79.正義の味方 アナザー6 YOU & I(後編)
今日は、天井姉ちゃんの帰りが遅いみたいだ。
放課後は、どこかに寄って帰ろう。
ゲームセンターに行ってみようかな。
勝屋は、校舎を出て自転車置き場に向かう。
少し日焼けした黄色のロードバイクが隅っこに置かれていた。
この自転車、もちろん天井から購入してもらった物ではない。
勝屋が購入した物でもない。
先程、南草津駅で入手した戦利品なのだ。
そこでのいざこざは、大した事なかったのだが、なぜかこのバイクに惹かれ、
勝屋は、勝手に愛機にしていた。早い話が窃盗である。
少し錆びたチェーンを鳴らしながら、不良少年は、走り出した。
お目当てのゲームセンターは意外に盛況で、勝屋は、近くの本屋に足を進めた。
『おっ、結構、大きい。さて、マンガ、マンガ。』
初めて来る本屋ゆえ、くるくると回っていると、目立つ頭を見つけた。
制服姿、何よりあの頭は、見間違えようがない。
ここは、中学校から結構離れているのだけど、たまたま寄ったのかな?
無視するのもなんなので、勝屋はゆっくりと近づき、話しかけた。
『こんにちは。吉野さん。』
『えっ、あっあぅ、その……こんにちは。』
本に夢中だったのか、吉野は思いの外キョドッた。
『ごめん。邪魔だった?』
『い、いぇ。その、ビックリして。』
吉野は、白●城(勝屋は読めなかった)と書かれた本を抱えている。
国宝と言うのは、読めるのだけど。
『それ、お城の本?』
『そう!そうなんです!待って……ココ!綺麗じゃないですか!?』
『……うん、なんか、カッコいいね。』
吉野は、恐らく渾身の1ページ、一押しの写真を見せてくれたのだろうが、
勝屋は全く理解できず、適当に相槌を打つ。
『綺麗ですよね。あの時代、職人の方々の力強さ、繊細さが出てる。
時代を経ても、美しいです。』
戸惑う勝屋を余所に吉野は、悦に入っている。
美しい?お城だよ?古い建物だよ。
スーパーカーやスポーツカーが格好いいとかは分かるよ。
そうだ……”ハン”と”天井”も同じ様な事言ってたな。
なんだっけ、スペイン?かどっかの石のお城だ!
何百年かかってもまだ完成してなくて、変なトゲトゲ付いてて……。
直接見たいって言ってたような。
今時、石って!地震来たら壊れちゃうよ。
鉄筋コンクリートで作りなよ、ホント。
『あっ、すみません。その……何か、御用でしょうか?』
『ううん、その見かけたからさ。ここ結構、玉中から遠いじゃん。
僕、ゲーセンに寄りに来たんだけど、吉野さんは?』
『私は、家がこの近くで……あっ、その、別に。』
吉野の声のトーンが急に落ちた。
『どしたの?お腹痛いの?』
『私とあまり喋らない方がいいです。こんなところを学校の皆に見られたら。』
『どういう事?えっ?えっ?』
吉野は、勝屋の腕を掴み、本屋の隅に強引に連れて行く。
『その……聞いてないんですか?私、”久谷”の人間ですよ。』
人目を気にして、吉野は小声で話す。
『ん?どういう事?その”クタニ”って?
何、吉野さん家って有名人なの?』
『ご両親に言われなかったんですか?』
『えっとね。あの、僕、両親、”事故”で死んじゃったんだ。
今は、親戚の姉ちゃんと住んでるの。
でも、姉ちゃんもここら辺の出身じゃなくて。
だから、何も聞いてないんだ。』
『あ、あのっ、その、ごめんなさい。その、知らなくて……その。』
吉野は涙ぐみ、下を向いてしまった。
やば……気まずい。あれ?僕の性なの?
