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78.正義の味方 アナザー6 YOU & I(前編)

 『バイキン、こっち来んなよ!』


 『ごめん、アンタとしゃべると私達まで”あの地区”だと思われるし。』


 『くそっ、やっぱ分家の血かよ。


  血が薄いのか。燐粉にしろ、血液にしろ、純度が……』


 『お父さん、やめて下さい。秋穂はまだ小さいんですよ!』


 『悪いんだけど、あんたとこの娘、ここの地区の中学校に通わせないでくれる?』


 『うわあぁつ、キモッ、なんだよその背中。』


 『席近いとうつるんじゃね?』


 『結局、秋穂に頼るしかないの。ごめんね。』


 誰も私とは違う。


 お父さんとお母さんの子供なのに私だけ特別なの?


 ワタシ、ナニモ、シテナイノニ…… 


 陰鬱な月曜日が始まる。


 蔑まれ、怯えられ、疎まれるいつもの月曜日が始まる。




 とても晴れている月曜日。


 『今日のワン……』


 かわいらしい子犬がテレビに映っている。


 ここは、天井の部屋。正確には、光田が手配した黒連の社宅。


 生活必需品が揃いきっておらず、やや生活感の欠けた1LDK。


 カーテンは、窓とサイズが合っておらず、足元に朝日が輝く。


 リビングには、ニトリの布団が直引きされている。


 そして、至る所に転がっている空のペットボトル。


 ちょっとしたゴミ屋敷で天井と勝屋は暮らしていた。


 このテレビも昨日、やっときたばかり。


 勝屋の50インチ希望は、天井の独断で32インチになってしまったのだが、


 久々のテレビを前にしては些細な問題だ。


 『勝屋ぁ~。光田さんが手配してくれたから、今日から中学校に行くのよ。』


 天井は、地図と必要書類を順にテーブルの上に広げていく。


 『別に僕、行かなくても……。』


 テレビから目を放さないまま、勝屋は不平を呟いた。


 『ダ~メ。ちゃんと学校に行って、普通の学生のフリをしなさい。


  いずれ動く時までは、じっとしてて。


  目的完遂後だって、あるでしょ?』


 『僕みたいなの、いっぱいフラフラしてるよ。』


 勝屋の目は、テレビの柴犬に釘付けだった。


 いつか飼ってみたい。


 一緒に散歩したり、一緒にお布団で寝てみたい。


 すげぇ、もこもこして可愛ら……し……い。

 

 『行きなさい。』


 ごききっと嫌な音とともに勝屋の首が90度回転する。


 もげる……首がもげちゃう。朝ごはんのコーンフレークも出ちゃうよぉ。

 

