95.正義の味方 その三十 いけないボーダーライン ζ
轟音の後、数発の爆発が続き、施設では警告音が鳴り響く。
平田 『進入成功』
新堂 『進入成功、動きなし』
スマートフォンを確認すると、別働隊からのメッセージが来た。
よし、あっちも順調のようだ。
こちらも順調にお客が集まってきている。
坊主が数人。以前、延暦寺近辺で見た格好と同じ。
つまり、こいつらも裏切者という訳か。
僕は、ゆっくりとワルサーのスライドを引いて、初弾を装填させる。
悪いが、多少の怪我はご理解下さい。
坊主達は、消火に夢中でこちらを見ていない。好都合だ。
ある程度、火災が落ちついて、
気を抜くその無防備な足元に狙いを定めて、発砲する。
『!!!』
一人の悲鳴で周りにパニックが伝染し、混乱は加速していく。
重ねて、適当に発砲すると第一陣は尻尾を丸めて逃げていった。
あれ?意外に場慣れしていないな。
僕が言うのもなんだが、素人まるだし。
新堂 『霧子ちゃん。判別完了。のりちゃん、凛は、北上』
おぉ、早くもいい情報がきた。
僕も手早く返答する。
『おけ、新堂さん、下がって。
遠回りでも施設外から反時計回りに北側へ。
涼風の後方にて待機願う』
新堂 『了解』
平田 『迎撃準備オケ。戦闘開始』
さて、僕はもう少し散らかすか。
人がいなくなったエントランスの気配を探り、
慎重に施設へ進入していく。
まだ、一部火が残っており、熱風が舞う反面、
施設内部は、空調が効いており涼しく、霧のような……!
『!!!』
僕は嫌な予感から、咄嗟の判断で体を捩じると、
なにか投射物が頬をかすめた。
あぶねえ!這った状態で慌てて柱の陰に気を隠すと、
『ほぉ、御堂乱流に気づくあたり、黒連かな?』
廊下の奥、施設内部から男の声が聞こえてくる。
柱から少し体をずらして覗くと、
作務衣を着た坊主が一人、こちらに近づいてくる。
『思わぬ進入者で儀式を見損ねたのだ。
せめて愉しませてもらわんとな』
坊主頭で御堂乱流が使える、飛び道具持ちの敵。
白鞘ではなく、黒連関係者なのだろうか?
作務衣では流石に流派までは判断できない。
ここから見る限り、男は筋肉質には見えないが、
接近するべきじゃないな。
僕は、ワルサーを構え、柱から半身出して射撃するが
『!』
弾丸は敵を通り抜けた。
『!?』
続けて二発撃つも、同じ現象が起きた。
確かに当たっているはずなのに。
男は顎をさすりながら、何事もなく笑っている。
高速で躱してしているのだろうか?
その割には、周りの霧に動きがない。
男の動きで霧になんらかの流れの変化があってもいいはずなのに。
白鞘か黒連の僕の知らない術だろうか?
『ふふ、銃弾では私は抜けんよ。では、こちらも!』
男は、袖からなにかを出して、投擲のモーションを取ってきた!
僕はすぐさま柱の影に隠れて射線を潰すが、右足に鋭い痛みが走る。
『ぐっ!』
射線は潰したはずをなのに。
なぜ、ここに傷を、投擲武器が刺さる?
投射スピードも速すぎないか?
武器が空中で曲がって、
加速しないとこんなところにダメージは受けないはずなのに!
『ちっ、どんな攻撃なんだよ』
足の傷自体は大した事はないが、このトリックが解けない限り、
施設の中には進めない。
”御堂乱流”の霧の性で視界は悪く、走って敵を振り切るのは難しい。
無闇な特攻になってしまう。
焦る僕をあざ笑うかのように、男は続ける。
『先程の襲撃ではかなりの波動を感知したので、
さぞかし名のある使い手が来たのかと思いきや。
なんの事はない。ただの素人か残念』
この野郎、嘗めた挑発をしやがって!
グロックとワルサーの2丁拳銃で突っ込むか?
百鬼夜行で攪乱するか?
待て、パニックになるな!
この程度なら慈恩でなんとでもなるんだ!
僕は、足に刺さった”クナイ”のような武器を抜き、
別の柱の影に移動する。
カツン!
革靴のような音が響いた。
ん?なんの音だ?
待て!集中しろ!僕の最初の任務は陽動だ。
その点で言えば、既に達成している。
ここで無理に攻める必要はない。
逃げるは恥だが、なんとやら!
カツン!
小さな音がまた聞こえた。
敵の位置は、あそこ、坊主は廊下の真ん中に立っているのに。
ん?なぜ、あんな場所にいるんだ?
僕は、先程から拭えない違和感に向き合う。
攻撃が当たらないとは言え、
もう少し柱に体を隠すとかするものじゃないか?