周りの視線が……うわ、うわわわ。
『そうだ、吉野さん。場所変えよう!ねっ、ねっ!』
『……うん。』
『どっか公園とかないかな?』
『近くに運動公園が……ります。ぐすっ、うっ。』
『行こう、すぐ行こう!そのお城の本はここに置いてね。
さぁ、行こ!』
『……はい。』
今度は、勝屋が吉野の腕を引き、本屋を後にした。
吉野をなんとかなだめ、僕らは、公園に向かう。
後ろから追走しているのだが、やはり吉野の体は華奢で
自転車もやや頼りない。
風で彼女の髪が揺れ、舞い上がる。
やっぱり”蛾”に見えちゃうよ。めっちゃ羽ばたいてる。
-野村運動公園-
着いた公園は、勝屋が思っていたよりも随分大きく、
平日だと言うのに、運動して汗を流す人で溢れていた。
僕たち二人は、そう言ったメインの場所から少し外れた
場所に自転車を止める。
『あの……勝屋君、何飲む?』
自販機に手際よく小銭を投入し、吉野が勝屋を呼んだ。
『あっ、いいってば。自分で買うよ。僕が誘ったのに。』
『でも……』
『僕、こっそりお金貯めているから大丈夫!』
勝屋は胸を張り、やんわりと断る。
『うん、わかった。』
吉野はお茶を、勝屋はペプシをそれぞれ買い、
ベンチに腰を下ろした。
しばらくの沈黙後、
『えっと、じゃあ、さっきの続き聞いてもいい?』
勝屋は意を決して話を振った。
『う、うん。あ、あのね。私は、ここら辺の地区の出身なんだ。』
『そうなんだ……えっ?』
勉強のできない勝屋でも気づいた。
中学校というのは、本来、自宅の近辺で通うものだ。
ここから玉中までかなりの距離があるし、
ここからなら、他の中学校だってあるはずだ。
余程の事情でもない限りは。
恐らくその”余程の事情”が吉野にはある。
『その顔だと少し分かったと思うけど、まだ聞きたい?』
勝屋の顔を覗き込み、吉野は少し悲しそうに笑う。
『吉野さん、あの……その、実は僕もいろいろあって、
ここに来たんだ。その……一杯、いろいろあったんだ。
だから、こうやって話せるチャンスはちゃんと聞きたい……んだ、けど。
ダメかな?』
予想していなかった答えだったのだろう、吉野の顔が驚きに変わる。
『そう、なんだ。なら、話すね。
まず、ここから少し南に行った地域の事を”久谷”と呼ぶの。
正式名称ではないけど、みんなそう呼ぶの。
そこにいる人達の中にね、その、普通じゃない人達がいるの。
私……とかさ。』
『普通じゃないって言うのは?』
『その……人間じゃない……の。』
『そっか……実は、僕もだよ。』
勝屋は、吉野の顔をまっすぐ見て、自分の事を明かす。
『勝屋君、優しいね。でも……』
『見てて。』
吉野の言葉を遮り、少し離れたごみ箱を指さす。
ピンッと親指で乾電池を弾き、その”力”を解き放つ!
『剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ) V.V.V!』
ボグォッ!
『!!』
ごみ箱は、中身を少し掃き出して爆発した。
ジュースかなにかが焼けて、甘い匂いが辺りに広がる。
『ねっ、普通の人間にこんな事できる?』
勝屋は吉野にウィンクして見せた。
『す、すごいね。勝屋君が本気出したら、あんな上級生なんか
めちゃめちゃに出来ちゃうね。』
『はは、流石に一般人には使わないよ。
この事は秘密だよ。僕と姉ちゃんしか知らないんだ。』
口の前に指を立てて、少年は悪戯っぽく笑う。
『でも、なんで、私に?』
『吉野さんの秘密と僕の秘密の交換。じゃ、ダメ?』
『ふふ、分かった。じゃあ、私も続けるね。
その”久谷”には、私以外にもその……特殊な人がいて。
昔からみたいだけど、それで、あまり地域の人もいい顔をしないの。
だから、私と……話すと、同じ様に……』
そこまで話して、吉野は俯いてしまった。
少し肩が震えている。
勝屋は、ゆっくりと吉野の手に自分の手を重ねてから話す。
『……うまく言えないんだけど、僕もこの”力”が発現するまではね。
その……いじめられっ子だったんだ。
まわりには、僕を”いじめる”人間か、
それを見て見ぬ振りする人間しかいなかった。
それで、この”力”を手に入れてから全てが変わったかと言うと、
変わらなかったんだ。
僕を”怯える”人間か、同じく見て見ぬ振りする人間か。
なんにも変らなかった。
僕は、一人のまんまだった。
結局、その学校は転校する事になって、もう、
その頃の人とは会わないんだけど。
あのね、うまくいかなかった僕のさ、失敗した例なんかさ、
聞いてもな~んだって思うかもしれないんだけど。
少し、もう少しだけ吉野さんもなんか……そのできないかな?