 『はい。


  (行ったフリして、TSUTAYAかネカフェに逃げよう。南草津駅前に確か……)』


 『言っとくけど、出席なんかすぐに調べる事ができるのよ。』


 長く赤い爪でカリカリとテーブルを削りながら、天井は笑う。


 爪が朝日を浴び、ギラリと光っている。


 これは……逆らっちゃいけないパターンだよね。うん、僕知ってる。


 『……行ってきます。』


 勝屋は、観念してYシャツを羽織り、床に置いてあった鞄を背負う。


 しばらくおとなしくして、天井の機嫌を取ろう。


 そして、チャンスを見て、柴犬の話をしよう。


 こっそりと自分に誓う。


 『行ってらっしゃい。』


 可愛い弟の登校を姉は、笑顔で見送った。




 渡された地図通りに歩いて行く。


 随分と暖かくなった。Yシャツをズボンから出して、風に揺らす。


 ”ハン”の件以来、ずっと行っていなかった久々の学校。


 僕の普通の日常。


 まぁ、今日から行くところは初めての中学校な訳だし、感慨もないんだけれど。


 周りを見ると、同じ格好の学生が同じ方向に歩いていく。


 この流れに沿って行けば、目的地に着くのだろう。


 特にどうって事のない、普通の生活が始まる。


 『初めまして、勝屋 (ワタル)です。


  今日からよろしくお願いします。』




 『これは、なんだろう……。』


 まだ慣れない席で広げた答案用紙を前に勝屋は一人悩む。


 『よし、落ち着こう。パニックになるのが一番悪いよね。


  振り返ってみよう、最近の自分を。


  まず、この玉川中学校に編入したよ。OK。


  次にイキナリ、中間試験があったよ。まぁ、よくないけど、OKだね。


  そして、今日結果が返ってきた。それがご覧の有様だよ。


  ふぅー、酷いよね。習った事ない所が出るんだもん。


  分かる訳ないよね。』


 5科目、全部足しても100点行かないじゃん、何コレ珍百景。


 横で女子が笑ってるよ。どんな罰ゲームなん?


 お馬鹿タレント扱いだよ。


 後ろに跳ねた寝癖をイジリながら、次の手を考えるが………


 無理だ、ダメだ!


 見なかった事にしよう。学校はマズイから家で捨てちゃおう。


 散々だったテストを鞄の奥に詰め込み、足早に校舎を後にする。




 『!!!』


 中学の正門を出た所で違和感を襲われた。


 なんだ、これは?


 じめっとした、嫌な感じ。どっかで感じた事があるような。


 この感じ……まさか、あの男じゃあないのか……?


 右手にスマホを構え、周囲に気を配る。


 近い、どこだ?


 校内にはまだ学生がいる。周りの道路には一般人もいる。


 ”剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)”を使ってもいいのか?


 でも、あの男が来たら、そんな事言っている場合じゃない!


 天井に連絡しようか?でも、すぐに来れない!


 あの上り坂の奥だ、近付いて来てる。


 スマホを持つ右手に”力”が入る。


 『ドクン、ドクン、ドクン!?


  ……ドクン!


  えっ?』


 男が自転車でゆっくりと近付いてくる。


 だけど、あの男じゃない。


 パーカーを来た学生。僕より年上に見えるから高校生かな?


 あの男じゃないし、こちらを見てもいない。


 でも、この違和感は……。


 戦闘する意思もなさそうだけど。


 少し、様子を見……て?


 『やっちゃん、ブゥラァストォー!』


 『でぇぇいっ!!』


 『!!?』


 パーカーを来た学生が一般人に”ラリアット”された”。


 あっ、自転車ごとひっくり返った。


 攻撃を”されている”。


 『ん?ど、どういう事?』


 混乱する勝屋を余所に学生と一般人は口論している。


 『てめぇ、毎度毎度、攻撃してくんじゃねぇ!


  こっちは仕事帰りで疲れてんだよっ!』


 『こっちだって仕事でしょーが!


  ギャーギャー言わず、付いて来い!


  キン○マ、ついてんの?』


 『でかい声でシモネタぶっ放すんじゃねぇ!


  待てって、すぐそこが家やん。シャワーをあぁぁぁぁ~。』


 学生は、胸ぐらを掴まれて引き摺られていった。

 

 二人が遠ざかるに連れ、勝屋の違和感も消えて行く。


 『アイツが違和感の正体なの?ん?どういう事?僕の勘違い?』


 おかしな寸劇を目の当たりにし、スマホを握ったまま勝屋は頭を捻る。




 勝屋の不運は、明日が燃えるゴミの日だった事。


 この地域のゴミ袋が透明だった事。




 『勝屋ぁ~、これ、何?』


 夕飯後、ビールを片手にゴミをまとめていた天井がふと何かに気付いた。


 5枚の白い紙を摘み上げている。 


 『裏紙です。』


 確固たる決意の元、勝屋は即答する。 


 『ふーん。知らないなら、教えてあげる。これはね、”テスト”って言うの。』


 『知ってるw』


 少年は、舌を出して、不二家の”ペコちゃん”の顔を真似る。


 なかなか、その顔はキュートだったが、


 『ゴスッ!』


 天井の手刀が勝屋の頭蓋にささった。


 『痛いっ!な、な、なんでイキナリ殴るのさ!少しは言い訳を聞いてよ!』


 目じりに涙を貯め、必死に抗議する”元”ぺこちゃん。


 『言い訳なんでしょ?そんなもん聞くかぁ!』


 手刀からアイアンクローにコンボが繋がる。2Hit Combo!