無防備過ぎる。
いくら、僕を格下だと見下していたとしても!
そもそも、今、御堂乱流を発動させているんだよな。
あの姿勢はおかしくないか?
”顎をさすったまま”で立っているのは!
そして、投擲武器の角度とタイミングが合わない。という事は!
霧の動きは、発生原は、あっち。
男の方向とは、微妙にズレている。
さらに、さっきの投擲の角度、小さな音の発生源を加味すると。
投擲者、御堂乱流の術者、囮役の坊主の最低で3人か!
僕は、閃きを信じてワルサーに加えて、グロックも抜き、2丁拳銃で、
2か所を銃撃する。
『!!!』
『うぐぇっ!』
10発程、撃った後、
先程の投擲の発射点と思しき箇所から悲鳴が聞こえた。
当たったな、よし。追加だ!
僕はポケットの中の札を投げつけて叫んだ。
『砕!!』
掛け声とともに辺りは白く染まる。
思わぬ霧との相乗効果もあり、視界は完全に潰れただろう。
僕は更に数発の銃弾を撒き、振り返らずに猛ダッシュで施設を出る。
ジグザグに走った後、施設外の繁みに飛び込み、
伏せたまま施設の入口の様子を伺う。
数分睨み続けたが、施設内に変化はなかった。
先程の敵が出てくる事も、他の坊主が大量に出てくる事もなく。
よし、とりあえず敵はまいたな。
美しくはないが、第一フェイズは終了だ。
痛む右足に慈恩を施して、
スマートフォンを確認すると状況がまた変わっていた。
平田 『第1波、迎撃完了』
平田 『ダイ2ラウンド』
新堂 『あみと合流。のりちゃん確保』
新堂 『異常発生。凛ちゃんを見失いました。
霧子ちゃん再探索中』
どういう事だ?
最後のメッセージは2分前。
一度合流した方がいいかもしれない。
『陽動終了、すぐ北側にむかいます』
メッセージを送り、僕は時計回りのルートで北側出入り口に向かう。
-柊が施設に突入するのとほぼ同じ時刻 涼風組-
新堂『霧子ちゃん、判別完了。のりちゃん、凛は、北上』
平田は、新堂からのメッセージを読み上げ2人に知らせた。
『OK、いいじゃない。好都合』
涼風は、柊の雷吼鞭による爆音と煙を確認し、首を鳴らす。
その顔を捕食者そのものに変わっていた。
『ところで、あんた達は見た目から飛び道具なさそうだけど大丈夫?
別に後ろで待ってくれててもいいんだけど』
彼女は器用にも、Y字バランス、かかと落としと、
おかしくも器用な柔軟体操をしていく。
『柊君のお願い、依頼だから、助太刀はするつもりよ』
『自分の身ぐらい、守れるっちゅーねん』
宇梶は抜刀して刀身を確認、平田は屈伸しながら反論した。
『そう。一番槍は私が勤めるわ。
お昼にあなた達にごちそうした”紅蝮”で
敵を麻痺させて強襲する。
これを基本ルーチンとするんで、後に続いて頂戴。
ほかにもあるんだけど、あなた達にはまだ見せられないわ』
『問題ありません。今回限りのチームですし』
『スピードや速射性ならウチが2番手の方がええね。
陽子がラストや』
『了解しました』
『言うじゃない、ついて来なさい、小娘』
アタッカーの3人はそれぞれ不敵な笑みを浮かべた。
施設北側の入口が開き、作業着の男たちが出てくると同時に
涼風は大きく息を吸い込み、数歩の助走をつけたジャンプで
男たちの直前まで迫る。
『カァァァァ……』
黒いくノ一が放った赤い霧は瞬く間に男たちを包んだ。
パニックになる者、嘔吐する者、その場に倒れこむ者。
涼風は容赦なく、手近な敵からなぎ倒していく。
獣特有の流れる動きで近づき、
鞭のようにしなる足技で一人、また一人と倒していく。
『せいっ!』『ハッ!』
忍者が撃ち漏らした敵は2人の少女が確実に仕留めていく。
口ではあぁだったが、
お互い近距離タイプであり波長も合うのだろう。
その手際は存外に悪いものではなかった。
最も相手の力量が低い為、ボロが出ていない可能性もあるが。
-同時刻 新堂組-
『さっ、霧子ちゃん。私たちも移動するよ』
『分かった!』
明るい色の髪を揺らし疾走する少女の後を追うは銀色の獣。
おかしな”ゆるふわ”チームも北側出入り口に向かう。
この時、新堂のスマートフォンが怪しく光を放つが、
霧子も新堂自身も気づく事はなかった。
その画面には、
『F/O DOWNLOAD』
と映し出されていた。