その……僕を……信じてみてくれたり……とか。
僕もその、なんでもできる訳じゃないよ。
勉強くちゃくちゃだし、よく寝癖つけたままだし、
姉ちゃん怖いし。
でも、話は聞けるし、聞きたい。
その……”久谷”って聞いても、ピンと来ないし。
その……僕……吉野さん、嫌いじゃない……し。』
最後まで、真正面から話すのは恥ずかしく、勝屋は、途中で視線をずらしてしまう。
『ごめんね。その……久しぶりに人と話したの。
ずっと、嫌わ……うっ、そっ、
それで……うまく、話せなくて、なって。』
吉野は、涙を拭いながら、たどたどしくだが勝屋に答えた。
『今日じゃなくてもいいんだ。明日でも明後日でも。』
『ごめんね、ありがとう。
ま、まだ、話せる。
それで私ね。体に、主に背中にね。蟲を飼っているの。
呪われた蟲を。だから、あんまり触らない方が……。
それでその蟲の出す液体とか、その肉とかを売って生活してる。
そういう蟲だから、その”久谷”の人も私を怖がってて。
自分達も食べられるんじゃないかって。』
勝屋は、意識して、吉野の手を握り続ける。
『もしかして、その……蟲卑雌様?』
以前、天井が少し洩らしていた事を思い出し、ふと、つぶやく。
『勝屋君、すごいね。物知り。
でも、私は、”もどき”。
蟲卑雌様になりそこなった蟲付きだよ。』
『なりそこなったって言うのは?』
『そのね、蟲卑雌様になるにも資質が必要なの。
一応、私も血は受け継いでいるんだけど、薄かったみたい。』
『蟲って、その体が不自由になっちゃうの?』
『えっと、私のは、ちょっと痒かったり、痛かったりするけど、大丈夫。
背中のかさぶた、ちょっと見えるよね。
見た目はよくないけど、そんなに重症でもないの。
死んじゃったりとかはないって聞いてる。』
『そっか、お風呂とか大変そうだけど。
それって、その……いつか治る、治せるの?』
『勝屋君のエッチ。
治したって人は聞いた事ないな。
勝屋君のは?
その……、無くなったりするの?』
『ち、違うよ。かさぶた沁みるから……。
そ、その……。
ぼ、僕のも分かんない。
いきなり、ひょっこり成ったからさ。
もしかしたら、ずっとかもしれないし、明日無くなるかも。
ちょっと、一緒だね。』
『そだね。』
少年と少女は顔を合わせて笑う。
気が付くと、周りは少し薄暗くなっていた。
『あっ、私ばっかり、一杯しゃべってゴメンね。』
『そんな事ないよ。僕から聞いたんだし。
聞けて、話せて良かった。
あっ、送ろうか?
その……家まで。近くまで?』
『ふふ、大丈夫。もう、すぐ家に着くから。
勝屋君こそ遠いんだし、気を付けてね。』
『うん、分かった。
じゃあ、また”明日”。
学校で。』
勝屋は笑顔で吉野の手を少し強く握った。
『えっ、う、うん!
また、”明日”ね。』
吉野は何度も勝屋に振り返りながら、大きく手を振って公園から出て行った。
勝屋は、ベンチでその姿が見えなくなるまで眺めていた。
『そ、その……。』
『あっ、おはよう!吉野さん。』
『う、うん。おはよう、勝屋君!』
あの日以降、吉野は、自ら勝屋に話しかけるようになった。
まわりの学生はその様子に驚いたが、
先日の勝屋の一件を知っている為、表立って非難する事はなかった。
女子は相変わらず吉野を避けているようだが、
男子は、勝屋が間にいる場合のみ吉野にも話すようになった。
ほんの少しの、小さなキッカケが、少しづつ何かを変えていく。
いきなり全てを変える必要なんてないし、
変化にもまた、時間が必要だ。
『ねぇ、勝屋君。』
『ちょっと、待って。
吉野さん、その”勝屋君”っていうのなんかカタイ。
”タニンギョーギ”的な感じがしますです。』
『ふふっ、”しますです”。』
『今のは噛んだの!みんなみたいに”かっちゃん”でいいよ。
友達じゃん!』
『とも……そうだね。これから、”かっちゃん”って呼ぶね。』
『そうだ、吉野さんのあだ名は?なんて呼ばれてるの?』
『えっ、その……あんまり、その、呼ばれないし、その。』
吉野は、口を閉ざしてしまった。
しまった!僕、空気読めてない!沈黙はマズイ!
『では、不肖、この”かっちゃん”が命名します。
むむむ、”あきちゃん”です!くぅー!』
勝屋は一際大げさに、某コメンテーターの口真似を披露する。
『ふふっ、あんまり、ひねってないね。』
『うわっ、辛口。むしろ、シンプルイズグッドみたいにしたのに。』
『”かっちゃん”、シンプルイズベスト、だよぉ。』
『……』
勝屋は、目を閉じ天を仰ぐ。はい、バカ披露。
『ううん、うれしい。
でも、その、あだ名は、慣れてないから。
人前だと、その恥ずかしいかも。』
『おっけー。これからは、二人の時だけ”あきちゃん”って呼ぶよ。
”吉野さん”。』
『うん、”かっちゃん”!』
『こないださー。
”あきちゃん”が読んでた本、姫路城だったんだね。
やぁっと、分かった。』
『えぇー、”かっちゃん”遅いよぉー。
あれ?中間テストでも出なかった?
