58.悪の手先 アナザー13 sister's noise
-とある建物-
カッカッカッ、静かな廊下にヒールの音が響く。
『川島少佐!あなたが自ら出向かれなくても。』
軍服の男が白衣の女性に声をかける。
『自分の作品の成果は、自分の目で確認したい。』
軍服の上に白衣を着た女が答える。
(万が一、”芳子”の邪魔が入る事も考慮するとな…
量産品では、心もとない。
私の”真・黒陽”で迎え撃つ。)
『明日は、記念すべき日になる。
日本国 国防陸軍 特殊機工 第八小隊 出撃!
目標、南京街!
敵を駆逐しろ!!』
-南京街 深夜-
黒い影が南京街を縦横無尽に走り抜ける。
油圧制御なのか、プシュッ、プシュッという音、
チュイーンというモータの駆動音、
銃撃音と共に。
深夜の南京街が赤く染まり、悲鳴が響く。
『マズイ。一手遅れたか!』
『翁、早く!』
春風が月の手を引き、叫ぶ。
『お前らは先に行け。ここはワシが食い止める。』
『敵が多すぎるよ。翁、一人じゃ…』
『行け!お主らがおるとワシの”力”が出せん。』
『怪我してる。無理だよ。』
『行けっ!!月まで巻き込むつもりか!』
翁は、腹部を手で押さえ、春風を叱る。
『翁…!!』
春風の声は、爆撃の音で遮られる。
黒い塊が3つ、屋根を突き破り、翁達の前に降り立つ。
黒い、大きな人型。
『最優先目標、確認。排除、開始。』
『フォーメーション、デルタへ移行。』
感情が見られない機械音声が響く。
『行けぇっ!』
翁の怒声で春風は月をつれて店を出る。
『目撃者、排除。』
走る春風に向けて、黒い塊が腕を向ける。
チュイーンというモーター音とともにその腕に銃が出現する。
『ゴンッ!』
春風を狙撃しようとした黒い人型を翁が蹴り飛ばす。
『貴様らの相手はこのワシじゃて。』
ちっ、硬い。金属…なにかの合金か。
翁は、小さく舌打ちする。
『ガガガッ!』
『+*>++*#~!!!!』
店を出て、月の手を引いて走るが、どこに向かえばいいか分からない。
銃撃と悲鳴が重なる自分の街で、
春風はパニックになりそうな頭を必死で立て直す。
『春…』
『大丈夫。必ず、逃げれる。』
月の手を強く握る。
通り慣れた道なのに、小さな街なのに。
どこへ行けばいいか分からない。
知ってるはずの道が無残に変わっていく。
知ってるはずの人が居らず、黒い塊が跋扈する。
『そこまでだな。チャイニーズ。』
機械音声とともに春風の前に黒い塊が下りてくる。
大きい、さっきよりも大きいタイプだ。
勝てない。自分では勝てない。
春風が手を出すその前に本能が敗北を知らす。
足が震える。体が言う事を聞かない。
月を握る、その手すら震えてしまう。
瓦礫を砕きながら、更に黒い塊が出てくる。
2、3…4。
増える塊が春風の心を絶望で砕いていく。
『月、走って!早く!』
春風は、月を奥に突き飛ばし、黒い人型に対峙する。
『泣けるなぁ、姉妹愛か。』
『このスーツじゃなきゃ、お楽しみできるんだが。』
『ははは。あんまり怖がらせるな。震えてるぞ。』
『やめろ、任務に集中しろ。』
春風は、震える心と体を覚悟で固める。
月の逃げる時間を稼ぐ。
1分でも、1秒でも。
構える春風に向け、黒い人型がその腕を向ける。
チュイーンという嫌な音ともに見た事のある銃のような武器が春風を睨む。
『ガガガッ!!!』
『”シルキー・ハート”!』
白い雪のような壁が出現、路地を完全に塞ぎ、銃弾、黒い塊と春風を分かつ。
『!!!』
『何だ、コレは?大尉、データにないぞ!』
『ガガッガガガガッ!』
黒い塊の一人が壁に向かい、発砲するが壁はビクともしない。
『不注意に触れるな!距離を取れ!!』
黒い塊達が白い壁から離れる。
『???』
春風は、何もできず、その場に立ち尽くす。
『大丈夫か?』
後ろから聞いた声がして、春風は振り返る。
『……カド?』
『お待たせ。』
門脇が月をおぶった状態で立っている。
春風は、走って近づいていく。
『大丈夫じゃない!心配した!大変!すごく!』
春風が顔を真っ赤にして抗議する。
『すまん、悪い、ごめんな。色々あってな。』
門脇が春風の頭を優しくなでる。
『いない……困る……』
春風は、門脇の胸に顔を埋める。
『翁が…』
『僕が行く。
もう大丈夫だ。この道の先にレガシィを置いてある。
色は、シルバーだ。前と同じ車だ。分かるね?
僕が翁を連れてくるまで、月とトランクで待っててくれ。』
門脇は、来た道を指差し、春風にレガシィの鍵を渡す。
『分かった。でも、カド…』
『必ず、帰ってくる。迎えにいく!
