術蒼石〟を集めなければ願いを叶える事はできない。新しく見つけた白雪との願い……大切な人との願いを叶えることが出来ないなど考えられない。
「戦う準備が整った所で、では始めましょうか……零世界もよろしいですか??」
「私は戦うつもりはない……ただ目標を殺すだけだが??」
「そうですか……あなたならそう言うと思ってましたよ」
「そうか、では初めに逃げようとしている〝幻獣創造〟をここに呼ぶとするかのう」
そういう〝零世界〟が手を前にかざした瞬間、今まで感じた事がない魔力と共に魔法陣が浮かび上がる。爆風に晒される俺たちはただ見ていることしかできない。
「なんだこの魔力……」
俺はそう呟くことで精一杯だった。白雪もジャックも似たような反応で今までに感じたことがない魔力を前にただ、どうすればいいのかわからなくなっていた。明らかに勝てる相手ではないことだけは容易に理解することが出来た。
「私の前ではすべてが意味がない。どこに逃げようとしても逃げることなど不可能……私は世界を零にするのだ」
そう呟く〝零世界〟は少しだけ口を開くと、ニヤリと笑みを浮かべた。言っている事はデタラメなことだが、この〝零世界〟という男が言っていることに嘘はないということが一瞬で理解することが出来る笑みだった。
足元で回転する魔法陣は速度を上げながら放つ爆風と、光を強くさせていく。そして、止まると同時に魔力が爆発した。
あまりの魔力に目を閉じてしまった俺が再び目を開くと、そこには先ほどまで全く姿が見えなかった〝幻獣創造〟が、何が起きたか理解出来ないという表情で、周囲を見渡していた。
だが、理解出来ないのは決して〝幻獣創造〟だけではない。この場に居る〝死者軍勢〟以外誰一人として理解出来ていないだろう。だが、今簡単にしたことはきっと、恐ろしく難しいことで、想像を絶することなのは理解出来た。
「何がどうなっている……」
そう呟く〝 幻獣創造〟の心は恐怖で占めていた。〝先ほどまでかなりの距離が、あったにも関わらず、自分が気が付かない内にその距離を無かったことにされているのだ。驚かないわけが無い。
だが、それよりも〝 幻獣創造〟が恐れたのは他ならぬ〝 零世界〟の魔法の異常性だ。全てに気がついたわけではないが、その片鱗に触れて気がついたことが一つだけあったのだ。そう、それは正しく名前の通り。
「全ての世界を零にしてしまう魔法だと!?」
〝 零世界〟は〝 幻獣創造〟をこの場所に移動させてきた訳では無いのだ。元いた場所とこの今場所を零にしてしまったのだ。確かに存在する空間、だが、〝 幻獣創造〟が居た場所はこの場所になったのだ。空間ごと歪めて世界を零にしてしまったのだ。
二つの空間を重ねて、今いる場所が〝 幻獣創造〟のいる場所へと変えてしまったのだ。幻獣創造が存在していた場所は初めからこの場所だったように。世界を塗り替えてしまったのだ。
「ほう....世界創造の召喚者だけあって馬鹿では無いらしいな。だが、それが分かったところで今の状況は一切変化しない。この場所が世界だからだ」
空間や、場所が存在している限り〝 零世界〟の魔法に死角は存在しない。それどころか、この場に居る全員一瞬で、殺すことも容易い。〝 死者軍勢〟も含めて容易いのだ。
それほどに桁違いの能力を持っている。世界最強の召喚者と言われてる訳である。他の魔法とは別次元の魔法なのだ。
「さて、それでは余興も終わりにして始めるとしよう。ここに居る召喚者は運良くも全員、戦争に選ばれた召喚者だからのう」
「そうですね。ここまで強者を相手するのはあなた以来かも知れません。楽しみで仕方が無い」
殺し合いを楽しむ様な笑顔をする〝 死者軍勢〟に戦いが始まるのを察した俺と白雪も構える。〝世界融合 〟の使い手である2人を相手に生きて、さらに勝利するなど容易いことではない。
そんなこと当然のように理解しているつもりだ。だが、ここで死ぬなとどいう選択肢は俺たちに存在しない。大好きな者を守るために、もう大切な者を失わないためにも、俺達は勝利以外の道は残されていない。
この場面で、勝利することがどれほど自分たちの願いに近づくかも理解している。何としてでも勝つしか道は無いのだ。
「私は〝 幻獣創造〟と〝 正義者〟を殺る。それほど時間は掛からないだようがな」
自信がある声で呟く〝 零世界〟はこれまでに見たことがない深い笑を浮かべている。負けることなど一切考えていない証拠だ。
「それでは残りの2人を、相手する事にしましょう。〝 魔術蒼石〟を集める必要が、あるから」
そっと目を閉じた〝 死者軍勢〟の足元から魔法陣が、展開すると、同時にその場にいた召喚者、全員が行動をはじめた。