その時はなんて書いたの?』
『その……兵庫県にあるお城ってヒントにあったから……』
『あったから?』
吉野は、間違っている事など分かっているのに、意地悪く聞き返す。
バツが悪そうに勝屋は小声で、
『神戸城。』
『ぶふっ!』
吉野は、待っていました!と言わんばかりに大げさに笑い、口元を隠す。
『ひどいよ!笑う事ないじゃん、仕方なかったんだって~。』
『えへへ。
でも、ヒントの”兵庫”を使わず、
あえて、”神戸”って書いたところがなんか、”かっちゃん”ぽいなぁって。』
『でしょ!少しは考えたの!』
勝屋は、的外れな回答にも関わらず、胸を張った。
『でも、違うし。』
『少しは優しくしてよぉー。姉ちゃんにもおもっくそ怒られたんだよ。』
少女の鋭い指摘に少年はうなだれた。
『でも、実際にね。
”兵庫城”も”神戸城”もあるんだよ。
神戸じゃなくて、神戸ね。確か、三重県にあるよ。』
『”あきちゃん”、ウィキペディアみたいです。』
少女の追撃に少年は白旗を揚げる。
『そうだ!今度、地理と数学の小テストあるじゃん。
勉強会しよ。私、教えてあげる。
あっ、数学はあんま得意じゃないんだけど。』
『大丈夫!僕、全教科ボッコボコだから!
これ以上は下がりませーん!』
『それでね、その、小テスト終わったら、その、お疲れ様会しよ!
二人で遊びに行こうよ。』
『おっ、いいね!どこ行く!』
お出かけ大好き少年、勝屋の瞳が輝く。
『彦根城!』
『……(また、お城シリーズですか)』
ステキな提案に軽く眩暈を覚えながらも、
勝屋は吉野と小指を絡めて約束する。
『じゃあ、来週の木、金がテストでしょ。
その週の土曜日に行こう!』
『うん、晴れるといいね。』
『ねぇ、”かっちゃん”。
なんでスマホ、2つも持ってるの?』
『えっ?あぁ、これはね。
こっちの黄色のが僕のスマホ。
こっちの白いのが兄貴のスマホ。』
勝屋は、両手にそれぞれのスマホを持ち説明する。
『お兄ちゃんの?』
『うん、その……怪我……して死んじゃったんだけど。
僕を守ってくれたんだ!
だから、ずっと大切に持ってようって。』
『そっか、”かっちゃん”家は、優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんでいいな。
私、一人っ子だから。』
『んん?
お兄ちゃんは優しかったけど、お姉ちゃんは鬼だよ。
ちょー強い鬼だよ。』
勝屋は、腕を組み顔をしかめた。
『えっ?
”かっちゃん”よりも強いの?』
吉野が知る限り、勝屋は強い部類に入る。
その勝屋より強く、勝屋が怯える程と言うのが信じられず聞き返す。
『うん。
もうね、すごいの。悪魔だよ。
昨日もさ、プリン食ったな!ってブチ切れて、ブン投げられたもん。
ゴリッて!
その後、首グチャッてされたもん!まだ、ここ痛いし。』
勝屋は必死に昨日の惨劇を伝えたのだが、その表現が可笑しくて
吉野は笑ってしまった。
『”かっちゃん”を手玉に取る程のお姉さんって、どんな人だろう?』
『ういっくしっ!』
女教師が教科書で顔を隠す。
『先生!くしゃみがおっさんっぽいです!』
『ウケルわ!』
一人の少年がからかい、もう一人の少年が手を叩いて笑った。
『林君、柊君、いい度胸ですね。
教科書、125ページから137ページまでノートに書き写すこと。』
『ちょっ、マジっすか?』
『僕、関係なくない?』
『明日中に光田先生に提出しなさい。』
『お前、余計な事言うなや!』
『柊が悪ノリしたんじゃろ!』
『これ以上騒ぐと、さらに追加するよー。』
『『ぐぬぬ。』』
二人の生徒は、下向き、自分達の机を睨み付ける。
『バッカみたい。』
黒髪の女生徒が笑った。
―ロクハ公園―
薄暗い夕闇の中、吉野が一人で歩いている。
今日は、制服ではなく私服なのだが、やはり季節外れな恰好だ。
一般的にもう上着は必要ないだろうに。
人通りはなく、吉野が一人ポツンといる。
しかし、彼女の足取りは、しっかりしており迷いがない。
彼女は、程なく歩き、点滅している街灯の下のベンチに座った。
左手の腕時計を気にしている事から、誰かを、何かを待っている事が分かる。
数分後、少しガラの悪い少女が吉野の背後から現れた。
何やらショルダーバッグを抱えている。
『こんばんは。秋穂ちゃん。待った?』
『いえ、大丈夫です。熊野さん。
今日”も”お願いします。』
『うん、行こっか。』
二人は並んで歩き、女子トイレに向かう。
中に、そしてまわりに人がいない事を確認し、障害者用の個室に入っていく。
『ブン!』
対人用のセンサーが反応し、個室内は明るくなる。