 ぺこちゃんの顔がみるみる赤く染まる。


 『いだだだ、ちょっちょっ。仕方ないじゃん。し、し知らない所が出たんよ!


  僕のがっこではぁっ、まだだ、勉強してない所が出たん!』 


 頭蓋を圧砕しようとする腕を必死に掴んで抵抗するが、


 勝屋の口は、うまく廻らなくない。


 『テスト問題、持っっってこいっ!』


 アイアンクローから開放された勝屋は、自分の部屋にダッシュ。 


 『こ、こ、これですぅ~。』


 くちゃくちゃの問題用紙を天井に差し出す。


 『あんた、少しはキチンと整理しなさいよ。


  こんなんじゃ、ちゃんとした大人になれないわよ。』


 ため息をついた天井を前に、


 『(このペットボトル小屋の主が言う台詞じゃないよね)』


 と勝屋は反論しかけたが、ギリギリの所で踏みとどまった。 


 さすがに赤口紅(ルージュリッパー)で斬られたら洒落では済まない。


 『……あんた、バカァ?なんで、”ミジンコ”ぐらい分からないのよ!


  なんで”エイリアン”になる訳?』


 『もっと、ミジンコは可愛かったんだよ。昔は。』


 『今も昔もこの形でしょうーが!ゴスッ!』


 『うっ!』


 勝屋のこめかみに理科の教科書が飛んでくる。


 『”Baby”ぐらい書けるでしょ!!なんで”BKB”なのよ!』


 『”B”しか分からなかったの!』


 『ガンッ!』


 『うぇぇええ!』


 勝屋の眉間に英語の教科書が熱烈なキスをする。


 『二酸化炭素でしょっ!』


 『えっ、それ、水の事?』


 『ぱぁんっ!』


 『いだいよぉー!』


 『”きょうさかじん”って何よ?”京阪神(けいはんしん)”でしょ!』


 『読めないっ!』


 『!!!』


 『!!』


 『うわぁ~ん!』


 小さな1LDKで絶叫と悲鳴が夜遅くまで響いた。  




-次の日 勝屋の教室-


 『えっと、次は、理科第2実験室だっけ。』

 

 時間割を確認し、勝屋は引き出しを漁る。

 

 基本的に教科書は学校に置きっ放し。


 故に忘れ物はしない。宿題もしない!


 あらぬ方向を見て、誰に言うのではなく、胸を張る。


 この負のサイクルが先の中間テストでの大敗を喫する事になった訳だが


 勝屋はまだ気付いていない。


 『その、無理です!』


 女子の声が聞こえた。


 さして大きな声ではないのになぜか勝屋にはっきりと聞き取れた。


 教室を出ると一人の女子を5人の男子が囲んでいる。


 『いいじゃん、2千円!2千円だけだって、超リーズナブル。』


 『その、でも、持ち合わせが……』


 『2千円ぐらいあるでしょ?大丈夫、大丈夫だって。』


 いわゆる上級生による下級生への”かつ上げ”だ。


 いつになっても、どこであってもこの手の輩はいるものだ。


 どこから発生するんだろう、虫みたいだ。


 囲まれている女の子は、確か同じクラスの……


 名前はまだ覚えてないけど、同じクラスだ!


 なんで周りは助けてあげないんだろ?


 『こういう馬鹿は、どこでもいるんよね。』

 

 ため息をつきながら、勝屋は笑う。


 『何?お前、あんま見ない顔だな。』


 5人組の一人が勝屋を睨む。


 『転校してきたばかりなんで。』


 『じゃあ、お前が立て替えてくれよ。5千でいいぜ。』


 一人が手を出しながら、近付いてくる。


 『(金額)上がってるだろっ!バーカ!』


 『あぁっ?』


 ドンッ!