イイ子にしててくれ。』
春風の、おでこに軽くキスをして、門脇は白い壁に通り抜け、走る。
『貴様、何者だ?』
”黒陽”達が門脇に対峙し、腕に仕込まれた銃を構える。
『悪いが、女を待たせていてね。
答えてる暇はねぇんだよ!』
門脇は、黒陽達に目もくれず、突進する。
『ガガガッ!!』
黒陽達が発砲するが、
『”プレパ・レイド”!!』
淡い紅色の壁が苦もなく、銃撃の進行を止める。
『貴様、術者か!』
門脇は、戸惑う黒陽の懐にもぐり叫ぶ。
『”衝動”』
空気の炸裂音、そして、吹き飛ばされる黒い塊。
『!!!』
『撤退しろ、一時撤退だ。』
黒陽達は、仲間が瞬殺されたのを見て、即座に撤退する。
『ヒュー、ホントに若返ってんだな。』
門脇は、左手でスマホをいじり、吹き飛ばした黒陽を見て笑う。
『なかなかしぶとい。』
『金属の人形風情にくれてやる程、安い命ではないのでな。』
血まみれの体をなんとか壁に預け、翁は毒づく。
『敵ながら、見事、そして、さよならだ。』
黒陽達が、その腕を翁に向ける。
『一斉射…』
『少佐!なにかの煙が!!電波障害も……ガッ!』
白い煙が黒陽達と翁を包み始める。
『!!!!』
『少佐!何か白い塊が飛んでいます。蜂!?何だ!これは!!』
『チッ!目標を囲みつつ、距離を取れ!』
ゆっくりと身を引く黒陽は反対に、身を低くし、翁に近づく者がいる。
『合金蜂 行けぇ!』
『少佐!何者かがッ!』
音声は途中で途切れ、破砕音が響く。
『少…佐!!指示……誰か…ガン!』
『撤退!!中距離より爆撃する!』
モータ音を残し、黒陽達は、翁に背を向け、その場を後にする。
『翁、大丈夫か?』
『貴様、生きていたのか?』
『詳しくは後で、撤退だ。』
吹き飛ばした黒陽を足蹴にして、門脇が翁に囁く。
『そういう訳にはいかん。我々は、マフィアで、私は、長だ。
この街と共に生き、この街と共に死ぬ。』
満身創痍だというのに、翁は拒む。
『もう十分、責務は果たしただろ?
アンタには恩もある、義理もある。…敬意も払う。
だが、ここは、春風や月の願いを優先する!』
『子供達は…お前が…頼む。』
『マフィアなんだろ?
”ゴッドファーザー”でも言ってたな。
”家族を大事にしないヤツは男じゃない”。
悪いが、力づくでも連れて行く。
”バニラ・ソード”!!』
門脇が、吼え、自らの周辺に白いつららを出現させる。
『あのパワードスーツ小隊、プラス僕を相手に喧嘩するか?
万全ならともかく、今のアンタの、そのケガで?』
『…腰抜けのひよっこが吼えよるわ。』
『どうする?時間も限られてる。まだ、春風や月も狙われてる。
僕達が揉めている場合か?』
『………逃げ切れるのだな?』
『”不死身”と”逃げ足の速さ”は僕の専売特許でね。』
『ふ…ふはは。』
門脇がウィンクすると、翁は苦笑する。
『よかろう。』
『OK、これで少しは治癒できるはずだ。車まで走るぜ。
あの子達が首を長くして待ってる。』
門脇が、蜂蜜を固めたようなカプセルを翁に渡す。
『なんじゃこれは?』
『回復薬だよ。出所はまた教える。』
『貸し…という事にしておこう。』
『気にすんな。あんたの娘にゃ、世話になってる。』
『手を出した以上、当然、責任は取ってもらうぞ。
浮気は許さん。勝手に死ぬことも許さん。
今後、”死んだフリ”も許さん。』
『おい、目が怖えぇよ。』
『父親なのでな。』
『さっき、親権を放棄したろ!』
門脇が、ツッこむ。
黒陽の気配、銃撃音を避け、二人は走る。
密告がうまくいっていれば…もう一人、”助っ人”が来ているはずだが。
『ここだ。後部座席に!身を低く!』
ダンボールとゴミでカモフラージュしたレガシイに門脇と翁が乗り込む。
『娘達は?』
後部座席に座り、翁が尋ねる。
『トランク!まだ、出せない。
真ん中の席がトランクスルーになってる。
そこから確認してくれ。』
レガシイのエンジンをかけ、門脇が矢継ぎ早に話す。
翁が、少し、真ん中の席を開くと中に春風と月が丸まっていた。
顔に疲れが見えるが、翁の顔を見ると二人とも笑った。
『やれやれ。日本人は、女の扱い方も知らんのか?』
翁は、ほっとして、門脇に皮肉を言う。
『命、救ったんだ。ほんの少しぐらい我慢してくれ。
ケガも大丈夫だ。』
門脇は、目立たぬ様、ゆっくりと車を出し、南京街から離れていく。
『これからどこへ?』
『まずは、僕の隠れ家。
滋賀県の北部にある。
田舎だから見つからんだろうし、追っ手が来たらすぐ分かる。』
『あやつらは何者だ?』
『通称、”黒陽”。
黒連が開発した対陰陽師の兵器、パワードスーツだな。
悪いが、詳細までは現時点で不明。』
『黒連か…』
翁が顎に手をやり、考える。
『恐らく、開発は黒連だが、実行部隊は軍の人間だろうな。
さっきの戦闘で、何人かが”大尉”やら、”少佐”やら言ってたからな。
更に”あんた”を不意打ちできたつー事は…』
『……身内に恥さらしがいるようだな。』
翁が、顔をしかめる。
『多分な。』
『身内が裏切り、赤の他人。
しかも、日本人に助けられるとは…時代が変わったな。』
『昔の事情は知らんが、
僕はアフターサービス万全のナイスガイよ。』
門脇は、左手の親指を立てる。
翁は、自分のポケットを探り、何かを探す。
『煙草、あるか?』
『悪いが、禁煙車でね。』
『飲み物は?』
『僕の飲みかけのコーヒーでよければ。』
『サービスが悪いぞ。』
『………』
『『ふははっははははは!』』
神戸を抜けたレガシィの車の中で男達の笑い声が響く。