LEDライトの性で人工的な白さが目につく。
『今日は、”20”でいい?』
熊野は、ショルダーバッグを下ろし、手際良く中身を出しながら尋ねる。
医療キットのような物が見える。
『はい、大丈夫です。』
吉野も吉野でたんたんと上着を、下着を外し、肌を晒す。
その白い肌がLEDライトでさらに病弱な白さを際立たせていた。
その背中には、痛々しいかさぶたで3割程、覆われている。
膿んでいるのか、まだ、完全に硬化していない部分すら見える。
『うん、OK。動かないで。』
熊野は、右手にメスのような刃物を持ち、ゆっくりと吉野の背中を削いでいく。
削いだ部分は、透明な小さなケースに収まっていく。
白い肌に一つ、また一つ赤い筋が増える。
これが初めてではないのだろうが、手術のような作業の間、
吉野の小さな背中をずっと震えていた。
『はい、終わり。お疲れ様。』
熊野は、吉野に止血を施し、肩をポンと叩く。
『ありがとうございました。』
吉野はなんとか笑顔を作り、服を手に取る。
『これ、今日の分ね。』
少し厚みのある封筒を吉野は、すぐに自分の鞄に収める。
『あのさ、秋穂ちゃん。』
『なんですか?』
『こんな事ね、私が言えた義理じゃないかもしれないけど、
この仕事、辞めれるなら辞めたい?』
『どうしたんですか?急に。』
服を着終え、襟を正しながら、吉野は振り返る。
『いや、彼氏とデートするのも大変だし、ツライでしょ?』
『!!!
か、か、か、彼氏じゃありません。』
吉野は、否定するがその真っ赤な顔を見れば一目瞭然だ。
『別に大丈夫だって!その、上にチクる訳じゃないの。
ただの世間話。』
ニヤニヤ笑いながら、熊野は、吉野の顔を覗く。
『その……ど、どこで見られました?』
吉野は、顔をパタパタと仰ぎながらなんとか聞き返す。
『どこでって言うか……商店街とか駅前とかスタバとか?
私、こういう仕事だから、結構この辺り、移動するでしょ?
(秋穂ちゃん、頭ちょー目立つし。)』
『そ、そうですか。見られちゃいましたか。(どうしよう、何回も見られた。ヤバイ。)』
『気にしないでって!
秋穂ちゃんがあんな楽しそうにおしゃべりするの見ないからさ、
どんな人なんだろーって見たら、イケメンだったんでビックリ。
ちょっと幼い感じだけど、ジャニ顔よね。』
『そ、そうですか。ま、まぁ、カッコイイ系かな。でへへへ。』
友人を褒められた事などなく、ましてや、
彼氏候補(!?)の男子を見られ、褒められてしまい、
吉野は、軽くパニック、”ハイ”になってしまった。
『それで、自分の事を隠しながら付き合うのは大変なんじゃないかなって。』
『そ、その……、実は、”久谷”の事も、”蟲”の事も話しました。』
『でしょ!だから、なんとかさー、えっ?……』
熊野は、理解できず、一瞬、フリーズする。
再起動まで、あと4秒……3……2……1……起動。
『……話したの?』
『はい、話しました。』
『嘘だぁー。』
『ホントです。』
『その……彼の反応は?』
『ちょっと、びっくりしてましたけど、最後まで、聞いてくれて。
今も……その……一緒に居る……居てくれてます。』
吉野は下を向き、モジモジしながらもはっきりと答えた。
『ごめん、ちょっと、煙草吸うね。』
『あっ、どうぞ。』
熊野は、吉野の回答を待たず、自分のポケットを探り、
『カチン!シュッ!……フィー~。』
煙を大きく吐き出し、再び尋ねる。
『”全部”、話しちゃったの?』
『あっ、全部じゃないです。簡単に”久谷”の事、私の事です。』
『それでも尚、彼氏……秋穂ちゃんと一緒にいると。
大したもんだわ。
(もしかして、その筋の人間?関係者?調べる必要がありそうね。)』
『え、えへへ。”かっちゃん”、すごいんです。強いんです!』
”彼氏”というワードを否定せず、吉野は、笑顔で答えた。
『最近、仲良くなったの?それとも昔から?』
『えっと、最近、同じ中学校に引っ越してきたんです。
たまたま同じクラスになって。
それで”久谷”の事を知らなくて、私を助けて、話しかけてくれて。
内緒のままだと、”かっちゃん”に後で迷惑をかけちゃうから、打ち明けたんです。
それでも、”また、明日!”って言ってくれて。
今も一緒に遊んでて、それで……その、今度、二人で旅行とか行こうかなって。』
『もう、ラブラブじゃない。
(最近、玉川中学に転校して来た少年、同じクラス。OK。十分に調査できる。)
心配なさそうね。』
『えへへ。ありがとうございます。』
『そーだ、一つだけ注意。
その”かっちゃん”は大丈夫だと思うけど、最近、物騒でしょ?