 

 無防備に近付いてきた上級生を前蹴りで突き飛ばす。


 『お前っ!』


 激昂した残りの4人が走ってくる。 


 『まぁ、この程度なら、問題ナッシン!』


 上級生達は、勝屋に悪意を向けてくるが……、


 大振りのストレート、届かないフック、遅すぎるローキック。


 勝屋は、動きを確実に捕らえ、余裕をもって回避する。


 今までの化け物みたいな敵に比べたら、あまりにお粗末な相手だった。


 飛び道具、自動修復もなし。はっきり言って、街のチンピラ以下。


 近距離は得意じゃないけど、4対1でも十分に対応できる。


 右、左、右、右。もう、そろそろいいかな。


 姿勢低く回り込み、一人の脇腹にボディーブローをお見舞いする。


 よしっ、直撃!


 『うぶっ!』


 悲鳴とともに一人、撃破したのを確認。


 その一人を踏み台にして、2人目を飛び膝蹴りで迎撃する。


 『どわっ!』


 勝屋は、眉間を打ち抜かれ、倒れる上級生を見下ろす。


 『おぉっおっー!!』


 遠巻きに見ていたギャラリーから歓声が起こった。


 仲間が成す術もなく倒され、残りの2人が後ずさる。


 『別に追いかけないよ。早く帰って。次はないですよ。』


 勝屋は、うずくまって泣いている3人の肩を叩き、階段へと促す。


 『……そ、その、ありがと。すごいね。空手とかしてるの?』


 かつ上げされていた女子が近付いてきて、頭を下げる。


 『うーんとね、まぁ、そんなトコロかな。大した事ないんだけどね。』


 照れ隠しで、手をパタパタと振って苦笑する。


 (天井の特訓に比べたら、ねぇ?)

 

 『次の授業始まっちゃう、移動教室だよね?連れてってよ。』


 『うん、着いて来て。私、吉野。吉野 秋穂(アキホ)。』




 ちょっと変わった子だよね。


 勝屋は、黒板と早々に別れを告げ、先程救った少女、吉野 秋穂を見る。


 真面目にノートを取っているんだが、心なしか周りの女子との席の間隔が広い。


 避けられてる?避けている?


 小柄なんだけど、少し細すぎるような。


 僕の茶髪も褒められた物じゃないけどさ、


 校則上、髪型についてはあまり言われないのかもしれないけど、


 茶髪と金髪が、まだらになってる。染めるのをミスった訳じゃないよね?


 言ったら悪いけど……、もちろん、言わないけど、”蛾”に見えちゃうよ。


 服装だってそう、まわりのほとんどがYシャツ。


 半袖のヤツもいるのに、一人長袖でブレザーまで着てる。


 髪の間から見える首には、絆創膏とガーゼ、かさぶたのような物も見える。


 変わってる。


 顔色は悪くないのに病気がちにも見える。


 『なに?勝屋君さぁ~、吉野とか好み?』


 後ろの男子(名前は知らず)がこそこそと話し掛けてくる。


 『えっ?いや、そういう訳じゃないんだけど……、


  なんかちょっと変わった子だなって。』


 『止めた方がいいよ。アイツ、あの地区出身だし。』


 『あの地区?』


 『あぁっ、勝屋君、知らないんだね。


  その、あっち系さ、あんま関わらない方がいいよ。』 


 話し掛けてきた男子が顔をしかめる。


 『アイツの家、やばいんだって。』


 『あと、病気持ちだし。』


 右に座っている、金屋君(多分、そんな名前だったはずだ)も話し掛けてきた。


 『病気?』


 勝屋は聞き返す。


 『あの首見て、めっちゃ、かさぶたあるやん、あれ、背中全体にあるらしいよ。


  触るとうつるかも。』


 『そんなうつる病気なら、学校来れないんじゃないの?』


 馬鹿馬鹿しい、笑って一蹴する。


 でも、周りの雰囲気が、彼女の出す空気が、


 ”外れ者”である事を証明しているようだった。


 『昔の僕みたいだ。”ハン”に出会う前、


  ”剥がれよ現世の仮面(フェイス/オフ)”を手に入れる前の。』


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