変なのには近づかないようにしてね。
まぁ、”かっちゃん”に守ってもらえばいっか。』
『熊野さん、やめて下さいよぉ。』
入る時とはうってかわって、少女たちは笑顔でトイレを後にする。
-彦根城-
草津駅からトコトコとぉ!
はるばると言う程の距離でもないけれどぉ!
やって来ました彦根城!!
うーん、天気はいいけど、景色自体は、至って普通。
僕、これじゃ興奮できませーん。
だけど、”あきちゃん”と二人っきり!
これってデートですか?デートですよね!
僕、ワクテカが止まりませーん。
お出かけ用の一番いい装備、アメカジで武装!
姉ちゃんの革ブレスレットもさらっとパクッてきました!
B’zの稲葉さん、着用モデルとの事!
これは、デキル!力、み・な・ぎ・るぅ!
”あきちゃん”だって、かわいいワンピ着てるし。
これは、楽しい一日になりそう!デュフフ。
角ばったメガネを掛け、薄いストライプの入ったスーツ姿の男が二人を見ている。
商店等の業者の人間にしてはスーツが決まりすぎていて、
まわりの観光客から少し浮いている。
『あれが、”吉野 秋穂”ね。
ブスではないが、幸薄そうな顔してんな。
なんだ、あの頭。染め方間違ったってレベルじゃねぇだろ。
異端児のセンスなのか?
隣にいるのが、”勝屋 航”か。
動作は、ただのガキにしか見えんな。
別段、格闘技のような物を身に付けているようには見えないが、
さほど、筋肉質と言う訳でもない。
まぁ、学生同士の喧嘩などたかが知れている。
噂に尾ひれは付き物か。
”絶頂楽園”!!』
異変に気付いたのは、”吉野 秋穂”本人よりも勝屋の方が先だった。
はしゃいで前を行く吉野の背中の色がみるみる変わっていったのだ。
淡い緑色の服が赤く、どす黒く染まっていく。
『!!!……”あきちゃん”!』
勝屋の声とほぼ同時に、吉野はしゃがみ込んだ。
駆け寄った勝屋は、すぐに事態を悟る。
その顔は、蒼白、服の色が変わったのではない、出血しているのだと。
『これっ!”あきちゃん”!大丈夫?すぐ、救急車を!』
勝屋の軽く触れた手にすら、血がつく。
出血は異常な量だった。
『だめっ!病院はダメなの。多分、蟲が……おかしいの。』
吉野の首筋が不気味に脈動している。
皮膚の下には、黒く太い糸のような物が透けて見える。
これが、蟲!初めて見る物に勝屋は、吐き気以上に怒りを感じた。
こいつが、こいつの性で……
『なんで?どうしたらいい?』
『分かんないよ、こんな事、今まで……』
吉野の息が荒く、顔は痛みで歪む。
どうしよう、どうしよう。
病院はダメって言われても、病院しか……
僕は、止血できない。
そもそも傷口が……早く、早くしないと。
『ごめんね。”かっちゃん”。
やっぱり、わ……たし、呪われてるんだ。
離れて、もしかしたら、”かっちゃん”にも……』
『そんな事、できる訳ないじゃん!
ごめん!病院に行こう!!
すみません!誰か!友達が倒れて!!』
勝屋は、そこで初めて、周りの異変に気付く。
吉野だけではない。
周りにも、倒れている人、うずくまる人がいる事に。
『えっ?』
出血している人もいるが、怪我はなさそうな人もいる。
何が起きた?
何か……爆発とか狙撃のような物は感じなかった。
にも関わらず、この広範囲の……攻撃なのか?
そして、人々は、それぞれ違う部位を押さえている。
傷口が統一されていない。
どういう事なんだ?毒……とかなのか?
天井の姉ちゃん……すぐに来てくれるか?
勝屋の背中は、脂汗でみるみる溢れる。
『おや、まだ発症していないやつもいるのか。参ったね。』
一人の男が笑って勝屋達に近づいてくる。
スーツ姿の男、怪我人が視界に入らないのか真っ直ぐに歩いてくる。
右手には、下品なストラップがついているスマホを掴んでいる。
聞かなくても分かる。
こいつがっ!!
『お前っ!!』
『”絶頂楽園”!』
勝屋は、男に向けて駆け出したのだが、足がもつれ派手に転ぶ。
『うっ、なんだ、……これ。』
吐き気がする、視界が歪む。
ビールを飲んだ時、酔った時に近いが更に酷い。
『げへっえっ!おっ!』
たまらず、胃液を吐き出す。
『んん?やっぱり、今一効きが悪いな。
”君”だけだ。なんだ、えーと、勝屋君。
どういう事だ?射程内で、まだ稼働限界という訳でもないんだが……』
男は、独り言を呟きながら、スマホを操作している。
角ばったメガネが日光でギラリと光る。
くそっ!
どういう事だ?僕の事を知っている?
『剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)! V.V.V!!』
勝屋は、左肩に能力を発現、銃口が男に狙いを定める。
『なるほど、同類だったのか。
ならば、少々の耐性にも頷ける。
一般人のガキでは相手にならんわな。はは。』
男は、銃口を意にも介さず笑っている。
同類?……こいつも剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)ユーザーかっ!
『今すぐ、能力を解除しろ!でなきゃ、頭を撃ち抜く!』
勝屋は、膝を立て、なんとか男を睨む。
『やってみろっ!と言いたいところだが、やめておきたまえ。
”痛い目”を見るのは君だぞ。』
男は、メガネを指で押し上げて、尚もニヤニヤと笑う。
『警告はしたぜっ!”V.V.V”!』
勝屋は、男を指さし、弾丸を撃ち出す。
バシュッン!
血が舞う。
V.V.Vの弾丸は、男の眉間を、
エグイデザインのメガネごと撃ち抜くはずだった。
この距離で外すなんてあり得ない。
こんな事が起きるのはさらにあり得ないはずだ。
『うぐぅっ!』
勝屋は、自らの右腕、V.V.Vの弾丸で撃ち抜かれたその傷を押さえる。
誤射?暴発?
よりによってこんな時に!
この”力”を得て、初めて犯したミス。
『ほらな?だから、忠告しただろ?
随分、血が出ている。大丈夫かw?
私にその”力”を向けるんじゃない。
どうせ届かない。
”過去”の思いで、誓いで、覚悟で、その”力”を得たのなら尚更な。』
男は、右手のスマホを指で器用に廻している。
『サービスで教えてあげよう。
人は、成長していくものだが、その過程でどうしても障害にぶち当たる。
無傷で突破できるだろうか、いや、無理だね。
そこで、古傷、トラウマを抱えてしまう。
キレイ事を言うのならば、それを”乗り越えて”、
または、”原動力”にして更に進む訳だな。
だが、実際問題、その傷を一生抱えて、生きていく事になる。
一生な。
そして、時折思い出しては、落ち込み、又は、鬱になり、
傷を再確認して引き摺って行く。
一生な。
いいか、大切な事だから繰り返すぞ。”一生だ。”
私の能力は、そこをトリガーに発現する。
これが私の能力、”絶頂楽園”。
幼い子供ならまだしも、
物心つく頃には、私の能力から逃れる術はない。
もっとも、そんなガキならば、能力を使うまでもないか。
アハ、アハ、ははは。』
勝屋を無視して、男は、一人講釈を垂れ続ける。
『なぜ、”あきちゃん”を狙う?』
『”あきちゃん”?あぁ、吉野 秋穂の事かい?
まぁ、いろいろあるが、主に金だよ。』
『こんな場所で……無関係の人を巻き込む必要があるのか?』
『それは、仕方ないんだ。
私の能力は、ある程度の指向性や範囲指定はできるが、
単一個体を狙い撃ちはできないんだ。
ついでだよ。ついで。
コラテラル・ダメージってやつだ。
あぁ、君みたいな馬鹿では理解できないか。』
男は、なんの感慨もなく、横で蹲る人を足蹴にし、
その上に座る。
『もう一度言う。能力を解除しろっ!』
『イキがるなよ。
お前の能力は、私に届かない。
能力なしでは、私を倒せない。』
『”V.V.V”!!』
パァアンッ!
勝屋の二撃目は、発射する事すら叶わず、左肩で爆破した。
『がっ!!』
左肩の痛みが熱を持つ。こめかみからの頭痛が更に増していく。
”V.V.V”の形状を保つ事ができなくなり、霧散してしまう。
『だから、わざわざ説明してやっただろう?
これだから、ゆとりは。
ん?もう、耳が聞こえてないのかなぁー。あはは。』
古傷、トラウマをトリガーに発現する能力。
だから、”あきちゃん”は、蟲が、
僕は、”V.V.V”が暴走する。
この”力”の性で、周りの人もそれぞれの”傷”を抉られる。
男のスマホは、不気味な光を湛えたままだ。
まだ、能力を使い続けている。
早く倒さないと”あきちゃん”が!!
なんでこんな事に!
早く!
『まぁ、君たちにしてみれば、ツイテいない事かもしれないが。
人生そんなもんだ。
楽しい時間は不意に終わりを告げ、不幸は突然やってくる。』
男は、ゆっくり近づき、勝屋の頭を踏みつける。
『ぐぐぐぐ……』
口に砂が入る。
中を切ったのか、血の味がする。
抵抗しようにも、頭痛が酷く、
出血で眩暈も悪化し、ろくに動けない。
くそっ!
勝屋の脳裏に先日の濵口戦が浮かぶ。
”ハン”を目の前で殺され、成す術もなく敗れ、
無様に逃走した惨めな自分。
復讐を誓い、再戦するも、歯が立たず、天井にすんでの所で救われた無力な自分。
”力”を手に入れて、いじめられなくなった。
それを磨いて、強くなったのに。
それなのに、また、僕は大切な物を……
”あきちゃん”は必死で頑張っているのに……
こんな所で……
『”あきちゃん”は、もう、いっぱい泣いたんだ!
いっぱいいっぱい泣いたんだ!!
”V.V.V”!!』
『無駄な事を。』
勝屋の全身に電撃が走る。出血している右腕の感覚が麻痺していく。
『ぐっぐぐぐ。うぅー。
もう、負けたくない!
これは負けちゃいけないんだ!!』
満身創痍の体は悲鳴を上げ、”V.V.V”の暴走による電撃は勝屋を切り裂き続ける。
ヂッ!ヂヂッ!パンッ!ヂヂッ!!
ブン!!
勝屋のズボンのポケットが光り輝き始めた。
『剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)起動失敗。強制終了。
剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)起動失敗。強制終了。
剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)起動失敗。強制終了。
ブンッ!!
剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)再起動!!
データ復元!!
”白蜥蜴”!!』
見たことのある、頼もしい”兄貴”の”力”が目の前に。
勝屋の前にその姿を現す!
『いっけえ!!』
勝屋は、左手で”白いスマホ”を掴む。
白蜥蜴は、高速で突進、男の脇腹に食らいついた。
『なっ、なんだ、これは!
くそっ!馬鹿な!!
離せ!
”絶頂楽園”!
なぜ、効かん?!
剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)! ”絶頂楽園”!!』
『僕の”力”じゃない!兄貴の”力”だっ!!』
白蜥蜴は、肉を食い千切ろうと体を捩じる。
『待てっ!マテっ!ま、ままって!マヂて…!』
ブチュッ、ブチン!
男の体から嫌な音が響き、血が噴き出る。
バシュンッ!!
何かが弾けるような音とともに、少年がいきなり二人の前に姿を現した。
『『!!!』』
勝屋も男も突然の来訪者に目を向く。
『撤退だ。”ドッペルング・ギャンガー”!!』
バシュンッ!!
少年は、男と共に瞬時に姿を消す。
獲物を逃した白蜥蜴キョロキョロとしている。
『なんだ、今の?』
分からないが、とりあえず危機は去ったみたいだ。
勝屋は、地面に横になる。
少し、砂利で痛い。
『ヤバイ。もう、動けない。
あっ、白蜥蜴、戻ってきて。』
新しい主人の声に白蜥蜴は、尻尾を振って答え、
その姿を消した。
何故だか分からないけど、いや、きっと、”ハン”が力を貸してくれたんだ。
勝屋は、右手に自分の、左手に兄貴のスマホを握りしめ、天を見る。
くったくたなのに、自然と笑みがこぼれた。後は、”あきちゃん”を!
『”かっちゃん”!大丈夫!?』
吉野が近づいてきて、勝屋に触れようとすると……
パチンッ!
『きゃっ!!』
勝屋の体から静電気が発生、吉野は手を放す。
『ごめん、僕に触らない方がいいよ。
僕は……呪われてるっぽい?』
吉野に向けて、勝屋は精一杯の笑顔をつくる。
『ふふ、気にしない。』
パチッパチチッ!
吉野も笑顔で答え、今度はしっかりと勝屋の右手を握る。
『”あきちゃん”、怪我は?大丈夫なん?』
『大丈夫。蟲も治まって、今は治癒してくれてる。
それより、”かっちゃん”の方が重症だよぅ。
大丈夫だよね?
死んじゃ、やだよ。』
『もちろん、死なないよ。ちょっと、今は動けないけど。
へへへ。』
『その……ごめんね。』
『なんで、”あきちゃん”があやまるのさ。』
『その……私……』
『”あきちゃん”は悪くない!悪くないんだ!』
『うん、……うん!』
吉野は涙ぐみ、ただただうなづいた。
『大切な友だ……大切なんだ!すごく!
何度でも助けるよ!絶対、守るよ!』
肩の痛みなどお構いなしに、勝屋は、左手で吉野の涙を拭った。
『ありがとう、”かっちゃん”。』
少女は、少年のおでこに軽く口づけをする。
風に揺れる彼女の髪が、ほんの少しくすぐったいが、
勝屋はじっと、遠くで鳴るサイレンを聞き続けた。




